血管と心臓に障害をもたらす「高血圧」
血液が血管にかける圧力のことを血圧といい、この圧力が高い状態が高血圧と呼ばれます。高血圧も、血液のよどみと関係があると富永さん。
「血液が流れにくい状態になってしまうと、心臓は体のすみずみまで栄養を届けようと、いつも以上に頑張りはじめます。ところが、心臓から血液を血管に押し出していても、健康なときのようにうまく流れません。先に出た血液がよどんでいるところに、あとから出た血液が押し込まれ、『のろのろ渋滞』のように進んでいくわけです」
つまり、血管内は血液でぎゅうぎゅう詰めになっていて、血管に高い圧がかかることになります。なお、日本高血圧学会のガイドラインでは、最高血圧(心臓が収縮して血液を押し出す、血管に一番強い圧がかかる瞬間)は140mmHg以上、最低血圧(血液が送り出したあと、心臓が広がったときの血管の圧力が一番低くなるとき)は90mmHg以上で、どちらかが高くても高血圧と診断されます。
そんな高血圧の一番の問題は、動脈が痛みやすくなることだといいます。
「血管を流れる血液がよどみ、停滞する量が増えると圧力が高くなります。こうなると動脈につねに負荷がかかり、一部が傷つき、修復するうちに血管の壁が分厚くなっていきます。そこにコレステロールなどが加わると、動脈がやわらかさやしなやかさを失い、かたくなる。これが動脈硬化です」
また、心臓は高い圧力に負けじと血液を送り出し続け、心臓への負荷も高くなるため、高血圧になると血管と心臓両方に障害をもたらす。また、動脈硬化になると血管が血栓で詰まるリスクも高まり、血栓が詰まる場所によって、心筋梗塞、脳梗塞、腎梗塞などと呼ばれます。
血栓とは、血管の成分や血管壁がはがれたもの。血液中の脂質が増えすぎて血液に溶けきらない脂質は血管の内側にたまって山になります。山やその周辺は硬く、しなやかさを失ってもろくなり、血栓の原因となります。血液中の脂質が増え「脂質異常症」という状態になってしまうと要注意です。
脳への血流量減少が認知症の原因のひとつ
富永さんによると、認知症の原因のひとつに脳への血流量の低下があるそうです。
「健康な脳は、血液の供給がつねに一定に保たれているものです。脳には全血液の15%が集まっていますから、かなりの血流量です。しかし、70歳になると、15歳のときの血流と比べて30%ほど減少することがわかっています」
首や肩の血流をよくすることで、「脳へストレスなく栄養と酸素を送ることができ、結果的に、認知症を遠ざけることができる」のだと富永さんはいいます。
いすに座ったままできる「1分間血流アップ体操」
首や肩の血流にもアプローチできる、富永さん考案の「1分間血流アップ体操」。全5つの中から、ひとつを教えてもらいました。
<「肩スットン体操」のやり方>
いすに腰掛け、目を閉じて、手を握り、肩をグーっとあげるだけの体操です。肩を下ろして一気に体の力を抜き、手のひらを開いたときに、指先がビリビリしたら、血流がよくなった証拠です。
【1】いすに深く腰掛け、手は太ももの上で軽く握る。目をつぶって肩をグーっとあげる。このとき、鼻から息を吸う。
【2】目を閉じたまま、口から息を吐き、手を開いて肩をスットンと下ろす。このとき、手も開いて。これを3回くり返す。
腕ではなく、肩だけを上げ、腕はそれにつられているイメージで行うのがポイント。鼻から息を吸い、肩をグーっと上げきったところで、今度は息を口から吐き、一気に体の力を抜きましょう。
「手のひらを開くと、指先がビリビリしているはず、これは血流がよくなった証拠です!」
◆教えてくれた人:医師・富永喜代さん
とみなが・きよ。富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会認定麻酔科指導医。呼吸と循環、血液コントロールのスペシャリストとして、全身の病気と血流について豊富な知識を有する。聖隷浜松病院などで麻酔科医としてのキャリアを積み上げ、臨床麻酔実績は2万人超。2008年に愛媛県松山市で開業。YouTubeチャンネルは登録者数25万、オンラインサロンは会員数1万5000人を超え、SNS総フォロワー数は39万人。NHK『おはよう日本』、TBS『中居正広の金曜日のスマたちへ』などメディア出演も多数。著書に『血流がすべて 血流コントロールの名医が教える わずか1分でできる「すごい血流改善法」』(アスコム)など、著書累計95万部のベストセラー作家である。