47歳のときに専業主婦から17年ぶりにキャリアを再開し、いまや外資系ホテルの日本法人社長を務める薄井シンシアさん(63歳)。そんな彼女に、専業主婦時代から現在までの紆余曲折な人生を語ってもらう連載「もっと前向きに!シン生き方術」。どんな境遇の人であれ、きっと人生の歩き方のヒントが見つかるはず。今回は、再就職したタイの学校のカフェテリア時代について。マネージャーを任されたシンシアさんが年間売上高を1億円の大台に乗せた方法とは?
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「お客さまのニーズを叶える」ことに懸命になる
最初はタイの小学校のカフェテリアで子供たちの面倒を見る仕事だったのが、わずか3か月後、その小中高一貫校の中等部、高等部も含めたカフェテリア全体のマネージャー職のオファーをいただきました。これにより、お客さまの規模は700人から2500人になり、業務範囲も一気に広がります。
今度はカフェテリアで提供するメニューも私が決定できたので、子供たちはどんなものが食べたいのか、とにかくよく話しかけてリサーチしました。
小学生は口をそろえて「パンケーキが食べたい!」と言うので、毎週金曜日を「パンケーキの日」にすることを子供たちと約束しました。「金曜日はパンケーキとフレンチトーストが食べ放題だよ。その代わり、他の日はレインボー(栄養に偏りがないように色とりどりの食材を)食べようね」という約束です。
子供たちは喜ぶし、食堂としても週に1回、ランチのメニューが2種類になったら、厨房の稼働や食材コストを圧縮できます。一石二鳥でした。こんなに誰も彼もパンケーキが大好きなんだと分からなければ、取り入れられない施策でしたね。対話って大切です。客商売ならなおさら、何はともあれ、お客さまの要望を聞かなくちゃ。
仕事とはニーズに向かって頭を使い、力を尽くすもの
当たり前のことを言っていると思うでしょうか。でも、大手企業であっても会議やワークショップで大真面目に「あなたにとって○○の定義とは」などと、内輪で意味や概念を語り合ってそこからアウトプットしようとする組織は実際にあるんですよ。私はお客さまの望みを起点にして考える。お客さまの満足に向かって頭を使い、力を尽くす。仕事とは、そういうことだと思っています。
先入観にとらわれず相手の話をよく聞く
子供たちからは「お寿司が食べたい」という要望も多く聞かれました。日本人の感覚では、タイの学校でお寿司を提供するのはいかにもハードルが高そうですよね。生魚を扱うのも大変だし、新鮮なものは仕入れ値も高いでしょうし、料理人にも技術が求められます。
だからといって即座に「それは無理だね」と言ってしまうと何も始まらないので、「好きなお寿司の具(ネタ)は何? お寿司をいつもどこで食べてる?」と質問してみました。子供たちの答えは「玉子のやつ、レストランで食べたよ」「きゅうりのがおいしいんだよ」などなど。なんのことはない、かっぱ巻きが食べたかったらしいのです。
それで巻き寿司の企画を温めていた頃、飛行機に乗ったら偶然にも夜食が巻き寿司でした。コンビニの納豆巻みたいに個別に包装されているものを見て、「これだ!」と大興奮。その包装紙を大事に持ち帰りました。
タイの材料屋さんに、「これぐらいの大きさの包装できる巻きものがほしい」と持ち掛け、環境に配慮して紙(ケーキの敷紙のような素材)にすることで話がまとまりました。のりにご飯、具は4種類で豚カツ、ツナ、玉子、きゅうり。それを紙で包みます。単価は30バーツ(約100円)にしました。カフェテリアではカオマンガイとかパッタイとか、タイ料理が1皿30バーツ程度なので、なかなかのお値段です。
朝からその巻き寿司を作ってサラダバーに並べました。子供たちはギリギリまで寝ていて家で朝ご飯を食べる時間がなかったりするので、通学バスから降りてワーッと流れてきて、お寿司をさっと取って教室で1限目が始まる前に食べるようになりました。男の子なんか一度に5本持っていきます。朝からお客さま1人で150バーツ使ってもらえたら、タイでは大繁盛です。「お寿司が食べたい」と言われたとき、先入観のままに握り寿司を用意するのではなく、子供たちによく話を聞いてみて本当によかったです。