
ライター歴45年を迎えたオバ記者こと野原広子(66歳)。ここ数年、愛猫や身内の死を相次いで経験。昨年は自身の大病で手術、入院をした。それから意識し始めた“終活”。モノを捨てる「捨て活」を始めたのだが最近、ある動画に目が留まった――。
* * *
“80代ばあちゃん”の掃除術に「こんな人がいたんだ」
いやぁ、衝撃だったね。何がって掃除の天才の動画よ。こんな人がいたんだ。こんな世界があったんだって、見終わったときはしばし身体が動かなかったもんね。それは【80代元気ばあちゃんの日常】という登録者数8万人の人気YouTubeチャンネルで、『朝のお掃除ルーティン/毎日の習慣でキレイを保つ/掃除・洗濯・洗い物の工夫や便利グッズも紹介』という回なの。

動画は「朝、目が覚めたら床の中でグーバーグーパーを10回ほどしまして」で始まるんだけどね。私がマネできるのはこれだけ。続く「シーツは毎日交換。枕カバーの上にタオルをかけてこれも毎日(交換)。あとお寝間着はもちろん毎日ですね」で、完全にノックアウトよ。自分だけしか使わないシーツを毎日、交換するって意味がわからない。「お寝間着」という言葉遣いの上品さも衝撃だし、それに80代というのにチェックのスカートで、なんとちゃんとウエストがあるのよ。拭き掃除をする後ろ姿もキリリとしていてもう、ため息しか出ないって。

お湯を沸かしてポットに入れたら、そのヤカンをフタから外側、内側までキッチンペーパーで拭くというシーンでも目が点。こんなことをしてる人、これまで一度も見たことがないもの。洗濯を終えたら洗濯機の糸くず受けからドラムのふちから水の注ぎ口、ドラムの中を細かく細かく拭き上げるし、さらに2か月に一度、カビ取りクリーナーをかけるんだって。

身体の動きがシャープ!家中ぴかぴか
それにしても台所から洗面所の水回りのきれいなことよ! テーブルの上に何も載っていないのは当然だし、それこそ家中ぴかぴかでホコリすらない! 80代というのに身体の動きがシャープなのは朝からいくつかの体操をしているからというけれど、それにしてもよ。毎朝、25分のお掃除ルーティンがこれほど身体を若くするのかと思うと、ああ、66歳の私は取り返しがつかない? いや、これからの努力次第ではなんとかなる? と、最近キヤキヤと痛み出したひざをさすったわよ。


でも、ちょっと待って! こういう“お掃除エリート”は目の保養にするのはいいけど、真に受けたらダメ、ともうひとりの私が言うんだよ。このおばあちゃんと私、生まれも育ちも違うし第一、”目”が違う。私はそもそものところで、ほどほどに散らかっている部屋がくつろげると思っているから、ざっくりとした目で家の中を見ているのよ。その“ほどほど”のタガが外れて、あれよあれよという間に汚部屋になったわけだけど、精密な目を持っているこのおばあちゃんにしたら私の部屋は“狂気の沙汰”だと思う。もしかしたら10分で心身に異変をきたすかも。

片づけ上手な職業はデザイナー、カメラマン?
ちなみに私の知る限り、出版界で片づけが上手な職業ナンバー1はデザイナーね。乱雑なデザイン事務所なんて見たことがないもの。置いてあるスリッパから椅子までスタイリッシュ。次にキレイなのがカメラマン。こちらは華美さはないけれど、カメラ機材が整然と片付いている。で、最もダメなのが私と同業のライターだ。「資料」と称して、捨てられない本や紙類があちこちにぎゅうぎゅう詰めで、それが床まであふれ返っているのは私だけじゃない。だからライターは私の部屋に来ても驚かないどころか妙にくつろいだ顔をしているんだわ。わが身を振り返って思うに、ライターは目のレンズがゆがんでいるんだと思う。見たいものは細部まで見て、見たくない部分は見ないという、都合のいい機能が備わっている気がするんだけど、どうかしら。

で、私たちが専門職だとすると、それらに指示だしをして取りまとめるのが編集者という仕事で、この人たちの片づけ力は、ある人はある。ない人はない。その中で、元ライターで今は優秀な編集者になったMさんの机はいつもきれいなの。職場はキレイでも家は大変なことになっている人もいるけれど、彼女は部屋もスッキリと片付いていたんだわ。Mさんいわく。
「そういえば私もライターのときは部屋の中、ぐちゃぐちゃだったのよ。でもある時、取材先で『すべての物の住所を決めなさい』と言われて、ああそうかと目が覚めたのよ」だって。そうか、住所は一度決めたら引っ越すまで変わらないものね。
ベッドメイクだけは続けている!
で、私の捨て活だけど、【80代元気ばあちゃん】の動画で度肝を抜かれ、数日間、手が止まったけど、朝起きたらご覧の通りのベッドメイクだけはしている。真ん中に敷いている敷物は以前、中近東のある国の大使館にお呼ばれしたときにお土産でいただいたもので、これを広げるたびに政情不安な遠い国に思いをはせている。「だからそれが何になる」と言われたらそうなんだけどね。日常からふっと遠くに気持ちを飛ばすと、どういうわけか気持ちが落ち着くのよ。ちなみにベッドの横に敷いているのは26歳のときにイスタンブールで買ってきた羊毛のじゅうたんだ。

それから亡き愛猫、三四郎の肖像画をチラ見してから、のたりのたりと手を動かして、床に落ちているものを拾い上げたりして、私なりの朝のルーティンを始めるわけ。そうそう。人は人。私は私よね。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
【378】66歳オバ記者が “捨て活”を始めて気づいた「今まで片付けられなかった」ワケ
【377】66歳オバ記者が感じる「ひとり暮らし」の寂しさ 身内が相次いで亡くなり“お隣さん”も引っ越し、体調不安でどうする?の事態