
一日のタスクを効率的に終わらせることができるのが理想的なのは言うまでもありません。集中して作業に取り組むためには、生活の中で押さえておきたいポイントがあります。そう教えてくれた『自律神経の名医が教える集中力スイッチ』(アスコム)を上梓した順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんが推奨する、集中しやすい一日の過ごし方とはどんなものなのでしょうか。
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集中しやすい一日づくりは朝の過ごし方から
「交感神経」と「副交感神経」から成る「自律神経」は、代謝や免疫など体のさまざまな要素をコントロールしており、これが乱れると体に不調が生じ、集中力にも悪影響を及ぼします。そして、自律神経は一度乱れると、その後2~3時間は整ってくれません。
人間が集中することに適している時間帯は午前中であり、特に9時から10時の仕事を始める場合、昼食まではいわば「ゴールデンタイム」。朝に余裕がないと自律神経を乱す出来事が多発しやすく、ゴールデンタイムを棒に振ってしまいかねません。
「朝の時間に余裕を作ること。それが心に余裕を生み、自律神経のバランスを整え、集中するための土台となっていくのです」(小林さん・以下同)
起きる時間を少しずつ早くして「早起き」を習慣化
朝の時間に余裕を作るために重要なのはやはり「早起き」です。朝はついつい少しでもベッドに長く横になっていたいと思いがちですが、そこをがんばるかどうかで一日が大きく変わってきます。

「いきなり今より1時間も2時間も早起きするのは酷ですから、5分、10分、20分と、段階を踏みながら早起きする習慣を作っていきましょう」
朝のメールチェックには注意
集中するためには感情のコントロールが不可欠。昨今はSNSの発達もあり、さまざまな”情報”を受け取りやすくなっていますが、そうした情報は刺激となり、感情を乱す可能性があります。
特に社会人で注意したいのは、朝のメールチェック。メールは受信者が好きなタイミングで開封し、好きなタイミングで返信できるものですが、多くの人が朝一番に確認してしまい、それによって自分のペースが乱され、自律神経のバランスが崩れてしまうことが少なくありません。

「職場によっては難しいかもしれませんが、集中力を切らす隙を与えてしまうメールの確認は、タイミングを考えて行ってください」
外との温度差は7度以内に
自律神経は温度差にも非常に敏感なため、集中するには部屋の温度調節も重要です。外の気温と室内の温度差が7度以上あると自律神経は過剰に働き、寒暖差疲労で過労を起こすことも。特に盲点となりやすいのは、ゴミ出しなどのちょっとした移動のときです。
「自律神経は一度でも乱れてしまうと整うまでに時間がかかります。外にいる時間はほんのわずかであったとしても、外気温との温度差には注意しましょう」
定期的に姿勢を正して深呼吸を
自律神経のバランスがとれていると、全身の血流が安定し、コンディションが整えられるため、自然と集中力も高まります。姿勢も血流に影響します。30分に1回くらいはゆっくりと深呼吸をして副交感神経に働きかけ、ビシッと姿勢を整えて血流の改善を促すのがおすすめです。
「姿勢を正すポイントとしては、しっかりと骨盤を立てて、お尻を椅子の背もたれにつけるようにして座ること。あまりにも集中できないときには、天井を見上げてみるのもいいでしょう。上を向くことによって顎が上がると、おのずと気道が開いて深い呼吸ができるようになります」
午後の仕事は整理整頓から
集中力が続かない原因の1つに、「明確性の欠如」があります。これは「何から手を付けたらいいのか」や「いつまでに終えればいいのか」といったことが明確になっておらず、不必要に焦ってしまい、集中できなくなってしまうこと。集中して物事を進めるためには、やるべきことを整理整頓してひとつの作業に集中し、それを達成したら次に進むということを繰り返すことが大切です。
しかし、デスク回りが散らかっていると、気が散りやすく、ひとつの作業に集中しづらいもの。昼食後の眠くなる時間を利用して、デスク回りの整理整頓を進めると、気持ちよく仕事をしやすくなります。
「本来、整理整頓は気分をすっきりさせてくれますので、自律神経を安定させる働きがあります。これを有効的に活用するためには、毎日コツコツ、少しずつテーマを決めて片付けること。これがポイントです」
3行日記で一日を上手に終わらせる
無事一日を終えた後は、さらに次の日の集中力を高めるための習慣を採り入れるのがおすすめです。小林さんがすすめるのは、心のモヤモヤを吐き出すための「3行日記」。
これは、1行目に「今日、いちばんダメだったこと(失敗したこと)」、2行目に「今日、いちばんよかったこと(うれしかったこと)」、3行目に「明日、必ずやりたいこと(小さな目標)」を書くというものです。
1行目でその日の反省をし、2行目でよかったことを振り返ってモチベーションを上げ、3行目で翌日の目標を明確にすることで、前向きな気持ちで眠ることができます。

「誰かに見せるものでもないので、感情のおもむくままに書き連ねてしまって大丈夫です。というよりも、感情を整理するための作業なので、自分の心に素直に従って書き出すべきでしょう」
文字を書くこと自体に心を落ち着かせる効果が
この3行日記で重要なのは、1~3行目の順番を守ることと、「手書き」であること。文字を書くこと自体に心を落ち着かせ、自律神経を整える効果があるためです。
「その日にあった嫌なことやストレスは、その日のうちに吐き出してしまいましょう。一日の最後に3行日記を書く――このちょっとした時間があることによって、翌日の集中力がいっそう高まるといっても過言ではありません」
◆教えてくれた人:順天堂大学医学部教授・小林弘幸さん

こばやし・ひろゆき。順天堂大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任。「腸のスペシャリスト」として、順天堂大学に日本初の便秘外来を開設。著書に『お医者さんがすすめるバナナの「朝食化」ダイエット』(アスコム)、『医者が考案した「長生きみそ汁」』(同)など。