「お昼、何?」に妻は絶望する
家事が増えることは妻にとって大きな負担となりますが、ストレスの原因はタスクの量だけではありません。「お昼、何?」のように丸投げしてくることばにやられてしまうのです。「お昼なんか、当然、お前の仕事だ」という威圧を感じ、思いやりのかけらもないその態度に、絶望していきます。さらに、こういう言い方をする夫は、昼食が出来上がって呼ばれてから、のうのうとリビングにやってくる。食器を運んだり、調味料を出したり、コップにお茶を注いだりすることもなく、黙って食べ始めます。妻を、社員食堂のスタッフほどにも認知していない。当然、妻の心の中で、愛情ポイントが消えていきます。毎日毎日、けっこうな量ポイントが失われていくのを、夫はまったく感知していない。私には、ホラー映画の始まりのシーンにしか思えません。くわばら、くわばら。
実際に食事を作るのが妻であったとしても、3回に1回くらいは、自発的に昼食に参加するのが共に暮らす大人のマナー。「今日、蕎麦はどう? 俺が茹でようか」「散歩がてら弁当買いに行くけど、お前は何がいい?」などと聞いてあげてほしいと思います。タスクそのものの軽減も重要ですが、もっと大事なのはことばです。
男性の「どうする?」は実はおもてなし
ただ、女性にも理解してほしいことがあります。女性からしたら本当に思いやりのカケラもない男性の行動ですが、これも脳が関係しています。女性は、大切な友人が来てくれたときに、「何食べる?」とは言いません。「あなたに食べさせたいイタリアンがあるから、そこのランチに行かない?」と声をかけます。女性にとって、“提案はおもてなし”だからです。ところが、男性にとっての提案は、自分の意見を相手に言って、相手が従うかどうかを確認する行為。ですから、「どうする?」「何にする?」と聞くこと(相手に全権を預けること)が、実は一番のおもてなしだと思っているのです。
つまり夫が「お昼、何?」と聞いてくるのは、本当は「きみが一番楽なやり方でいいよ」という意味。女性からするとそうは聞こえませんが、機嫌のいい女でいるためには、夫のことばを深読みしないというセンスも必要です。
◆著者:人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子
1959年長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、”世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。著書に『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)『思春期のトリセツ』(小学館)『60歳のトリセツ』(扶桑社)など多数。