地域や親族の輪のなか、あるいはビジネスシーンや趣味の活動において、何らかの作業を分担しているとき、メンバーに「こうしてくれると助かるのにな」「やり方をちょっとだけ変えてもらえないかな」と思うような場面があるのではないでしょうか。しかし、ちょっとのこととはいえ、他人に行動を変えてもらうようなことはなかなか言い出しにくいもの。毎回もやもやとしたものを抱えつつ、言わないままにしている人も多いと思います。
そこで、言いにくいけれど言いたいことがあるとき、どんな手順を踏むと、相手との関係を良好に保ったまま伝えられるのか、「言いにくいことを言う」5つのポイントをマナーコンサルタントの西出ひろ子さんに教えてもらいました。
何でもかんでも我慢しなくていい
もちろん、言いたいことがあるからといって、何でもかんでも自分の要望を相手に伝えてしまうのは考えもの。仕事にしろ趣味や親族のイベントにしろ、価値観や感性、習慣などが異なる別個の人間同士で一つのことに取り組むからには、多少のことは受け止めていく心、懐の広さと深さは持ち合わせていたいものですね。
一方で、「何でもかんでも我慢する必要もない」と、西出さんは指摘します。
「言わないほうが無難だから我慢しようという人も多いでしょうね。でも、言わないことがストレスになりませんか? 相手は特にこだわりがあるわけでもなくしていることで、あなたが少し不満に思っているようなことは、あなたが言わない限りは変わらないですよね。
本当はこうしてほしいのに、と思いながら不満を溜め込むぐらいなら、相手にそれを伝えて、調整や修正してもらえるようにお願いしてみることをおすすめします。気にしているのは案外あなただけで、相手は『あ、そうなの。じゃ、そうするね』とフラットに受け止めてくれる可能性も高いですよ」(西出さん・以下同)
TPPPOで言うか言わないかを判断
ただし、伝え方には細心の注意を払いたいところです。言い方を間違えると、相手が「今までずっと不満に思われてきたのか」とがっかりしたり、「自分が正しいみたいに、一方的に押し付けてきて不愉快」と腹を立てたりすることも。
具体的にシチュエーションを想定して、伝え方を考えてみることにしましょう。例えば、急ぎではない連絡でも、メールなどではなく電話をくれる人がいるとします。あなたは緊急でないならメールやLINEで連絡をもらいたいタイプで、電話はちょっとわずらわしい。今後も付き合いは続くので、変えてもらえたら助かるけど…。こんなとき、どう言えばいいでしょうか。
「まずはTPPPOを考えます。time(時)、place(場所)、position(立場)、person(人)、occasion(場合)。言えるなら言ったほうがいいですが、言わないほうがいい相手、場合もあるので、見極めは必要です」
電話で伝えても問題ないことも
この例でいうと、寂しさから電話という手段をあえて選んでいる親族であったり、コミュニケーション手段に関して対面が一番で二番目が電話といった格付けのようなものをこだわりとして持っている人であったりすると、伝えることで人間関係が悪くなりそうです。
「しかし、自分でそう固く信じているわけではなく、『とりあえずは電話だろう』というぐらいの気分で、音声通話を選んでいる人もいるので、そういう人には一度お願いしてみても、取り返しのつかないことにはならないでしょう」
言うなら相手の表情を見ながら
言うと決めたら、次はそれこそ連絡手段選びです。やはり、顔を合わせて言うべきなのか、メールに書き添えるほうが推敲できていいのか、迷ってしまいます。
「できれば、相手の表情を見ながらがいいですね。万が一、表情が硬くなったりして、意外と相手もこだわりを持っているところなのだとわかったら、すぐ引き返せるので。
リアルの対面もいいですが、オンライン通話の機会をうまく使うのがおすすめです。オンラインだと人の顔を遠慮なく見られるのではないでしょうか。だいたいの場合は参加者のバストアップが画面に映るので、表情を確認しやすいと思います。
それに、こちらの顔も相手に見てもらえます。言葉だけでなく、申し訳ないという表情も込みで伝えられるのは利点です。何かのオンラインの打ち合わせなどに便乗できるといいですね。
オンライン通話の機会がなければ、一緒にいるときでもいいですし、電話やメールのやりとりのなかで言い出しても構わないと思います。絶対、この手段でなければダメということはありません」
切り出すときは始めにお礼とクッション言葉を
そして、肝心な切り出し方です。まずはお礼から始めることが大切なのだとか。
「連絡手段について意見がある、ということはその前に連絡をいただいたわけですよね。そのことにしっかりお礼を言いましょう。『ご連絡ありがとうございます』『知らせてくださってありがとうございました』など、まず感謝の言葉から入ります」
こちらの勝手な都合で恐縮ですが
次に、クッション言葉。普段のちょっとした作業の分担をお願いするときなど以上に、ここはクッション言葉を大切にしたい場面です。
「『こちらの勝手で恐縮ですが』『こちらの都合で勝手を申しますが』などと入れるのがいいですね。こういうことは感覚の違いであって、あなたが正しく相手が間違っているわけではないので、あくまで“お願い”するつもりで言いましょう。間違っても常識を教え諭すつもりにならないで。自分の常識は相手にとっては非常識であったりします」
依頼形で言って理由を説明する
お礼、クッション言葉があって、ようやく本題に入るのが理想的な手順です。
「本題の伝え方ですが、『緊急でない場合は、メールやチャットでご連絡いただいてもよろしいでしょうか?』というように、必ず依頼形、問いかけの形で言いましょう。『~してください』『~してほしいんですけど』という言い方だと、相手にすれば押し付けられた感じがして印象がよくありません」
さらに、なぜそのお願いをするのか、理由を説明すると、感情の行き違いが起きにくいと言います。
「言いっぱなしにしないで、『仕事柄、どうしても電話に出られない時間が長くて、折り返しも遅くなってしまうので、メールなどのほうが確実かと思うんです』など、事情を明かすと、相手の納得感も高まります。どんなふうに言われたら、相手が“お願い”を気持ちよく聞けるのか、ぜひ相手の立場になって考えてみてください」
【1】お礼【2】クッション言葉【3】依頼形【4】理由の説明、の順番で
言うか言わないかTPPPOに基づいて判断。言うなら顔を見て、顔を見せて。言うときは【1】お礼【2】クッション言葉【3】依頼形【4】理由の説明の順番で。これらのポイントを押さえながら言えることは言って、互いに理解し合える関係を構築していきたいですね。
コソコソと愚痴や陰口を言うのではなく、心を配りながら疑問に思うことをきちんと相手に伝えることで、少しでも日々のストレスを減らしましょう。
◆教えてくれたのは:マナーコンサルタント・西出ひろ子さん
ビジネススタイリスト・マナーコンサルタント・美道家。HIROKO MANNER Group代表、ウイズ株式会社代表取締役会長。一般社団法人 マナー教育推進協会 代表理事ほか。大妻女子大学文学部国文学科(現・日本文学科)卒業後 国会議員などの秘書を務めたのち独立。あらゆるマナーに精通するマナーコンサルタントとして、名だたる企業300社以上のマナーコンサルティングやマナー研修を行う。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』、映画『るろうに剣心 伝説の最後編』などのマナー指導やマナー監修も務める。テレビ番組におけるマナー指導などメディア出演は800本を超える。著書は、最新刊「マナー講師の正体 マナーの本質」ほか、2003年12月以来、海外を含め95冊以上を出版している。https://www.withltd.com/
※「TPPPO」は、西出博子さんの登録商標です。
取材・文/赤坂麻実