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《大塚寧々×ヤマザキマリ対談》ふたりが語った「海外“放浪”」から「ニュースの真実」、『川口浩探検隊』まで(後編)

ニュースも色々な方向からみた方がいい

ヤマザキ:いまって、先ほど出た『兼高かおる世界の旅』にしても、『川口浩探検隊』にしても放送が難しいじゃないですか。

大塚:たしかに! いまはコンプライアンスとか厳しすぎますよね。

ヤマザキ:実は私、数年前に『川口浩探検隊』のやらせについて書かれた本の書評を書いたことがあるんですけど(笑い)、やらせでありながら、どこまで究極の演出ができるかの勝負があの番組だったわけですよ。それに視聴者だってあれがやらせなのはわかっている。ツチノコだ、原人だと探検隊が決死の表情でジャングルを潜っていくのを、子供達ですら「怪しいなあ」「嘘くさいなあ」と思いながらも楽しんでいた。メディアが決してありのままを伝えているわけではないこと、社会で必要になる猜疑心を養うには大事な番組だったかと思います。大仰に褒め過ぎてますが(笑い)。メディアとはそもそも、そうした猜疑心を持って付き合っていくもんだと思うんです。

大塚:日本はそのまま信じる人が多いかもしれないですね。例えば1つのニュースだけだと、その方向だけ真実になってしまうかもしれないという危機感はあります。

ヤマザキ:それは私が17歳でイタリアに渡った頃から、ずっと感じていていることです。イタリアで最初に学んだのは猜疑心でした。周りは新聞やテレビの報道を信じていない人だらけで、新聞だって各政党が出しているものを5紙くらい買って比べると、内容が全然違いますからね。ニュースも定時に始まることはありませんでしたし、内容も局によって差異が甚しかった。

信じていた人に裏切られ「酷い!」なんて絶望していると、「信じるなんて怠惰なことをしたお前がいけない」と言われる。信じるということは、相手に丸投げして、そのあとなにかあったら相手のせいにすればいいということ。地中海って古代から文明が発達しているだけあって、人間がいかにずる賢い生き物であるかを熟知してます。だから「ずる賢い」は褒め言葉に近い。もちろん信頼や信じる気持ちは大切だけど、同時に猜疑心もフル稼働させてなんぼというのが彼らの精神性には残っているんですよ。欧州だけではなく、アラブ社会やアジア圏でもそうですね。

大塚:なるほど。

対談は幅広いテーマで大いに盛り上がった
写真6枚

ヤマザキ:それに比べて日本は信じる方だけを重んじて、疑うなんていうのは悪いことだと決めつける風潮がある。敗戦してからこうした倫理の傾向がより一層強くなったと思います。だけど、落語においては嘘つきとわかっていながらも騙されて、俺が馬鹿だった…みたいな話もあるじゃないですか。あえて騙されていることがわかっていてもこれが人間の生き方だよなっていうのが江戸時代までの日本にはあったんですよね。

大塚:そうですね。昔は人情味があって、もっとおおらかに大きく他人を理解していた気がします。いまの方がちょっと心配な世の中かもしれない。

ヤマザキ:みんな人間に高い理想をかかげ過ぎなんですよ。正直者で清廉潔白で折り目正しく親切な人だけになれば社会はうまく機能するなんていうのは、歴史を参考にしても、まずあり得ません。そもそも人間なんてのはこの地球上で最もエグい生物なのだということを、しっかり受け止めるべき。だから、人生を謳歌して生きていきたいと思うのであれば、常に俯瞰で自分たちを見る必要性は大きいと思うわけです。

大塚:話は尽きないんですが、そろそろ時間だとスタッフさんが…。まだまだ話したいことがあるのに…離れたくないです(笑い)!

ヤマザキ:私もここでは控えていた話がいろいろあります(笑い)。またプライベートで話しましょう!

◆大塚寧々
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』ほか数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道にも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。現在放送中のドラマ『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日系)出演中のほか、1月19日公開の映画『僕らの世界が交わるまで』の日本版ナレーション担当、CM出演、雑誌連載など多方面で活躍中。

◆ヤマザキマリ
1967年東京都出身。漫画家・随筆家。東京造形大学客員教授。1984年に渡伊、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で油絵と美術史を専攻。1997年より漫画家として活動。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『ヴィオラ母さん』(文春新書)、『パスタ嫌い』(新潮社)、『スティーブ・ジョブズ』(講談社)、『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。現在はイタリアと日本に拠点を置き、精力的に執筆活動等を行っている。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。

撮影/chihiro.  ヘア&メイク/福沢京子(大塚さん分)、田光一恵(ヤマザキさん分) スタイリスト/安竹一未(kili office・大塚さん分) 取材・文/辻本幸路

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