論理的な“骨格補正メイク”につながる建築士の仕事
新卒で入社したインテリア商社での仕事は、ショールームでの案内からはじまったそうです。
「社内研修では、お客様をご案内するときのために、簡単にですが図面の勉強もしました。新築で家具を一式買い揃えるようなお客様は、図面を持ってきたり、設計士を連れてきたりします。そこで、この間取りで、この縮尺だから、この家具ならここに入って、人が通る幅もこれくらいあって…ということをお話しできるようになって。
仕事をするにつれて、設計士と話していて、リフォームの場合ならこの家具を置くために壁を抜きましょうかとか、新築の場合ならここをもうワンスパン広げて…といった、もっと自由に提案できることを知って、私もこの資格を取れたら仕事の幅が広がるんじゃないかなと思ったんです。家具やインテリアを突き詰めてみたら、もっと自分で作ったり動かしたり、空間をより工夫できるように、建築をもっと勉強したくなったんですよね」
二級建築士を目指して退社、社会人学生に
設計や建築の資格取得を目指すものの、仕事は夜遅くまで続いてハード。資格の勉強をしながら働くというのはとても考え難く、池田さんは入社から3年で退社を決意します。退社に迷いはなかったのでしょうか?
「ハードだったこともあって、だいたいの女性は3年ほどで体調不良か結婚かで辞めていく会社だったんです。しかも、続けていても、本社でバリバリ働く先輩はみんな男性で、女性は基本的に社歴があっても経理などの事務作業の部署。40半ばで建築士の資格を持っている経験豊富な女性の先輩でも、ショールームで未だに新卒と同じ案内係だったりして。
今はきっと変わったとは思いますが、当時は自分の思い描く未来が見えなくて、これ以上この会社にいてもしょうがないのかなと、退職に後悔はありませんでした」
退職後は、定時で終わる派遣の仕事をしながら、設計の勉強をするために夜間の専門学校へ通う生活を続けていたのだそうです。
「社会人向けのキャリアスクールで、手書きの図面とパソコンでCAD(コンピュータ支援設計)を学んで、一通り知識を身に着けました。二級建築士を受験する資格は大学で建築に関する学科を卒業していればすぐに取得できるんですが、そうでない学科の場合は7年の実務経験が必要だったんです。なので実務経験を積みながら、30歳を過ぎた頃にやっと資格を取得できました」
論理的な説明や資料を作り込む力はどんな仕事にも活きる
インテリアコーディネーターの資格を取得していた池田さんは二級建築士の資格を取得し、念願の仕事がスタートしました。
「建築士の仕事はとても楽しかったです。大工さんと話しながら、天井裏を覗いてここなら抜けるとか、配管をこう回せばフラットになるとか、空間を作る仕事ができることに喜びを感じていました。ただ、仕事量はインテリア商社よりもさらにハードになって、家に寝に帰るだけの生活でした。
現場は男性ばかりで、私が言っても聞いてくれないのに、年配の男性が同じことを言えばすぐに聞いてもらえて解決するということもよくあって、やっぱり男性社会なんだなぁと思うこともありましたね。毎日何かしらクレームがあり、休みもあまりなくて、楽しさの中にもストレスは多かったです。当時は分業がなく、営業以外のもろもろ、例えば工程管理や業者の手配、部材の搬入の日程なども全て設計担当者が決めていたので、力は付きましたが大変なこともたくさんありました」
当時は仕事が忙しくてメイクは二の次だった池田さんは、今この仕事をしているとは予想もしていなかったそうです。
「けれど、論理立てて現場のスタッフやお客様に説明するために、資料を用意したり、図面をきっちりと作り込んだりといったことは、今のメイク講師としての仕事に活きているなと思えますし、キャリアは意外とつながっているんですよね」
◆教えてくれたのは:骨格補正メイク専門家・池田曜央子さん
青山学院大学経済学部卒業。建築士として活動後、美容・ファッションを学び、メイク講師の道へ。好印象な美人に近づける“骨格補正メイク”を考案し、1000名を超える女性を劇的に変身させる。一般社団法人日本骨格バランス協会代表理事を務めるほか、池田曜央子メイクアップアカデミーを開講。著書に『骨格補正メイク「顔の比率」を描き変えて、一生美人!』(主婦の友社)。https://ameblo.jp/nyankosan0916/
撮影/黒石あみ 取材・文/イワイユウ