バラードの天才、木根尚登
ビックリしたと言えば、ギターの木根尚登さんが、かなり前、ある番組にて『Get Wild』当時はギターが弾けずエアギターだった、とサラッと告白したのは驚いた。しかも彼の代わりに影武者としてギターを弾いていたのが、当時サポートミュージシャンとして参加していたB’zの松本孝弘さんとは!
5月15日にリリースされるTM NETWORKトリビュートアルバム「TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-」では、B’zが『Get Wild』をカバーしているが、松本さんにとっては昔取った杵柄状態だったろう。なんとワイルド&タフなネタなのか。ちなみにB’z版『Get Wild』を少し聞いたが、「何も〜怖くはな〜い〜ヤッ!」「ゲッワイルエンチャーッ!」など稲葉さんの独特のシャウトがさく裂し、最高だった。
話を戻そう。木根さんがエアギターを語るに至った経緯が、ある番組で「今だから話せるネタはないですか」と話を振られ、突発的に話したというから、彼のサービス精神旺盛なお人柄が伝わってくる。
木根さんの語り口調は飄々として本当に面白い。ところがデビューまもなくの彼らは、宣伝戦略的に「面白さ」を徹底に避ける方針を取っていたため、面白い雰囲気を持つ木根さんはトークに参加できなかったそうだ。あくまでウィキペディア情報ではあるが、私は唸ってしまった。面白さを避けるなど、私が住む大阪では考えられない……!
面白さは横においても、木根尚登さんの作るメロディーはとても美しい。私は佐々木ゆう子さんの楽曲『PURE SNOW』はアイドル史に残る名バラードだと思っている。私の友人は、やはり彼が作曲したTM NETWORKの『GIRL FRIEND』を、大切な大切な青春の一曲だと言っていた。
やさしく、切実な戦いの歌
『GIRL FRIEND』は、映画『ぼくらの七日間戦争』の挿入歌。そして『GIRL FRIEND』も『SEVEN DAYS WAR』も、どちらもバラードだ。荒々しさがなく、静か。だからこそ、生徒たちのくじけない愛しさがひしひしと沁みる。そして、壊したいわけではない、背きたいわけでもない。素直に生きたいだけ、というひたむきさが伝わってくる。
こんなにやさしく、切実な戦いの歌は、なかなかない。
人は誰もが傷つきやすい天才で、今のもがきや悩みも、その傷ついた夢を取り戻す作業なのかもしれない。そんな風に思えるTM NETWORKの音楽は、未来的なのに、なぜだか純粋に何かを追い求めることができた、「あの頃」も思い出させるのだ。
まるで、心の秘密基地に流れる歌である。
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka
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