健康・医療

《注意すべきは視力じゃなかった》目の病気の発症リスクを高める「強度近視」とは?進行を防ぐために今すぐできること

眼鏡を外す女性
近視の進行を防ぐためにできることとは(Ph/photoAC)
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近視が進行しすぎた状態である「強度近視」をご存じでしょうか? 強度近視になると、網膜剥離や黄斑部出血、緑内障などさまざまな目の病気を引き起こす可能性があります。眼科専門医・森下清文さん監修の元、著書『歳をとっても目が悪くならない人がやっていること』(アスコム)を上梓した、わかさ生活代表取締役社長の角谷建耀知さんから「強度近視」と近視の進行を防ぐためにできることを教えてもらいました。

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目はどうやってものを見る?

ものがよく見えなくなることを「目が悪くなる」と言いますが、そもそも目はどうやってものを見ているのでしょうか。「そのしくみは、よくフィルム式のカメラに例えられます」と角谷さん。

光が入ってくるフィルターに相当するのが「角膜」、光の量を調整する「絞り」に相当するのが「虹彩」、ピントを合わせるレンズに相当するのが「水晶体」、フィルムに相当するのが「網膜」で、網膜に映し出された映像が信号化されて「視神経」から脳の視覚野に運ばれてようやく、私たちは「ものを見る」ことができます。

「カメラが精密機械といわれるように、私たちの目も小さな精密機械です。さまざまな働きをするパーツで構成されているため、いろいろな場所で不具合が起こりやすく、それが原因で見づらくなることがあります」(角谷さん・以下同)

注意すべきは視力よりも「見え方」

眼鏡やコンタクトの度数が上がったり、これまではっきり見えていたものがぼやけて見えるようになったりなど、視力が落ちることを目が悪くなることと捉えている人が多いですが、実は「目の悪さ」について眼科医が注視するのは、裸眼の視力の低下ではなく、「見え方」。裸眼視力が落ちていても、矯正視力で十分に見えるようであれば問題視はしないそうです。

女性の目
視力が下がっても見え方に異常がなければ問題ないという(Ph/photoAC)
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「かすむ、ぼやける、二重に見える、視野が欠けるなど、目が悪くなると見え方に異常が現れるようになります。それが目の健康を脅かすことになるのです」

眼球の変形で近視に

若い頃は、近視の進行をできるだけ抑えるように心がけることが目の健康を守るために重要である、と角谷さんは言います。そもそも近視とは、近くのものは見えやすく、遠くのものは見えにくい状態のこと。正常な目の場合は、近くでも遠くでも水晶体の厚みを変えてピントを合わせますが、近視の場合は網膜より前にピントが合ってしまい、網膜に映る絵がピンボケの状態になります。こうした状態が起こる原因として、若い頃に多いのは眼球の形状が変形することだそう。

「正常な眼球は、ピンポン玉のように丸い形をしています。しかし、眼球が成長していく過程で眼球の長さである『眼軸』の長さが正常よりも長くなり、ラグビーボールのような楕円形になってしまうことがあります。そうなると、調節機能が働いても網膜の手前でピントが合ってしまうことになるのです。それが、子どもの頃に発現することが多い、近視です」

目の病気の発症リスクを高める強度近視とは

軽度の近視であれば、眼鏡やコンタクトレンズなどで矯正できますが、変形した眼球自体は元に戻ることはありません。「問題なのは、近視が進行し過ぎて『強度近視』になることです」と角谷さん。正常な人の眼軸の長さは24mmですが、27mm以上になると、大人になってから目の病気を発症するリスクが高くなると言います。

「眼軸が長くなり過ぎることで網膜が引き延ばされて薄くなったり、不要な細かい血管がつくられたり、視神経を刺激したりするからです。それが、『網膜剥離』や『黄斑部出血』、『緑内障』などを引き起こすことになります」

子どものころに強度近視になると大人になっても眼軸が伸びる

子どもは環境に適応する能力が高く、成長期にあるため、眼軸が伸びてしまい、近視が進行してしまう可能性があります。一方、成長が止まる大人になると眼軸が伸びることもなくなり、度数が変わらなくなります。

「しかし、最近の研究では、子どもの頃に強度近視まで進行すると、20代、30代になってからも眼軸が伸びることがあるといわれています。つまり、目の健康を守るには、まず近視の進行をできるだけ抑えることが大切なのです」

近視の進行を遅らせるには近見作業を減らすこと

ゲームばかりしていると目が悪くなるとよく言われますが、それは、手元を見る作業である「近見作業」が増えるからです。近くを見続けると、焦点が網膜より奥になるため、水晶体で調節しようとしてもピントが合わなくなり、網膜の位置が焦点と重なるように眼軸が伸び、近視が進行します。

「ゲームがない時代は、本をよく読む子どもは近視になりやすいといわれていました。本を30cm以内に近づけて読むと2.5倍、30分以上継続して読書すると1.5倍近視になりやすくなるといわれていたそうです」

スマホは30cm以上離して見る

昨今で特に意識したいのは、スマホやタブレットを使うときの姿勢です。「スマホなら目から画面まで30cm以上、タブレットやモニターなら40cm以上の距離をとるようにしましょう」と角谷さん。また、頭を傾けて片目だけが画面に近づくような姿勢になると、画面に近い方の目の眼軸が伸び、近視が進みやすくなります。

スマホを見る女性
スマホを見るときは30cm以上離す(Ph/photoAC)
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「姿勢がよくなるだけで、目の負担はずいぶん軽くなります」

「スマホ内斜視」も増えている

スマホの影響で近視のリスクが高まっていますが、子どもたちに「スマホ内斜視」も増えているそうです。斜視とは、ものを見るときに片方の目は目標物に向いていても、もう片方の目は違う方向を向いてしまう状態のこと。正面のものを見るときに、内側を向いているのが「内斜視」、外側を向いているのが「外斜視」、上を向いているのが「上斜視」、下を向いているのが「下斜視」です。斜視になると、立体感や奥行き感をうまくつかめなくなります。

「スマホ内斜視になる原因はまだはっきりとはわかっていませんが、近見作業が増え、あまり視線を動かさないことが一因だと考えられます。しかも、ある日突然、内斜視になることがあります」

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