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夫を良き“家事のパートナー”にする心得「初期型の食洗機と思うべし」「一緒にはやらずリーダーとして任せる」

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夫を良き“家事のパートナー”にする心得とは?(Ph/イメージマート)
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夫が家事をやってくれるけど、やり方の違いでストレスに…。そんな悩みを持つ妻は多いでしょう。そこで、ベストセラー『夫のトリセツ』(講談社)の著者で脳科学・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんに、夫をよき“家事のパートナー”にするための心得や秘訣を教えていただきました。

【相談】
子供が一人暮らしを始め、夫と2人だけの生活になったことをきっかけに、夫が家事をやってくれるようになりました。ですが、食器の洗い残しがあったり、洗濯物がいびつに畳まれていたりと、作業の雑な部分が気になり、逆にストレスになっています。手伝ってくれること自体はすごくうれしいのですが、どうすればよいでしょうか。(49歳・主婦)

* * *

「今日の“できてない”」に目をつぶり、「今日の“できたこと”」に感謝を

残念ながら、これが、他人に仕事を任せるということなのです。

その家の主婦以上に、その家の家事を完璧にこなせる人はいないはず。だとしたら、主婦には、かならず粗が見えてしまうもの。その粗とどう付き合うかが、「家事のパートナー」育ての肝となります。夫のみならず、息子のお嫁さんだって同じこと。将来、身体が動きづらくなって、他の誰かに家事をやってもらうときだって、同じ葛藤があるかもしれません。

まず、いったんは、「今日の“できてない”」に目をつぶること。つらいでしょうが、第一歩はそこからです。そして、「今日の“できたこと”」に感謝しつつ、少しずつ、ステップアップしてもらいます。

なお、家族を家事に巻き込む時には、「専門職」から始めてください。あらゆることに手を出させると、収拾がつかなくなります。

夫は初期型の食洗器のようなもの、自分が仕上げをするつもりで

わが家が最初に食洗器を導入したのは、1996年頃だったと記憶しています。まだ、食洗器が珍しい時代でした。今の食洗器よりも、洗い残し率が高かったように思います。

家事する夫婦
夫は初期型食洗機?(Ph/イメージマート)
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わが家は、私より夫のほうが几帳面で、食洗器に食器を入れるのに、わざわざ洗剤を使って軽く食器を洗ってから入れる癖がありました。

私は、何度も、「そのまま食洗器に入れて。食洗器を導入した一番の理由は、節水なんだから。そんなに水をじゃぁじゃぁ流して洗っていたら、節水の意味がない」と言うのですが、彼は下洗いを止められない。たまに洗い残しがあるのが、気になって仕方がない、と言うのです。

そこで、私はこう言いました。「食洗器はアメリカで誕生したものでしょう? だったら、使うときは、アメリカ人にならなきゃ。つまり、多少の洗い残しは洗いなおせばいい、くらいの気持ちで、ど~んと構えなきゃ」(アメリカ人が、そういう合理性の持ち主かどうかは定かではありませんが、私たち夫婦には、そんなイメージがありましたので)。

食洗器から、食器棚に移すときに、気になったら、再度洗えばいい。最初に完璧を期して、下洗いをしてから入れるのなら、食洗器の意味がない。そういう合理性がなかったら、初期型の食洗器は導入してもストレスになるだけでした。

「できなかった」ことは「やり直せばいい」くらいの気持ちで

結婚して何十年も家事をしてこなかった一般的な夫は、「初期型の食洗器」のようなもの。やらせてみて、「できなかった」ことは「やり直せばいい」くらいの気持ちでど~んと構えないと、始まりません。

洗い残しも、斜め畳みも、やり直せばいいだけのこと。なぜ、そんなに目くじらを立てるのでしょう?

人に家事を任せるとき、任せたら完了だと思うから、不完全な部分が「手戻り」になって腹が立つ。人に家事を任せるときは、「自分が仕上げをする」つもりで任せます。そうすれば、不完全な部分が“想定内”なので、腹が立ちません。

その心の余裕で、少しずつ、こちらの要望を伝えていけばいいのです。

最初は感謝から始める

初めてしたことは、感謝や称賛から始めます。何ごとも、最初の印象が、とてもとても大事だからです。

歌舞伎の名門では、幼い子をデビューさせるとき、細心の注意を払うと言います。ひいき筋にご挨拶して回り、花道をひいき筋で埋める。先代、先々代からのご贔屓さんたちは、愛らしい後継者が登場しただけで、どっと沸いてくれる。手を挙げれば拍手、足をあげれば拍手、転んでも拍手。自分の一挙手一投足に、客が喜んでくれる。

そんな初舞台の「成功体験」は、潜在意識の奥深く入り込み、これからの役者人生のすべてにわたって支え続けると信じられているからです。実際、そうである役者さんたちが多いのでしょう。

