ネガティブフィードバックの4つの価値
あえて厳しいことを言うネガティブフィードバックには、4つの価値があると難波さんは言います。1つ目は「組織のため」。会社などの組織は変化し続ける社会や顧客に適応し続けなければならず、それは社員にも求められます。しかし、すべての社員がその期待に応えられている状態にするのは難しいもの。
「他の社員の頑張りや過去の財産で現状はカバーできていたとしても、期待を下回る状況を放置していると、やがて組織運営の障害になることがあります」
本人の成長の機会を奪わないため
2つ目は「部下本人のため」です。厳しいことを言われずとも、自分で改善をくり返せる人もいますが、その一方で、言われるまで気づけない人も一定数存在します。また、期待に応えられていないことに薄々気づきながらも、上司から指摘されないため、「このままでいい」と解釈してしまう人もいます。
「いずれにしても、ギャップが生じている場合はフィードバックしてあげないと、部下の気づきの機会、そして成長の機会を奪うことになります」
周りの不満を生まないため
3つ目は「周りのため」。上司が期待に応えられていない部下を見て見ぬふりしたり、やってもやらなくても何も言わなかったりすると、「真面目に働くと損をする」という不満が水面下で蔓延するようになります。
「特に、将来有望な自律的な若手ほど『この会社にいても成長できない』『目指したい先輩がいない』と感じると退職を選択する可能性が高くなります」
上司の振り返りや成長にもつながる
そして4つ目は「上司自身のため」です。「言いたいこと」や「言ってあげたほうがよいこと」を言わずに我慢するとストレスになりますし、仮に部下のローパフォーマンスを自分のパフォーマンスでカバーしている場合、本来部下に任せる業務を上司が担っている点で組織にとってもマイナスです。
また、部下に厳しいことを伝えることは、「部下に求めることを自分はできているか」、「部下との関係性構築ができているか」といった、上司自身の振り返りや成長にもつながります。
「相手に厳しいフィードバックをするということは、我が身にブーメランがはね返ってくる可能性があるからです。勇気がいる行為ですが、その先に上司自身と部下の成長が待っています」
◆教えてくれたのは:人事コンサルタント・難波猛さん
なんば・たけし。マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタント。早稲田大学卒業。コンサルタントとして3000人以上のキャリア開発施策、2000人以上の管理者トレーニング、100社以上の人員施策プロジェクトにおけるコンサルティング・研修等を担当。セミナー講師、大学講師、官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。著書に『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』(アスコム)など。