意見が合わなくても、それでいい
私は接待で、とにかくよく相手の話を聞きます。接待って社交の場でしょう? だから、いかにお客様の気持ちを知れるかが大事。自分が勧めたいものを紹介するのではなく、お客様の情報をすべて引き出して、その人に一番合ったものを提案する。それが接待の目的だと思っているからです。
私はもともと人間に興味があるので、相手の様々な話を引き出すことが苦になりません。同僚から「シンシアは仕事の話を一切しないけれど、お客様がすごくつくんだよね」と言われたこともあります。
お客様と意見が合わないときも「私たちは逆の提案を出すかもしれませんが、あなたがそちらの方法でやりたければ、どうぞ、そう説明してください」と伝えます。お客様に私たちの考えを押し付けるつもりは無いし、相手の意見にすべて合わせる必要もありません。
大使の隣は私の席
私は外交官夫人のときから質問の多い人間でした。ある都市には気難しい大使がいて、会合のときに、みんなが彼の隣に座るのを嫌がりました。だから、私はいつも彼の隣。
私が「あのときはどうだったんですか?」「このときはどんな役割だったのですか?」とよく質問をするから、大使は上機嫌になります。だって、相手が社交として自分に話しかけているのか、本当に自分に興味があるのかは、相手の態度を見れば、すぐにわかるじゃないですか?
私は人間に興味があるので、相手の説明だけでは絶対に会話を終わらせません。相手が話した内容について、必ずフォローアップの質問をします。だって私の知らない世界を聞くことができるのはチャンスだと思いませんか? 質問された人も本気で興味を持ってくれたと思って面白がってくれます。
会話が続かない人は苦手
飲み会や接待で苦手な人は、質問に答えない人です。あるとき、同僚と食事へ行ったら、みんながある男性について「あの人カッコイイよね」「あの人の近くに座りたい」と言い始めました。
私はたまたま彼の前の席でしたが、5分で席を交換しました。理由は、彼が何を聞いてもワンセンテンスの返事しかしないから。これでは全く会話が続きません。きっと彼は人生がつまらなくて、何も考えていないのでしょう。だから相手に伝えたいこともない。彼と話し続けても意味がないし、何も学べないと思ったので私は席を立ちました。
飲み会って席が自由でしょう? だからそういうときは、角が立たないように「ちょっとお手洗いに行きます」と席を立ち、さりげなく席を変えます。もし席が固定されているときは黙って食事を食べるか、横の人と話をします。
私は、相手が自分と違う考え方でも受け入れます。でも、たまに「この考えでないとダメ」と自分の意見を押し付けてくる人がいます。そういうときは「あなたは、あなたの考えでいいんじゃないですか」「どうぞー。その考えでいいんじゃないですか」と流します。
◆薄井シンシアさん
1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社し、イベントマネジャーとして活躍中。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia
撮影/小山志麻 構成/藤森かもめ