真のコミュニケーション上手は「TPO顔」
では、目指すべきは笑顔でなく、どんな顔でしょうか? それは「TPO顔」。具体的に説明すると、時と場所に応じてセレクトされた、もっとも適切な表情のことをいいます。
私から見て、この「TPO顔」が上手だなと感じるのは、いわゆるVIPとされる人たちに多く存在します。社会的立場が高い人たちは、場に応じた的確なコミュニケーションを求められる機会が多いので、必然的に鍛えられているのでしょう。
逆にいえば、TPO顔を使いこなせる人だからこそ、社会的立場が上がっていくのかもしれません。たとえば、ある高名な政治家の演説を見ていると、支持者に無邪気な微笑みを向けたかと思えば、厳しい口調で政策を訴えかけたりと、表情の振り幅がとても大きい。
百戦錬磨の政治家ですから、そのとき、その場でもっとも人の心をつかめる表情、自分の思いを効果的に伝えられる表情を、瞬時に判断してつくっているのだと思います。よほど感情のコントロールに長(た)けているのだろうと、眺めていて感心させられます。
このようにコミュニケーションに優れた人というのは、いろいろな「顔」をもっているもの。表現の引き出しの多い人こそ、魅力的に映るのです。
そして、表情のバリエーションは、トレーニングによって増やすことができます。件(くだん)の政治家の場合、おそらく長い年月をかけてさまざまな経験を重ねた結果、このような表現力が培われたのでしょう。
しかしトレーニングにより、長い年月をかけずとも、同じように顔の表現を多彩に増やすことは可能です。いつもニコニコしている“だけ”で終わらない、さまざまな状況に応じてさまざまな表現ができる「TPO顔」を目指しましょう。
好感度に「もとの顔立ち」は関係なし
その前にはっきりさせておきたいのですが、コミュニケーションにもともとの顔立ちは関係ありません。もし「あの人は美形だから特別なんだ」と思っているのなら、ぜひこう考えてみてください。
美男美女だから感じがいいのではなく、顔の使い方が上手だから魅力的に感じられる。
私は職業柄、モデルや俳優などの芸能人をたくさん目にします。今では押しも押されぬ人気となった某女優を例に挙げれば、デビュー間もないころは表情にあまり覇気がなく、今ほどの魅力は感じられませんでした。
でも、徐々に顔の使い方を意識して身につけたのでしょう、イキイキとした笑顔やキリリとした表情を見せるようになり、その魅力はどんどん増していきました。顔の左右バランスにも多少の偏りがありましたが、それも改善されました。
顔立ちでいえば、もとから整っていて美しい人です。それがTPOに合わせて感情を表現できるようになったことで、デビュー直後とは段違いの魅力を獲得したのです。
そして同時に「親しみやすい」「友達になれそう」といった好感度をも手に入れました。
ここで重要なのは、表情を通して魅力が増したということ。逆にいえば、いくらもとの顔立ちが整っていても、その顔をうまく動かせずにいたら、最大限の魅力を発揮することはできないということです。
顔の造作を気にすることはありません。どんな顔立ちかよりも、どう顔を動かすかのほうがはるかに大事であり、効果があるといえるのですから。
◆教えてくれたのは:表情筋研究家・間々田佳子さん
ままだよしこメソッド代表取締役。顔の学校「MYメソッドアカデミー」主宰。日本に「顔のヨガ」ブームを起こした第一人者。2020年、体全体を整えながら顔を鍛える「コアフェイストレーニング(R)」を考案。顔や表情の悩みを解決に導くメソッドとして、その普及と発展に努めている。各種メディアのほか、企業の研修やイベントなど幅広く活動し、講座受講者はのべ3万人超。著書は15冊・累計55万部を突破。2023年11月、『伝わる顔の動かし方 コミュニケーションは見た目が9割』(光文社)を出版。