肝臓で「中性脂肪」が作られる
肝臓は炭水化物とたんぱく質を代謝し、栄養素を体に送りだす働きをする。
腸で吸収された栄養素が次に運ばれるのが肝臓だ。栄養素は血液内に入り、肝門脈という血管を通って直接肝臓に送りこまれる。主な例外は食物に含まれる脂質だ。脂質は「カイロミクロン」としてリンパ系に直接吸収され、肝臓を経ずに血流にのる。
肝臓はエネルギーの蓄積と供給を担う主な器官なので、当然ながらインスリン・ホルモンが活発に活動する場である。炭水化物やたんぱく質が吸収されると、膵臓がインスリンを分泌する。インスリンは門脈(静脈)を通って、すぐに肝臓へ到達する。体内のほかの部分に比べ、肝門脈と肝臓ではグルコースとインスリンの濃度は10倍も高くなる。
インスリンは食物エネルギーをあとで使うために蓄えさせる働きをするが、このメカニズムのおかげで、人間はこれまで幾度もあった飢饉を乗り越えて生き残ってこられた。肝臓は余ったグルコースを鎖のようにつないでグリコーゲンに変える。グリコーゲンは簡単にエネルギーに変えることができる。
だが、グリコーゲンを貯蔵しておける肝臓内のスペースにはかぎりがある。冷蔵庫を思い浮かべるとよくわかるだろう。私たちは食べ物(グルコース)を簡単に冷蔵庫(グリコーゲン)に出し入れすることができる。だが、冷蔵庫(グリコーゲン)がいっぱいになってしまうと、肝臓は余ったグルコースをほかの場所に貯蔵しなければならなくなる。すると、肝臓は余ったグルコースを中性脂肪に変える。これが体脂肪である。
「炭水化物」から中性脂肪ができる
体内で新しく作られる中性脂肪は、食品に含まれる脂質ではなくグルコースから作られる。
ここは大切なポイントだ。体内で新生される中性脂肪は飽和脂肪酸であるが、血液中の飽和脂肪酸の濃度は、食品に含まれる飽和脂肪酸ではなく、食品に含まれる炭水化物によって高くなる。心疾患との関連性が高いのは、食品に含まれる脂肪酸ではなく、血液に含まれる飽和脂肪酸なのだ。
体内の中性脂肪分子は、必要が生じると3つの脂肪酸に分解され、体内のほとんどの器官で使うことができるようになる。中性脂肪をエネルギーに変えたり、エネルギーを中性脂肪に変えたりするプロセスは、グリコーゲンをエネルギーとして使うときよりもはるかに複雑だ。だが、脂肪の利点は、無制限に蓄積できることだ。
地下室にある大きな箱型の冷凍庫を例に考えてみよう。たくさん物が詰まっているので冷凍庫(脂肪細胞)から食品(中性脂肪)を出し入れするのは大変だが、冷凍庫は大きいのでたくさんの食品を詰められる。地下室も広いので、必要とあればふたつ目、3つ目の冷凍庫を置くことも可能だ。
エネルギーを蓄積する方法はふたつあるが、それぞれに異なる役目があり、互いを補完しあっている。
蓄えられたグルコース、つまりグリコーゲン(冷蔵庫)は取り出しやすいが、容量にはかぎりがある。一方、蓄えられた体脂肪、つまり中性脂肪(冷凍庫の中の食品)は取り出しにくいが、容量にはかぎりがない。
体内で脂肪を作りだす働きを活性化させるのは、インスリンとフルクトースの過剰摂取だ。炭水化物を多量に摂取すると──そして多少のたんぱく質も摂取すると──インスリンの分泌が促され、脂肪を新生する働きが始まる。脂肪の新生が活発になると、多量の脂肪が作られる。
(第2回へ続く)
◆教えてくれたのは:医学博士・ジェイソン・ファン(Jason Fung)さん
医学博士。減量と2型糖尿病の治療にファスティングを取り入れた第一人者。その取り組みは『アトランティック』誌、『フォーブス』誌、『デイリー・メール』紙、「FOXニュース」などでも取り上げられた。ベストセラー『The Obesity Code』(『トロント最高の医師が教える世界最新の太らないカラダ』サンマーク出版)の著者。カナダ・オンタリオ州のトロントに在住。