
旅でのちょっとした心掛けや行動が、地球の未来を作り社会を元気にしたら? 今回は大人の旅行におすすめしたい、沖縄県が力を入れる新しい旅スタイル「エシカルトラベル」を、旅行ジャーナリストの村田和子さんに紹介してもらいます。
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地球温暖化や関連ニュースを聞くたびに「自分も何かできれば」と思うことありますよね? でも実際に一歩を踏み出している人は少ないのでは? 今回は、新しい沖縄の楽しみ方「エシカルトラベルオキナワ」を取材しました。自分事としてとらえることで気持ちや行動が変わる……そんなきっかけとなる旅の体験をレポートします。

沖縄県が取り組む新しい旅のかたち「エシカルトラベルオキナワ」とは
「エシカル(ethical)」とは、「倫理的」「道徳的な」という意。それから派生し、自然、環境、社会、人などに配慮した倫理的な行動として使われることが増えています。「エシカルトラベルオキナワ」は、沖縄の自然、伝統、産業に触れながら、旅行者そして地元の人の双方が交わり、地域の暮らしや自然環境に寄り添い配慮した行動をする……そんなきっかけとなるエッセンスが満載。今回は「自然環境」をテーマに、エシカルトラベルオキナワの一部をご紹介します。

奇跡の森「やんばる」をEV(電気)バスでめぐる!ネイチャーガイドツアー
2021年7月26日、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として世界自然遺産に登録された「やんばる」。沖縄北部に広がる「やんばるの森」(ここでは国頭村、大宜味村、東村を指す)は、日本国土のわずか0.1%。その中に、日本で見られる動植物の25%、野鳥の半数の種類が生息するといい、奇跡の森といわれています。イタジイ(スダジイ)が約半分を占め、多くの固有種や希少な動植物が生息する……その多様性が世界遺産登録の決め手になったそう。

やんばるを体感するネイチャーツアーは、さまざまなスタイルがありますが、今回は環境に優しい「やんばるの森ネイチャーガイドツアー」に参加。かわいらしいラッピングのEVバスに乗り、車窓を見ながら、あるいは下車して実際に森を歩きながら、ネイチャーガイドが森の成り立ちや人との関わり、あるいはそこに生きる動植物、直面する課題などをわかりやすく解説してくれます。


例えば、「やんばるには肉食性哺乳類がおらず、生態系の頂点には、ハブ、カラス、猛禽類、ヤンバルクイナなど複数が存在すること」「やんばるの動物たちは隠れ上手。声や形跡はみることができるけれど、なかなか姿を見せない」「谷と山の連続した森では、狭い地域にさまざまな生態系が存在すること」などなど。



バスの乗降時には、外来種を持ち込まないように靴底の泥を落とし、車窓からは「STOP Road Kill」の注意喚起の看板をチェックしたりと、豊かな森にお邪魔するときに必要なことにも気づかされます。
今回ガイドをしてくださった上開地さんは、「やんばるの森は中身が大事」だと言われていましたが、ガイドツアーに参加をすると、目の前に広がる森の背景を知り自然への理解が深まり、新たな発見も多くありました。
■奇跡の森「やんばる」をEVバスでめぐる!ネイチャーガイドツアー https://www.japawalk.com/campaign/yambaru_kugani.html
※実施時間や予約など詳細はサイトで確認を
陸のサンゴ礁「さんご畑」(読谷村)で地球の危機を身近に
「サンゴの白化が問題になることが多いですが、それはなぜかご存知ですか?」。今回訪れた読谷村の海辺にある陸上のサンゴ礁「さんご畑」の代表・金城浩二さんは参加者にそう問いかけます。

地球の7割が海で、サンゴ礁はその海のわずか0.1%。そのサンゴ礁に、海の生きものの約25%が依存しているそう。そのため、サンゴが死んでしまうと生態系が崩れ、自然破壊や、私たちの食を含めた生活にも影響が大きいといいます。

「さんご畑」では、サンゴの苗を育て海に還す活動をしています。活動当初は天敵のいない環境下で大切に育てていたそうですが、過保護に育てたサンゴは海に放すと天敵に食べられてしまうこと多い傾向があるといいます。その他にも海に植え付ける際には、種類によって育てる環境や場所を変えるなど、さまざまな工夫が必要なこともわかってきたとか。現在は、施設内のサンゴの池では天敵となる魚も一緒に飼育し、魚にかじられたり、紫外線や水温などの負荷を経験させることで、厳しい自然界でも生き抜けるサンゴに育つといいます。


「本来のサンゴはこんなに美しいの?」と私も驚いたのですが、美しいサンゴが育つ様子を眺めながら、サンゴについて知るだけでも一見の価値があります。
でも「自然環境のために何かできれば」と思っているのなら、もう一歩進んで、「さんごの苗作り」にチャレンジをしてみるのもおすすめです(要予約。ひと苗、大人4000円、学生3800円、中学生以下3600円 ※入場料込み)。


