
スペシャルドラマとして26年ぶりに帰ってきた反町隆史主演の『GTO』。ラストシーンで見せた鬼塚英吉役の反町と冬月あずさ役の妻・松嶋菜々子が並んで歩く“夫婦共演”も大きな話題でしたが、ライターの田中稲さんが注目するのは、当時、反町が自ら歌い同ドラマの主題歌として大ヒットした『POISON』です。「時代を映す鏡」である学園ドラマとその主題歌について、田中さんが綴ります。
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ここしばらく、私の鼻歌と掛け声はすべて「ポイズン」である。空を見れば「ポイズン」、原稿に悩んだら「ポイズン」、席を立つのも「よいしょ」の代わりに「ポイズン」——。お察しの通り、4月1日に放送された『GTOリバイバル』をいまだに引きずっている。

スマホの四角い画面を通して自分の価値を判断していく生徒の問題を、ガラケーユーザーの鬼ッチ(反町隆史演じる鬼塚)がチェーンソーで破壊、バッティングセンターで憂さ晴らし、という少々時代錯誤な方法で向き合うのだ。このドラマで、世の中は「SNSに疎い(一喜一憂しない)、言いたいことを対面ではっきり言える人」を待っているのだと痛感した。

そう考えると、主題歌『POISON〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜』が今の時代にもピタリと合っており、改めてこりゃすごい曲だと思った。イントロで心臓がグォッと持ち上げられる感覚! 思春期の若者だけでなく、レジスタンス精神を忘れかけた私のような中年にすら響く。しかも、赤ちゃんまで泣き止むというではないか。万能すぎる。作詞は反町隆史ご本人。グレイトな仕事である!

「学園ドラマは時代を映す鏡」とは本当にその通りだった。せっかくなので、忘れられない名作学園ドラマと主題歌を、時代順に追っていこう。
子供の頃に観た1970年代の学園ドラマをいま振り返れば、キーワードは「先生が熱血&破天荒」。中村雅俊さん主演の『ゆうひが丘の総理大臣』(1977年)、宮内淳さん主演の『あさひが丘の大統領』(1979年)は、教師が生徒よりだらしなかったり、無茶な方法を取ったりし、それが解決につながるスタイルだ。『GTO』の先輩的存在と言っていいかもしれない。
『あさひが丘の大統領』の熱血教師、宮内淳さんのあだ名なんて「ハンソク(反則)」である。オーノー、コンプライアーンス(叫)! 「ムービノーン(Movin’on)」と繰り返す主題歌『新しい空』(小出正則)は、センチメンタルだけど明るい絶妙なメロディーで、当時私は10歳だったが、すごく心に残っている。改めて作曲家を調べたら、さすがの吉田拓郎さんであった。


「不良生徒」と向き合った1980年代
1980年代の学園ドラマのキーワードは「わかりやすい不良生徒」だろう。1980年前半は特に学校荒廃が全国的に問題になっていた影響を受け、ドラマでも「おお、こいつはあきらかにツッパリだ!」と露骨な不良ファッション&言葉遣いの生徒が登場。しかも意外に心根はイイ奴だったりする。『スクール☆ウォーズ〜泣き虫先生の7年戦争』(1984年)は熱かったなあ! 麻倉未稀さんが歌う主題歌『HERO』なんて、聴くだけで力がわいてくるもの。

『3年B組金八先生』(第1シリーズ:1979-1980年)も絶対外せない。髪を耳にかけ「あ、人という字はぁ↑」と首を振りながら言う武田鉄矢さんのモノマネは、今でも時々する。ちなみに私は三原じゅん子さんが演じる山田麗子の大ファンだった。

