上野樹里さん(37歳)が主演を務め、共演に林遣都さん(33歳)を迎えた映画『隣人X -疑惑の彼女-』が12月1日より公開中です。作家・パリュスあや子さんの小説を映画化した本作は、“よそ者”に対する人々の警戒心や偏見が溢れる中、とある男女の心の交流を描いたもの。現代社会を反映したような、切実なテーマを持った作品に仕上がっています。今回は、本作の見どころや林さんの演技について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。
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上野樹里×林遣都の初共演作
本作は、第14回小説現代長編新人賞を受賞したパリュスあや子さんの小説を、実写版『心が叫びたがってるんだ。』(2017年)や『おもいで写眞』(2021年)などの熊澤尚人監督が新たな視点を盛り込み映画化したもの。
故郷を追われた“惑星難民X”を受け入れる日本を舞台に、“よそ者”に対する人々の警戒心や偏見、恐怖、そしてそれらを乗り越えた先にある心と心の結びつきを描き出している作品です。
主演の上野樹里さんは『虹の女神 Rainbow Song』(2006年)で、林遣都さんは『DIVE!!』(2008年)で、それぞれ熊澤監督とタッグを組んだ経験があります。つまりは両者ともに、キャリアの初期の時点で熊澤作品に参加をしている。
そんなふたりが長い時を経て再び熊澤作品に参加し、初共演を果たしているのです。
“誰かを愛すること”の真実を描いた物語
物語の舞台は、故郷を追われた“惑星難民X”の受け入れを発表した日本。
Xは人間の姿をそっくりにコピーし、この社会の日常に紛れ込んでいます。Xがどこで暮らし、何を目的としているのか誰も知りません。人々は不安や恐怖を抱き、もしかすると隣にいるかもしれないXを見つけ出そうと躍起になります。
そんなある日、週刊誌記者の笹憲太郎(林)はスクープのために自らの正体を隠し、Xかもしれないとされる柏木良子(上野)へと近づきます。
2人の距離が縮まっていくうち、やがて笹の中には本当の恋心が芽生えることに……。けれども彼は、良子がXかもしれないという疑念も捨てきれずにいます。
良子への想いと本音を打ち明けられない笹は、罪悪感に苛まれ板挟み状態に。そうして日々を過ごしていくうち、彼はひとつの“真実”にたどり着くのです。
上野樹里を筆頭とした手堅い布陣
本作はSF、ミステリー、ラブストーリー……と、いくつものジャンルを横断しながら物語を展開させていくもの。これが7年ぶりの主演作となった上野さんを筆頭に、手堅い布陣によって実現しています。
上野さんが熊澤監督とタッグを組むのはなんと17年ぶりのことで、『虹の女神 Rainbow Song』は彼女のキャリア初期の傑作です。こうして再タッグを組むことにはそれ相応の覚悟が必要だったはず。台本を読んですぐに監督に電話をかけたといいます。
やがて立ち上げられた柏木良子とは、日々を丁寧に生きる女性です。彼女はXをめぐる社会の騒動に惑わされることなく、穏やかな日常生活を送っています。上野さんの演技は抑制の効いた、極めて静的なもの。けれども林さん演じる笹の登場によって少しずつ変化していく。そんな心の動きを、その表情や声などの細やかな動きに乗せて表現しています。
物語は「誰がXなのか?」をめぐる騒がしいものですが、地に足のついた女性を体現する上野さんの淡々とした演技が作品全体を引き締めています。
台湾で大人気のファン・ペイチャさんが良子と同じくX疑惑のあるリン・イレンを、野村周平さんが彼女の心の拠り所となる仁村拓真という男性を本作では演じています。
さらに、川瀬陽太さん、嶋田久作さん、バカリズムさんが記者である笹の上司役に。原日出子さんと酒向芳さんが良子の両親役に配されています。
この座組を上野さんとは対照的な動的な演技で牽引しているのが、15年ぶりの熊澤監督との再タッグとなった林遣都さんなのです。