家事を手伝えば、妻が幸せになる。そんな刷り込みがまずは必要です。

最初のうちは、とにかく感謝して、前回よりも成長があれば、それを讃えます。3歳の歌舞伎役者が、桃太郎の衣装を着て、一生懸命舞台で踏ん張っているのと同じだと思ってみて(微笑)。

専門職(リーダー)になってもらう

家事のパートナーとしては、「あらゆることをちょこっと手伝ってもらう」が、一番便利なのですが、それだと。夫の「できないこと」が、自分のタスクの手戻りとなって、イライラすることから抜け出せません。

なので、基本、家事は一緒にはやらない。相手に、最初から最後までを任せる担当制にすることをおすすめします。

わが家の夫は、「洗濯リーダー」「麺ゆでリーダー」「お風呂のカビ取りリーダー」「ガーデニングリーダー」「着物着つけのサポーター」です。もちろん、私も洗濯を手伝いますが、あくまでもリーダーは彼。なので「洗濯機、一回、回してもいい?」のように、お伺いを立てます。彼には彼の洗濯プランがあるからです。

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専門職になってもらうのがカギ(Ph/イメージマート)
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定年退職後の我が家の夫は、かなり完璧に洗濯をこなしていますが、ここまでくるには、けっこう長い道のりがありました。何せ、最初は、洗濯機に洗剤を入れることも知らなかった人ですから。持ち前の几帳面な性格も手伝って、今やプロフェッショナルと呼びたいレベル。畳み方も、「ホテルか!」と言うくらいの出来です。

現役バリバリ世代の夫たちには、いきなり洗濯リーダーは難しいでしょうから、「麺を茹でる」とか「庭の水やり」とか、ライトなタスクから始めては?

「麺を茹でるのは、これから、あなたの役割にしてほしい。私はよく茹ですぎるから。その代わり、あなたの使いやすい道具を揃えるわ」のように。

男性脳は、一つの目的に向かって邁進するのが得意です。ときにはそばを茹で、ときには肉を焼き、ときにはマヨネーズを取ってほしい、と言うマルチタスクに応えるのには向いていないので、モチベーションが上がらないのです。

わが家の夫のそばゆでの腕も、いまや超一流。市販の乾麺が、生麺のような味わいに仕上がりますよ。専門職制、お試しあれ。

「だから言ったでしょ」は禁句

よほどのことがない限り、基本的に、リーダーのやり方は尊重します。

洗濯リーダーとなった夫は、洗剤からピンチングハンガーまで、自分の好みに換えました。夫と私では「使いやすさの種類」がかなり違うので、びっくりしました。私の土俵で、「精度を上げろ」と言っても無理だったんだなと、改めて納得。

それでも、私が気になったことは、「リーダーへの提言」として行います。例えば、なんでも太陽光にさらしたい夫に、「私やおよめちゃんのおしゃれ着や、こたろうさん(孫)のものは陰干しにしてほしいの。紫外線で線維がかたくなるから」と言ったりしています。

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言ってはいけない言葉も(Ph/イメージマート)
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向こうも、自分が洗濯リーダーとはいえ、私が35年も先輩なのを納得しているので、私の提言を、いきなり拒絶はしません。それでも、たまに隠れて太陽光で干すので、せっかくの孫用の今治タオルがごわごわになって、私にクレームをつけられることも。不具合な結果が出れば、次からは徹底してくれます。

一度や二度の失敗は、有能なリーダーを育てるための“投資”と心得て(今治タオルは痛かったけど(涙))。

がみがみ言って、結局、不具合な結果を見ないままでは、夫の側には「妻にとやかく言われる」というイメージしか残りません。優しく提言して、聞かない夫には失敗を体験してもらうのが一番。

ただし、気を付けて。「だから言ったじゃないの」は禁句です。相手の脳に強い反発心が起こって、脳の学びにならないからです。反発心は、すべての脳の学びをチャラにします。

「こんなふうに、なっちゃったの。どうしてかな。日向に干していないはずなのに」と、すっとぼけて悲しがってみてください。

人を育てるということ

やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ。

話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たじ。

やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。

——かの有名な山本五十六のことばです。

家事を分担するとき、私は、このことばを復唱しています(微笑)

家事は、非常に複雑なマルチタスク。人工知能が最後までできないタスク分野とも言われています。一朝一夕では身に付きません。特に男性脳には、苦手な分野。どうか、温かく見守ってあげてください。

◆教えてくれたのは:脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん

脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん
脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん
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株式会社 感性リサーチ代表取締役社長。人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員。人工知能(自然言語解析、ブレイン・サイバネティクス)、コミュニケーション・サイエンス、ネーミング分析が専門。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳と言葉の研究を始める。1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピューターの日本語対話に成功。このとき、対話文脈に男女の違いがあることを発見。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。2018年には『妻のトリセツ』(講談社)がベストセラーに。以後、『夫のトリセツ』(講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)、『息子のトリセツ』(扶桑社)など数多くのトリセツシリーズを出版。http://ihoko.com/

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