女優・大塚寧々さんが、日々の暮らしの中で感じたことを気ままにゆるっと綴る連載エッセイ「ネネノクラシ」。第66回は、「大雪」について。
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山の家に母とモチ(トイプードル・女の子)と来ていたのだが、私は仕事で2日間東京に戻らなければいけなかった。
母に「一緒に一旦東京に戻る?」と聞いたら、それくらいならモチと一緒に山の家に残ると言う。食料も数日分十分にあるし、私は一人で東京に帰ることにした。
東京に帰る日、朝起きたら外は一面雪景色でびっくりした。焦った。電車を使うにしろ最寄りの駅まで車で行かなければいけないし、車で戻るにしろ高速が通行止めになっていたら大変だ。
慌てて高速道路情報をチェックする。まだ通行止めになっていなかったので大急ぎで顔を洗い、モチを抱きしめて「すぐに戻るからね」と言って家を飛び出した。
幸い近くのインターまでの車道はそんなに雪が積もっていなかった。高速も途中吹雪いていたが、ゆっくり慎重に運転していつもよりも時間はかかったが、無事に帰れた。
さて仕事も終わり山の家に戻ろうと思っていた朝。夫が、雪で高速が通行止めになっている所があると言う。またしても私は大慌てだ。
幸い通行止めはいつも降りるインターの先だったので、またしても顔だけ洗って家を飛び出る。
夫は心配して「自分も一緒に行った方がいいんじゃないかな」と言ってくれるが、次の日彼は仕事なので何かあったら大変だから丁重に断る。
吹雪で速度規制、インターで通行止めも
東京は小雨ぐらいで雪の気配は全くない。道も空いていて、いつもよりもスムーズに高速に乗る。しばらくしてから私は「ああ~」と声をあげた。あまりにも慌てていて、パソコンを持ってくるのを忘れた。仕事で読もうと思っていた本も忘れた。もう一度家に取りに帰ろうかと思ったが、雪道が心配なのであきらめてそのまま山の家に向かう。
途中から冬タイヤ規制になったが、四駆、スタッドレスタイヤなので大丈夫だ。チェーンも積んである。吹雪いてきて速度規制もあり、いつもよりも時間はかかるが渋滞もなく順調順調と思っていたら、いつも降りるインターの通行止めの表示が出た。
ひえっ~と思ったが、1つ手前のインターまでは大丈夫そうなので焦る気持ちを沈め、慎重に運転した。無事に高速を降りると、下道は雪景色だった。こんなにも東京と天候が違うのかと、ちょっと驚いた。何とか山の家に到着すると、モチが跳び出てきた。
「くう~ん、くう~ん」とお母さん遅いのよ~という声が聞こえてくる。母は、缶ビールを雪の中に入れて「冷やしてるの~!」と雪景色に嬉しそうだった。
たしかに雪景色は美しく、音もなく静かな時間はとても幸せで贅沢なひとときだった。
◆文・大塚寧々(おおつか・ねね)
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』など数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道などにも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。