コロナ前には大人気だったクルーズ。昨年からの新型コロナウイルスの感染拡大により、運航中止が相次ぎましたが、クルーズはコロナ禍でどのように変わったのでしょうか。クルーズコンサルタントで旅行ジャーナリストの村田和子さんが、10月に乗船した「にっぽん丸30周年記念クルーズ」をレポートします。来春には多くの外国客船も日本発着クルーズの運航を予定しているとのことで、今後のクルーズの展望などについても解説します。
- クルーズの今。日本船は本格的に運航再開の動き
- 乗船までの感染対策|水際を徹底しPCRは2回、乗船当日は午前中から集合
- 船内の感染対策【1】QRコードで管理&日に一度の体温測定を実施
- 船内の感染対策【2】船内は外気と約10分で入れ替わる!空気清浄機も設置
- 船内の感染対策【3】レストランはパーテーション設置、テイクアウトにも対応
- 船内の感染対策【4】屋外のアクティビティを増やし、密を作らない工夫
- プライスレスな船旅の魅力【1】三密とは無縁。大海原から絶景を楽しむ
- プライスレスな船旅の魅力【2】優雅な空間で食の楽しみも満載
- プライスレスな船旅の魅力【3】スタッフや乗客とのコミュニケーション
- 今後のクルーズ旅は?気になる外国船の動きはどうなる?
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クルーズの今。日本船は本格的に運航再開の動き
最近、「いつ頃からクルーズはできそうですか?」という質問を受けることが増えています。リピーターのかたはもちろん、コロナ前から興味を持っていたかたが、再び乗船を検討されているようです。
昨秋には、日本船が、(一社)日本外航客船協会が出している「外航クルーズ船事業者の新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン(国土交通省監修)」をもとに感染対策を施し、運航再開を決定。ただ、ほどなくしてコロナの感染拡大等により運航中止に。そのあとも企画しては中止が相次ぎ不安定な状況が続いていました。
ようやく全国的に緊急事態宣言があけた今秋、日本船3隻のうち「飛鳥Ⅱ」、「にっぽん丸」が運航を本格的に再開。「ぱしふぃっくびいなす」も年明け以降の運航再開を予定してます。
なお来春のゴールデンウィークにかけては、多くの外国船クルーズも日本発着クルーズを計画。日本船と比較して海外への立ち寄りがあるなど、クリアすべき問題はありますが、運航再開をすべく業界団体も政府等との調整、交渉を進めています。
乗船までの感染対策|水際を徹底しPCRは2回、乗船当日は午前中から集合
水際対策を強化しているクルーズ船。今回乗船した「にっぽん丸」では、PCR検査を事前に1回(自宅へ検査キッドが送られてきて郵送対応)、そして当日も出航は夕方ですが、港近くの宴会場へ午前中に集合し、検査を実施。検査結果が出るまでは、三密回避が徹底された会場で待機し、クリアしたらバスでそのまま港につけて乗船という流れでした。
「コロナをもちこまない」という面では、想像以上に厳格で安心感がありました。ただ結果が出るまで4時間近くかかり、乗る前から待ちくたびれるお客さんの姿もちらほらあり気になりました。
この点については、「船内で検査ができるようにすでに体制を整えており、近いうちに結果待ちの時間を大幅に短縮できるようになります」(にっぽん丸を運航する商船三井客船株式会社広報宣伝室)とのこと。
なお、万一乗船時のPCR検査で高リスク判定となった場合には、同室のかたも含めて乗船はできません。クルーズ代金については全額返金されるシステムです。
船内の感染対策【1】QRコードで管理&日に一度の体温測定を実施
クルーズでは、客室のキーとなりお財布にもなるID「乗船証」が付与されます。これをうまく活用して、感染対策や万一に備えているのが印象的でした。
例えば、船内のレストランやラウンジのテーブルにはQRコードが設置され、乗船証との紐づけをすることで、「いつだれが、どのテーブルを利用したか?」を管理。船内で感染が確認された際には、濃厚接触者が割り出せるようになっています。
さらに、1日に一度、乗船証をタッチして体温を測定することが義務づけられているので、早い段階で発熱なども感知ができます(検査をしていない人には、プッシュの連絡も)。さらに万一のために隔離部屋や陰圧テントなども準備があるといいます。
水際対策に加え、感染が万一確認された際にもスムーズに対応ができるようになっているのが乗客にも理解でき安心してクルーズライフを楽しめます。もちろんパブリックスペースでは、マスクの着用も義務づけられています。
船内の感染対策【2】船内は外気と約10分で入れ替わる!空気清浄機も設置
全客室および公室の一部は100%外部からの新鮮な空気を提供、一時間に6回、計算上は約10分に一度は外気と入れ替わるといいます。また、客室内には空気清浄機も設置されており、換気は十分に行われています。
なお、クルーズ料金の差は、客室のランクによるもので、サービスはほぼ同一(※スイート、デラックスタイプのみ追加サービスあり)。予算や好みに応じて選ぶといいでしょう。「にっぽん丸」の場合、デラックス以上の客室にはバルコニーがあるので(※一部除く)、客室でも開放感を味わいたいかた、あるいは密を避けたいかたは客室グレードを上げるのも一案です。
船内の感染対策【3】レストランはパーテーション設置、テイクアウトにも対応
レストランでは検温・消毒をして入店するほか、座席の間隔も十分。テーブルには透明のパーテーションも設置されています。スタッフはマスクに加えてフェイスシールドをつけており、感染対策もばっちり。
なおビュッフェは感染対策の観点から中止されており、朝食も和洋の定食のセレクト、あるいは洋のコースの提供となります。また、コロナ前は食べ物を客室に持ち帰ることはできませんでしたが、現在はラウンジ「リドテラス」で提供される軽食や飲み物などは、客室へのテイクアウトにも対応。乗客の希望にあわせて選べるようになっています。
ラウンジでは距離が保てるような座席配置にし、午後のアフタヌーンティーの際には、同室以外の人とは同じテーブルにならないように感染を広めない対策もとられていました。
船内の感染対策【4】屋外のアクティビティを増やし、密を作らない工夫
コロナ禍になり、スポーツデッキでのシャッフルボード(カーリングに似た玉突きゲーム)やエクササイズ、船からの景色を説明してくれるイベントなど、密になりにくいアクティビティを増やしているといいます。
また、シアターでは座席の距離を十分にとり、演者の前には透明のパーテーションが置かれるなどの配慮もありました。
対して、ヨガなどフィットネススタジオで開催のプログラムは、定員制で予約が必要となっています。カジノならびにソーシャルダンスやディスコのプログラムは、コロナ禍ということで現在は中止に。ダンスは距離を保てるように座ったまま行うソーシャルディスタンス・ディスコなど新しいメニューも登場し好評だといいます。
プライスレスな船旅の魅力【1】三密とは無縁。大海原から絶景を楽しむ
今回は、寄港地はなく、船上生活を楽しむ2泊3日のクルーズでした。伊豆諸島に行く予定でしたが「高波が予想されるため、横浜港から東京湾を経て翌朝には駿河湾へというルートに変更」とのアナウンス。翌朝、目覚めて外を見れば、雄大な富士山の美しいこと!