自ら株分けをした苗が、いつか海へと放たれ豊かな生態系を育む……そんな姿を想像しながら苗を作れば自然への関心もぐっと高まります。

■陸のサンゴ礁「さんご畑」https://www.seaseed.com/coral-farm ※営業時間や入館料など詳細はサイトで確認を
沖縄の最後は自然へ恩返し。500円で行うビーチクリーンアクティビティ「プロジェクトマナティ」
プロジェクトマナティは、旅先で気軽に地域貢献や自然保全に寄与できるプログラム。カフェや商店などマナティパートナー(協力店舗)で500円を支払い、軍手やごみ袋の入った黄色いバックをレンタル。ごみの収集や分別ルールは各地域で異なるため、パートナーに説明を受けたら、各自でビーチクリーンスタートです。集めたゴミは、パートナーが地域ごとのルールにのっとり処分してくれます。

ここまで読んで「なぜお金を払ってまでビーチクリーン?」と思ったかたもいることでしょう。このプロジェクトの発起人である株式会社マナティ代表の金城由希乃さんは以下のように思いを語ります。
「海のゴミが気になって拾ってくださる行為はありがたい。でも、それを地域の商店に処分してほしいと持ち込んだり、あるいは海岸の片隅に置きっぱなしにされるかたが多いんです。ご自身が逆の立場だったらどうでしょう? 近所のごみを家に持ち込まれても、保管に困るし処分にお金もかかります。
ビーチに置きっぱなしにすると、潮が満ちれば再び海へと放たれゴミになります。せっかくの善意の気持ちがすれ違うのは残念すぎる。善意が力になるように、そして交流が新たな繋がりになるように、この仕組みを考えました」

今回訪れたマナティパートナー(協力店舗)は、浦添市にある「隠れ家カフェ清ちゃん」。オーナーでありシーグラスアーティストの春奈さんの作品が飾られた店内は居心地がよく、デッキからは海を一望する絶好のロケーション。カフェの稼働が落ち着く15時以降に「プロジェクトマナティ」の受け入れをしているといいます。

春奈さんから「実は5日ほど前にすべて綺麗にしたのだけれど。今のシーズンは北風が強くて結構大きなゴミも落ちているかも」ということを伺いつつ、いざビーチへ。すると…。

ペットボトルや大きなブイ、おにぎりのビニールや発泡スチロールも。5日間でこんなに溜まるとは! 沖縄は綺麗なビーチのイメージがありますが、整備をしてくださるかたがいてこそだと改めて感じます。
「発泡スチロールはマイクロプラスチックになり、魚などの誤飲につながるので重点的に」と金城さんから声がかかります。

1時間ほど参加者でゴミを拾い、実施後はこんな感じにきれいになりました。


「隠れ家カフェ清ちゃん」では、プラスチックゴミを削減するべくテイクアウトの器を紙製にするなどの取り組みもされています。「プラスチックができたことで特に医療現場などでは多くの命が助かるなどメリットがある。でも人間が楽をしようと便利に使えば自然は壊れる」と春奈さん。

遊んだ分、楽しんだ分、お世話になった分、海や自然へちょっと恩返しをしよう。そんな動きが定着すると、きっと環境も変わるはず。今回驚いたのが、ごみを拾うというシンプルな行為がマインドフルネスになるということ。自分の気持ちもすっきりと整うので、ぜひ旅の終わりにチャレンジしてみてくださいね。
■プロジェクトマナティ https://www.manatii.org/ ※実施場所など詳細はサイトで確認を
いかがでしたか?「エシカル」をちょっと意識して旅をすると、未来に向けて大切なことに気付き、帰宅後の自らの行動や意識もかわります。そしてエシカルな取り組みをされているかたの熱い思いに触れることで、刺激をもらい前向きになれると感じます。

沖縄観光情報WEBサイト「おきなわ物語」内にあるエシカルトラベルオキナワのページでは、沖縄県のエシカルトラベルのページでは、今回ご紹介した自然テーマだけではなく、伝統・文化など、さまざまなテーマのプログラムや、受け入れをされる方の思いが描かれています。ぜひ参考に、次の沖縄旅行を計画してみてくださいね。
■エシカルトラベルオキナワ https://www.okinawastory.jp/feature/ethical_travel/
◆教えてくれたのは:旅行ジャーナリスト・村田和子さん

旅行ジャーナリスト。「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」をモットーに、旅の魅力を媒体で発信。宿のアドバイザー・講演なども行う。子どもと47都道府県を踏破した経験から「旅育メソッド(R)」を提唱、著書に「旅育BOOK~家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ(日本実業出版社・2018)」。現在は50歳を迎え、子どもも大学生となり、人生100年時代を楽しむ旅を研究中。資格に総合旅行業務取扱管理者、1級販売士、クルーズアドバイザーなど。2016年より7年間、NHKラジオ『Nらじ』月一レギュラーを
●2024年は3連休以上が11回も!地震や豪雨など「自然災害」への備えを万全にした「旅計画のポイント」を旅行ジャーナリストが伝授