不安の先にある開放感、絶望の先にある希望
思い出してみれば、私にとって2000年は、かなり不安なときだった。「1999年地球は滅びる」というノストラダムスの大予言など信じてはいなかったが、それでも、1990年代後半、阪神・淡路大震災やオウム事件など様々な出来事が続き、「何があってもおかしくない」とヒヤヒヤした。
無事2000年に入り、ホッとしながらも、なんだか今度は「結局世の中は変わらず続く」と確定したことに気が遠くなるというか、新たな不安を覚えたりもしたのである。
『Last Smile』は、当時抱いていた、当たり前のことが終わっていく不安のその先の開放感、絶望の先にある希望もちゃんと思い出せ、不思議とホッとするのだ。だから今も、一度再生を押せば、もう一回、もう一回、と繰り返し聴いてしまうのである。
そんななか、最近、ラジオでラブサイケデリコの新曲が流れてきた。2023年9月20日配信開始の『All the best to you』。近年の曲はあまり聴いていなかったが、一発で彼らとわかる声とメロディー!!
ああ、なんとも風のように吹き抜けるように自然! なんだか泣きたくなるような明るいメロディーが、そよそよとそよいできた。不思議な哀愁と、聴いた後に残る開放感は今もすばらしい。
ラブサイケデリコの楽園は、まだまだ美しい景色が広がっている。「向こう岸」だけではない、広がる世界に改めて浸ってみたくなった。
髪をかき上げ、微笑みを称えて。
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka