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「ライバルを蹴落とそうする人」よりも「ライバルの成長を願う人」のほうが高いパフォーマンスを発揮できるのはなぜか

海と空をバックに立つ女性
「運のいい」考え方や行動パターンを習慣づける方法とは(Ph/GettyImages)
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「私は運が悪い」とあなたは思っていませんか? でも実は「運がいい」と思っている人も「運が悪い」と思っている人も遭遇している事象は大差が無い場合が多いのです。「運」というものは必ずしも、その人がもともともっていたり生まれつき決まっていたりするものではなく「その人の考え方と行動パターンによって変わる」のです。「運がいい人」は自分の脳に「運が良くなる」考え方や行動パターンを習慣づけているとも言えるかもしれません。それではどのようにしたら良いのでしょうか? 脳科学者・中野信子さんの著書『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成し、「運のいい」考え方や行動パターンを習慣づける方法を紹介していきます。

運のいい人はライバルの成長も祈る

あなたにはライバルといえる仲間がいますか。もしいるとしたら、あなたはその仲間の成長を心から願うことができるでしょうか。

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運のいい人は、仲間の成長を願うことができる(Ph/PhotoAC)
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その仲間が、あなたと同じひとつの昇進ポストを狙っているとしたら、または同じスポーツチームのレギュラーの座をとろうとしていたら、あるいは同じ人に思いを寄せているなど、まさに競争相手だとしたら、その仲間の成長を心から願うのはむずかしいかもしれません。それどころか「負けてほしい」と思うのが本音かもしれません。

しかしそんな本音はギュッと畳み込んでどこかに捨ててしまい、仲間の成長を心から祈ってください。それがあなたの成長にもつながるからです。というのは、人間の脳はもともと共生を好むのです。

私たち人間が出現したのはいまから2万5000年くらい前のことですが、人間はこれまでずっと、基本的にほかの動植物と共に生きてきました。たしかにここ数百年のスパンでみれば、人間のエゴによって住環境を脅かされ、絶滅に追いやられてしまった動植物も少なくはありません。しかし長い人類の歴史のほとんどでは、ほかの動植物と環境をうまく共有し、共生してきたのです。逆にいうと、人間はほかの動植物と共生することで生き延びてこられたのです。

人間の脳はもともと共生を好む(Ph/イメージマート)
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また、アメリカの精神医学者、ポール・マクリーンの「脳の三層構造」というものがあります。この理論は、「人間の脳は、行動様式の変化と共に進化してきた」というもの。彼は、脳を次の3つの部分に分けて、それぞれ名前をつけました。

【爬虫類脳】
脳幹、視床の一部、線条体などからなる。呼吸・心拍数・体温の調整、反射行動、感覚情報の処理など基本的な生命維持の機能を担う。
【旧ほ乳類脳】
扁桃体、視床下部、海馬などの大脳辺縁系からなる。記憶と学習、恐怖心、不安、快楽、危険から逃避する反応などを担う。
【新ほ乳類脳】
大脳新皮質の部分。思考、言語、適応性、計画性などを担う。

彼は、人間の脳は、爬虫類脳 → 旧ほ乳類脳 →新ほ乳類脳の順番に進化してきた、という仮説を立てました。簡単にいってしまうと、もっとも古い爬虫類脳は個人が生きるための脳、旧ほ乳類脳は個人の生命維持から一歩進んで、種の保全のために働く脳、そして新ほ乳類脳はもっとも人間らしい脳とも呼ばれる部分で、社会的な関係をスムーズに進めるための脳、いわば共生を志向する脳です。人間の脳は自分の命を守ることから始まって、他者と共に生きるためという方向で進化してきた、といえるでしょう。

自分だけのしあわせを願うより、3人のしあわせを願うほうが、脳は力を発揮する(Ph/GettyImages)
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つまり、脳は戦ってだれかを蹴落とすことより、共生をめざすことのほうが高いパフォーマンスを発揮できるのです。よって、ライバルの成長も祈るのです。

もしライバルが、同じスポーツの対戦相手だったら、相手が最高のパフォーマンスを見せることを願う。そして自分も最高のパフォーマンスで挑むことを考えるのです。同じ大学や会社をめざしている相手だったら、共闘相手として共に合格することを祈るのです。

同じ人に思いを抱いている場合は、ダイレクトに相手の成功を祈るのは少しむずかしいかもしれませんね。この場合は少し角度を変えて、意中の人、ライバル、自分の3人がいちばんいい方向へいくことを願ってみてください。自分だけのしあわせを願うより、3人のしあわせを願うほうが、脳は力を発揮するはずです。
(了)

◆教えてくれたのは:脳科学者・中野信子さん

中野信子さん
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東京都生まれ。脳科学者、医学博士。東日本国際大学特任教授、森美術館理事。2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。著書に『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)、『脳の闇』(新潮新書)、『サイコパス』(文春新書)、『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)、『毒親』(ポプラ新書)、『フェイク』(小学館新書)など。

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