食は旅の楽しみのひとつですが、最近は「ガストロノミー」が旅のテーマとして注目をあつめています。今回は、春の瀬戸内・広島を舞台に食を通じて旅先(瀬戸内・広島)を楽しみ・知る「ガストロノミーツアー」を、旅行ジャーナリストの村田和子さんが紹介。「知れば旅がぐっと味わい深くなる」というヒントもお届けします。
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最近「ガストロノミー」という言葉をよく耳にするようになりました。「ガストロノミー」とはフランスを中心にヨーロッパで広まった、食材や料理を通じて、地域の歴史や文化、あるいは営みを知ること。食に関するさまざまな体験から、旅先の魅力を発見し学びが深まる「ガストロノミーツアー」は、ワンランク上の大人の旅にぴったりです。実は日本各地で「ガストロノミー」に力を入れ観光の素材にする動きがあります。今回はそのひとつ広島県を訪れました。
絶景が広がり食の宝庫「広島」 思いのある人との出会いも魅力!
穏やかな海に島が浮かび、船がのんびり行き交う瀬戸内。絵になる絶景が広がり、それだけでも行く価値がある旅先ですが、気候も温暖で、実は中国山脈が近いという立地は、山海の幸に恵まれた食の宝庫です。
そんな瀬戸内・広島には、地元を誇りに思い、哲学を持った生産者や料理人が集い、豊かな食文化をつくりだしています。食に関わる魅力的な人々との語らいも、「ガストロノミーツアー」の楽しみのひとつ。絶景に癒され、食を楽しみ、魅力的な人との交流を重ね、旅が終わるころには地域のファンに。お腹だけではなく心も満たし、旅先の地域や人々をも元気にする……そんなすごし方やスポットを紹介します。
旅するワイナリーがテーマ 絶景に癒され五感で地域を味わう「瀬戸内醸造所」
山陽新幹線三原駅からバスや車で海沿いを走ること20分。気を付けていないと見逃してしまう……かつては一帯の主産業だった造船所の跡地に「瀬戸内醸造所」は佇みます。
「風景を切り取り、美しさを際立たせる」というコンセプトのスタイリッシュな建物は、建築家の菅原大輔氏の設計で世界的な賞を受賞。
施設のすぐそばまで海が迫るのも瀬戸内ならでは。対岸には山々が連なるような光景が広がりますが、これらはすべてが島だといいます。瀬戸内醸造所では、そんな絶好のロケーションで地元の果物を使ったワインやシードルを醸造。予め連絡が必要ですが醸造所の見学(有料)もでき、施設内のショップでは、数々の賞を受賞したワインの購入もOK。13種類を1000本ほどの少量ロットで生産するとのことで、ここでしか買えないものも多いといいます。
併設の「瀬戸内醸造所 レストランmio」では、お酒とともに、ワインやシードルなどお酒に合わせた「SETOUCHI料理」がいただけます。セットやコースのランチ営業を中心に、14時からはカフェタイムでの利用もOK。
地元三原市出身という代表の太田裕也さんは「知られていませんが、一帯は生食用ぶどうの産地。ただ高齢化などさまざまな要因で畑の継承が難しくなってきています。地元のぶどうを使ったワインをこの場所で作ることで、畑の継承や雇用の創出などにつながり、世界中の人にワインを通じて瀬戸内を知ってもらえる。足を運んでもらうきっかけになるのではないか?」と瀬戸内醸造所を立ち上げたときの思いを語ります。
行き交う船や海を眺めながら、グラスを傾ける時間はプライスレス。SETOUCHIテロワールを体感しながらのんびりと寛げます。