健康・医療

《上手な手抜きも!》高齢者栄養ケアの第一人者が現場で見てきた「長生きする人が実践している食べ方の工夫」

高齢者栄養ケアの第一人者である川口美喜子さん(撮影/吉濱篤志)
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人生100年時代に突入して、1人の人が生涯に「食べる」回数は人生50年、80年時代に比べて数万回増えました。しかし、多くの人は何をどのように食べたら健康になれるか、体内で栄養はどんなふうに使われるのか、詳しく教わる機会がほとんどありません。何をどう食べるかで身体は変わり、それが体調や脳、心などにも影響します。高齢者栄養ケアの第一人者、医学博士の川口美喜子さんが教える“長生きする食べ方”とは?『100年栄養』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。

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食にわざあり! 元気な理由がわかる「食べ方」

年齢を重ねても健啖家であり続けるのは容易ではないことです。60代の私も、実際のところまだそれがどれほど大変なことか、本当にわかっているわけではないと思うけれど、想像できます。年齢にかかわらず、ふとしたきっかけで「食べる」が弱ってしまった人をたくさん見てきたからです。

しかし、ご長寿の健啖家はさすが、ちょっとした知恵や工夫で「食べる」を保ってこられたのです。

「食べる」が弱りそうになったとき、リカバーする知恵や工夫、食欲をアップする秘策もありますし、面倒に感じる調理や片付けを「上手に手抜き」して、負担を減らしています。そして「食べる」を支える生活習慣にも見習う点は多い。

これまで私がさまざまな活動の中で長寿の先輩たちから学び、いまはみなさんにおすすめしている習慣術をお伝えします。食べることにまつわる習慣、暮らしのヒントまで、ぜひ真似したいことばかりです。

買い物のときから「旬の食材」を意識

まず、多くの健啖家の共通点が「旬にうるさい」こと。季節の食材やふさわしい調理法を好んで食べます。女性に限らず、料理をすることも楽しむ人が多く、買い物のときから「旬の食材」に目を光らせているようです。

野菜やフルーツ、パンなど様々な食材がある
旬の食材は、値段が同じでも栄養価が高いためお得に(Ph/AFLO)
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確かに、旬の食材はお得です。お値段が同じでも、栄養価が高いからです。たとえばホウレンソウは夏と冬ではビタミンCの量がまったく変わります。旬の冬のビタミンC量は夏の3倍! なんてお得なんでしょう!

ある人は「夏は若い葉を選んで生で食べたら、栄養が減らない。冬は鍋がおいしいね」と話していました。食べることを楽しんでいるから、食材の栄養をムダにしたくないのだと思います。

私も、季節ごとによく食べるものがあります。

春は芽生えの季節です。フキノトウ、ミョウガタケ、セリなどは少量でも香りを感じ、食事を豊かにしてくれます。筍(たけのこ)とワラビ、ゼンマイは春ならでは。アスパラガスは濃い緑色とシャキシャキした食感が楽しめて、大好きです。

夏は旬のアユやサザエの香りを楽しみます。故郷の夏の情景が思い起こされ、アユ飯やサザエごはんを口にすると食べる喜びを感じます。忘れられない母のそうめんのつゆと、薬味に使った畑いっぱいに生い茂った紫(し)蘇(そ)の葉。香りを楽しみながらいただきます。

秋はきのこや芋類、栗などを使ったごはんや汁物をたっぷり食べます。寒さに備えて、干し柿や干し芋や沢庵もたくさんつくります。

冬は断然、体を温めてくれる鍋料理です。切って、ぐつぐつ煮て、あつあつを食べる。手軽だし、「おいしい」と感じるから、栄養になります。餅粉の団子や甘酒も定番です。

みなさんにも「季節の味」がおありでしょうね。きっとおいしく、栄養になりますから、季節ごと、ずっと召し上がってくださいね。

お皿や丼の上で栄養バランスをとる

健啖家の先輩に教わったことの1つに、「上手な手抜き」がありました。

主食と主菜、副菜、汁物。それらがそろった「ザ・定食」を毎食用意するのは大変です。食事のしたくは、手をかけたらキリがなく、それだけで1日が終わってしまいます。

パパッと、上手に手抜きする調理術とは(撮影/吉濱篤志)
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お元気な健啖家の先輩方はみなさん何かと忙しく、「きょうよう(今日用)」「きょういく(今日行く)」の予定が詰まっておられることも多い。そこで、調理はパパッと、上手に手抜きするわざを身につけています。

時短クッキングも元気の秘訣に

もともと料理が好きで、それなりに凝っていたけれど、高齢になってからは「気力、体力と相談して、時短クッキングを考えるのが楽しみになった」という人もいました。いまの自分にとって食事が負担にならないように、新しい習慣をつくったのですね。その柔軟さも、きっと元気の秘訣ではないかと感じました。

ある自宅療養中のがん患者さんに教わった時短メニューが、おいしくて、食べ飽きません。丼に冷凍うどん1人前を盛り、キャベツのせん切り、カットベーコン(または鮭ほぐし身)をのせ、電子レンジで加熱したあと、クリームチーズを和えて食べます。

お醤油をちらりとかけてもいいですし、かつお節、あおさのり、すりごま、砕いたナッツなどをちらしてもおいしい。

丼の上で「エネルギー源・タンパク源・野菜」がそろって、あっという間に食べられて、片付けも手軽なので気に入り、アレンジにもハマりました。スーパーで、これも使える、これもあり、とイメージするのも楽しいです。

「しっかり食べる」を手抜きでも、時短でも、おいしく、楽しんでいきましょう。

遊びに行く日は「ごはん3口増」で出かける

これはある先輩ご夫婦から聞き、なるほどとひざを打ち、以降おすすめしている習慣です。

70歳を過ぎたら、出かける日の朝ごはんは、ちょい大盛り。だいたいご主人は3口分、夫人は5口分、ごはんを余計に食べておきます。食パンなら、6枚切りのところを4枚切りに変えます。これは本当に理にかなっていて、このちょい大盛り作戦で、80~100kcal多めにエネルギーがとれます。

今日は遊びに行って、体を動かすから、ちょっと多めに食べておこう。自分の活動や体験から、新しい食習慣をつくって、元気を保っているのがカッコいい。まさに「自分が主治医」と思っておられると、ひざを打ったものでした。

太りたい人は、この作戦を毎食1カ月続けると、1日の総カロリーが240~300kcal増となり、およそ1㎏体重を増やせます。

◆教えてくれたのは:医学博士、大妻女子大学家政学部教授、管理栄養士・川口美喜子さん

専門は「病態栄養学」「がん病態栄養」「スポーツ栄養」。島根大学医学部附属病院で栄養管理室長を務め、NST(栄養サポートチーム)を立ち上げるなど、“食事をとおした治療”に積極的に参加。現在は、大学で後進を育てながら、地域医療のパイオニアである「暮らしの保健室」(東京都新宿区・江戸川区)や、がん患者とその家族が訪れるマギーズ東京(東京・豊洲)などにて、栄養指導、栄養ケアを行う。病気や日々の暮らしに問題を抱える多くの人のために、卓越した栄養学の知識を具体的な食事に落とし込んで支援している。著書に『老後と介護を劇的に変える食事術』(晶文社)など。

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