一大ブームとなった終活だが、光もあれば影もある。特に、“生前整理”として手放したモノは戻ってこない。「あれは捨てなきゃよかった」――そんな後悔を生まないために、一体どうすればいいのだろうか。終活やそれに伴う生前整理に否定的な立場をとる精神科医の和田秀樹さんや女優の由美かおるさんが大切だと思うことを語る。【全3回の第2回。第1回を読む】
どう楽しく生きるかを考えた方がストレスが少なく、人生にとって有益
この10年ほど、大量のモノを処分する終活ムーブメントが起こっていたが、思い入れのあるモノを手放したことで後悔している人も多い。買い直して済むならばまだいい方で、せっせとモノを捨てたことで心身に異変が生じることもある。
「私は終活の生前整理には否定的な立場です。本人の意思であるならOKですが、“家族が困るから”“モノを捨てないといけない”と思い込んで行動するのは反対です」
そう語るのは、精神科医の和田秀樹さん。死を過度に恐れたり、「迷惑をかけたくない」と周囲に気を使いすぎて終活に走ることは、大きなストレスにつながると指摘する。
「ストレスは、異常な細胞を排除する免疫細胞の働きを低下させます。その結果、心身に支障をきたしてうつ気味になったり、最悪の場合は免疫力が低下してがんになる可能性もあります」(和田さん・以下同)
さらに高齢者が無理して片づけをすると転倒して骨折したり、ぎっくり腰などで足腰を痛める可能性がある。またこれからの暑い季節、脱水状態になり熱中症になることも心配される。
毎日が充実していたら、生前整理の暇はない
終活に気を取られるよりも大切なのは、残された人生を楽しむことだと和田さんは主張する。
「保険に入ったり、財産の棚卸しをするといった最低限の備えをしたら、あとはどう楽しく生きるかを考えた方がストレスが少なく、残りの人生にとって有益です。死んでから起きることを心配して限りある大切な時間を無駄にするのではなく、現在の生を充実させることこそ健康長寿にもつながると考えられます」
その好例がタレントの黒柳徹子(90才)だ。「終活なんて私にはできそうにない」「生前整理としてモノを減らすことは考えていない」と公言する彼女は、年を重ねてなお元気に楽しく健康に暮らしている。
「いくつになっても前向きでやりたい仕事を続ける一方、自分の意思に沿わないことはどんなに周囲が取り組んでいたとしても流されないからこそ黒柳さんは精神衛生上とてもよい状態で、お元気でいられるのでしょう。また、彼女のように毎日が充実していたら、生前整理の暇はないはずです」
持っているもの把握できるよう“見える化”する
女優の由美かおる(73才)も「終活なんて考えたことない」と語る。
「人間、逝くときにはパタッと逝くものだから、毎日楽しいと思える生活を送りたいし、人々の見本になる生き方をしたいと思っています。私はまだまだやり残したことがたくさんあるから、そもそも終活なんて考えている場合じゃない。自分が帰ってきたときに快適と思える部屋にしておきたいから、片づけは常にするけれど、ごっそり捨てたりはしない。むしろ古いモノほど大切に取っておきます」(由美・以下同)
その性格は母ゆずりだと由美は振り返る。デビュー後、由美は全国のファンから大量のぬいぐるみをプレゼントされた。収納できなくて困っていると、由美の母が施設に寄付することを申し出た。
「そんな母に大きな影響を受けました。モノを大切にする母を見て育ったので、いまも捨てる以外でモノを生かせる方法はないかと考えます。まず大切なのは整理整頓することで、自分が何を持っているかすべて把握できるよう“見える化”を心がけています。
仕事柄、膨大な数にのぼる洋服は、デザインが古くなっても捨てずにリメークしたり、兄嫁やお友達に譲ったりしています。少しの破損なら自分で補修して着ていますよ」
捨てることでストレスを感じるよりモノを大切に
長くモノを持ち続けると、さまざまな喜びが得られると由美が続ける。
「お直しした洋服が形を変えて私の毎日に彩りをもたらしてくれるのがうれしいし、どうやってリメークしようか考えるのも楽しい。古くなった服をリメークする際、“この服はあの日あのときあの場所に着ていったな”と思い出すと急に懐かしくなったり、忘れかけていたことを思い出すきっかけにもなります。モノを捨てることでストレスを感じるより、モノを大切にした方がよほど楽しくて心地よい時間を過ごせますよ」
由美が心がけるのは「健康」でいることだ。
「私も70才を超えてどんどん体は変わっていきますが、だからこそ健康を維持するためにさまざまな努力をしています。何より健康じゃないと、モノの見方や考え方も偏ってくるんですよね。私は周囲の高齢のかたにも健康体になってもらいたいから、ブリージング(呼吸法)のレッスンも行っています」
※女性セブン2024年7月25日号