主題歌は海援隊『贈る言葉』。歌詞にある「暮れなずむ」という言葉が最高である。授業と部活が終わった帰り道の夕方の風景が、特別に綺麗だったことを思い出せる。

1980年代の終わりに放送された『はいすくーる落書』(パート1:1989年)は不良学生のたたずまいがガチであった。特に萩原聖人さん、的場浩司さんの迫力がハンパではなく、彼らの成長と、斉藤由貴さん演じるいづみ先生の成長は、ヒリヒリハラハラ目が離せなかった。
THE BLUE HEARTSが歌う主題歌『TRAIN-TRAIN』は最初、あまりにも飾り気のない歌声に感じられ、生徒役の方が特別ユニットを作り歌っていると勘違いし「それにしてはうまいな」とびっくりした覚えが……。止められないエネルギーが伝わってくる名曲である。
学園ドラマに「トレンディ」の風が吹いた
1989年から1990年代前半は、学園ドラマにも「トレンディ」の風が吹く。バブル景気を受け、学園生活までシャレオツに! 陣内孝則さん主演の『愛しあってるかい!』(主題歌:小泉今日子『学園天国』)と浅野ゆう子さん主演の『学校へ行こう!』(主題歌:チェッカーズ『How’re you doing,Guys?』)は、主題歌のノリまでスタイリッシュだった。カッコいいボーカル&シャウトと重なるOPタイトルはポップ、登場人物の洋服はやたらセンスいい、セリフはチャラい。ストーリーは「楽しかった」しか記憶に残らない。とにかく丸ごとバブル! これもまた名作の一つの在り方だ。

しかし1990年代後半からバブル後遺症が深刻化し、世の中がドッと暗くなる。さらにネットが一般普及し、それについていけない大人の信頼は地に落ち、2000年代前後の学園ドラマのキーワードも「シラケる生徒、いじめ」だ。
彼らに若者らしい情熱を思い出させる『GTO』(1998年)の鬼ッチ(破天荒型)や『ごくせん』(第1シリーズ:2002年)の仲間由紀恵さん演じるヤンクミ(可愛い熱血)もよかったが、やはり特筆すべきは『野ブタ。をプロデュース』(2005年)!
先生ではなく、人気者の生徒が学園を変えていくのが胸アツ。いじめられっ子、野ブタ役の堀北真希さんがきれいになり、自信をつけていく姿は眩しいほどだったし、なにかと深いドラマだった。このドラマの主題歌『青春アミーゴ』(修二と彰)は悪ガキ相棒感が絶妙。以前私はカラオケスナックで、40代くらいの男性2人が肩を組み、これ以上ないというほど楽しそうに「地元じゃ〜負け知らず〜♪」と歌っているのを見たことがある。尊くて泣けた。
普通の生徒にスポットを当てた『鈴木先生』
2010年ごろになると、わかりやすい不良はいなくなり、「人知れず悩む」がキーワードに。
2011年、印象深かったのが長谷川博己さん主演の『鈴木先生』で、誰もが何か抱えているドラマだった。普通の生徒が、誰かがさぼった分の掃除だったりを人知れず負担することになり、毎日少しずつとても静かにパワーをすり減らしていく、という回があった。
これを「今の学校教育は、手のかからない生徒の“心の磨耗”の上に支えられている」という言葉で問題提起した回は「そうなんだよ! 大変なのは特別な事情を抱えた子たちばかりじゃないんだよ! よくぞ描いてくれた」と感動した。馬場俊英さんが歌うエンディング曲『僕が僕であるために』も沁みたなあ。
数十年を一気に振り返ったが、どの学園ドラマも、ドキドキ、ズーン、ウルウル、キャッキャすべてが詰まっている。そりゃそうだ。人生で一番多感な時期が、さらにドラマチックに描かれているわけなのだから! 教師の熱演、名言、生徒たちの話し声、黒板に文字を書くカツカツという音などが響くなか、主題歌のイントロが重なり、OPタイトルが来て、歌詞がバーンと流れる……。
それが合図となり、私たちの目の前に「もう一つの青春」がやってくるのだ。
みなさんの心に残る学園ドラマはありましたか。もちろん「あのドラマが入っていないではないか」というポイズン(異論反論)、おおいに認めます!
◆ライター・田中稲

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka
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