エンタメ・韓流

ダーティーな山田涼介が切り開く新境地「軽薄で恐ろしく、振り切れた姿」がリアル

『燃えよ剣』に続く原田組

山田さんが原田監督の作品に出演するのは、『燃えよ剣』に続いて二度目のこと。司馬遼太郎さんの名作を映画化したこの作品は、あの新選組の活躍を描いたものでした。

幕末の世にその名を轟かせた伝説的な集団・新選組――。山田さんが演じたのは沖田総司です。

この沖田といえば天才的な剣士として知られ、幕末を舞台とした多くの作品に重要人物として登場します。これまでにも名だたる名優たちが演じてきたキャラクター。新選組を描いた作品とあれば、彼がどのような位置づけで活躍する存在なのか、ご覧になっていないかたでも想像がつくでしょう。

『燃えよ剣』もまた、原田監督の思い入れの非常に強い作品でした。そのような作品で沖田総司役を山田さんに託したことは、彼に対して厚い信頼を寄せている証でしょう。

サイコな演技で新境地へ

そして再タッグとなった本作では、主演の安藤さんとともにその看板を背負っているわけです。演じているのは裏社会で生きるジョー。サイコパスなところのあるキャラクターです。

『BAD LANDS バッド・ランズ』場面写真
(C)2023「BAD LANDS」製作委員会
写真8枚

サイコパスとはいえ、彼は人間的な感情を失っているわけではありません。喜びを感じれば、恐れを感じもする。ただただヤンチャで、ときに取り返しのつかない、行き過ぎた言動をとってしまうだけなのです。

取り返しのつかない、後戻りができない状況に、ジョーはたびたび追い込まれます(というより、ほとんど自らを追い込んでいるというほうが正確かもしれません……)。こういった瞬間に、ジョーの内部で感情が目まぐるしく変化している状態の表現が秀逸です。歪んだ表情が覚悟を決めたように引き締まり、震えていた声もハリのあるものに。

そこでは焦燥感が恐怖感となり、恐怖感が高揚感となり、高揚感がやがて恍惚感にまで達しているように思えます。これがジョーのことを“サイコパスなところのあるキャラクター”だと感じるゆえんでしょう。

『燃えよ剣』では美しき伝説の人斬りを見事に演じきってみせた山田さんですが、今作ではダーティーな役どころでサイコパスな演技を展開。非現実的なキャラクターではありますが、その軽薄で恐ろしい性格や、後戻りできずに振り切れていくさまは非常にリアル。俳優として新境地を切り開いているように思います。

ネリとジョーの姿を見て思うこと

裏社会でもがくアウトローに焦点を当てた本作ですが、彼・彼女らはいわゆる日陰者。この物語の世界の主人公であっても、現実世界で主人公になることは難しいでしょう。いや……果たしてそうでしょうか。

『BAD LANDS バッド・ランズ』場面写真
(C)2023「BAD LANDS」製作委員会
写真8枚

私たちの生きる社会でも“闇バイト”なる存在が世間を騒がせています。そこには当然ながら、弁解の余地のない、救いの手を差し伸べる余地のない絶対悪が存在しているのでしょう。けれども望んでいないにもかかわらず、その世界でしか生きられなくなった人々も多くいると聞きます。

そこには一人ひとりが主人公の物語があるはず。もちろん、一線を超えてしまっては、後戻りをするのは難しいでしょう。ですが、そこに至らざるを得ない特別な事情があるのかもしれません。同じ社会を生きている以上、できればそういった背景にまでも目を向ける努力をしたいと、ネリとジョーの姿を見て思うのです。

◆文筆家・折田侑駿

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
写真8枚

1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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