船では日の出、日の入り、そして海からみるさまざまな景色を堪能できます。コロナ禍を経たからこそ、この開放感や自然の美しさがたまらなく愛おしく思えます。
プライスレスな船旅の魅力【2】優雅な空間で食の楽しみも満載
クルーズは、朝食、昼食、ティータイム、夕食、夜食…と1日5食以上ともいわれるほど、食が充実。しかもクルーズ代金に食事代や飲み物(※アルコールや特別なドリンクは除く)は込みとなっているのもうれしいポイント。朝食や昼食は、複数のメニューから、好みや気分にあわせてチョイスができます。
プライスレスな船旅の魅力【3】スタッフや乗客とのコミュニケーション
船上ではプログラムを通じて知らない人と触れ合う機会があったり、毎日夕食会場であうスタッフと仲良くなったり。人との交流、コミュニケーションが醍醐味です。
コロナ以前のような密なコミュニケ―ションはまだ難しいですが、それでも乗船前に乗客もクルーもPCR検査をクリアしているので安心感があります。
久しぶりにお客さんを迎えてうれしそうなスタッフの姿や、「何度も中止になってやっと今回乗れた」と笑顔のご夫婦との会話などを通じて、「やはり船旅っていいなあ」と思わずにはいられません。
今後のクルーズ旅は?気になる外国船の動きはどうなる?
現在「にっぽん丸」では、最大定員の65%をめどにお客さんの受け入れをしており、船内で密を感じることはありません。私も感心したのですが、多くのお客さんから「船の上の方が安全」という声も多く寄せられているとのこと。
「にっぽん丸」では、2022年1月までのクルーズを発表し、現在予約受付中。すでに年末年始のクルーズはキャンセル待ちが出るほどの人気になっています。
マスク着用や感染対策で守るべきこともありますが、それでもクルーズは、ほかの旅には代えがたい魅力があると今回乗船し改めて感じます。
また、コロナ前には多くの外国客船も日本発着クルーズを実施、リーズナブルな料金でサプライズな体験ができると、シニアだけではなくファミリーやハネムーナーにも人気でした。実は来春ゴールデンウィークにむけて、「ダイヤモンドプリンセス」、「MSCベリッシマ」、「コスタセレーナ」などの外国客船が日本発着クルーズを予定しています。
ただ、外国船は一度海外に立ち寄る必要があることから、特に寄港地となる韓国・台湾などの海外旅行者の受け入れ体制がどうなるかが影響します。また海外旅行となるため、帰国時の日本での隔離期間(10月からは10日間)をクリアすることが必要となります。現在、こういった問題について、政府や港湾当局などを含め、検討・交渉が進められているといいます。
「にっぽん丸」に乗船をしてみて、クルーズ船の感染対策や万一の対応は思っている以上のレベルであること。旅行者の行動把握もクルーズはしやすいと感じます。
ヨーロッパなどでは再開・通常運航へ徐々に戻す動きもあり、(もちろん世界的な感染状況や船会社の方針にもよりますが)、外国船による日本発着クルーズも現実味を帯びてきたと私見ですが思います。
予約が始まっているクルーズもあります。状況は流動的ですが、先々の予定が決まると、それにむけて日々も楽しくなるもの。情報収集から始めてみるのもいいのでは?
■にっぽん丸クルーズ https://www.nipponmaru.jp/
◆教えてくれたのは:旅行ジャーナリスト・村田和子さん
旅行ジャーナリスト。「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」をモットーに、旅の魅力を媒体で発信。宿のアドバイザー・講演なども行う。子どもと47都道府県を踏破した経験から「旅育メソッド(R)」を提唱、著書に「旅育BOOK~家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ(日本実業出版社・2018)」。現在は50歳を迎え、子どもも大学生となり、人生100年時代を楽しむ旅を研究中。資格に総合旅行業務取扱管理者、1級販売士、クルーズアドバイザーなど。2016年よりNHKラジオ『Nらじ』月一レギュラー。トラベルナレッジ代表(https://www.travel-k.com/)。旅ブログも行っている(http://www.murata-kazuko.com/)。
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