終わりよければすべてよし――人生100年時代になり、どんどん長くなる人生後半戦をいかに充実させられるかは、満足できる生涯を送れたのかどうかに直結する。とりわけ“最後の最後”、息を引き取るその瞬間を、住み慣れた場所で心安らかに過ごしたいと願うことは決して“贅沢な望み”ではない。その伴走者となる「看取りの名医」を見つける方法を総力取材。ジャーナリストの鳥集徹氏がレポートする。【前後編の後編。前編を読む】
高くてもトータルで月に5万円
家族構成やライフスタイルを問わず、在宅医療の門戸は万人に開かれているのだ。それは資産の有無や貯金額に関しても同様だ。まとまった貯金や収入がなければ在宅死は不可能ではないかと思う人が多いかもしれないが、それも大きな問題にはならない。
訪問診療や訪問看護の費用に加え、介護保険でまかなわれる訪問介護や介護用品レンタルの費用なども別途かかる。さらに、各スタッフの訪問回数が増えれば、その分、自己負担額も増えていくが、高くてもトータルで月5万円程度までといわれている。
また、自己負担額が限度額以上になると医療費が払い戻しされる「高額療養費制度」があり、70才以上で一般所得者の場合、月1万8000円が自己負担の限度額となっている。さらに、生活保護の場合は、医療費は原則無料だ。
まずは家に帰りたいと主張すること
つまり、在宅死に伴う経済的な心配をする必要はあまりなく、どんな環境であっても、家の中で人生を全うすることは可能なのだ。ただしその環境が信頼できる在宅医を見つけられるかどうかによって左右されることも事実だ。
病院での治療に見切りをつけて、患者本人が家に帰ることを望んだ場合、どのように在宅医を探せばいいだろうか。やまおか在宅クリニック(大分市)院長の山岡憲夫医師がアドバイスする。
「理想的な環境で在宅医療を受けるための第一歩は、主治医に『家に帰りたい』と伝えることです。看護師さんでもかまいません。希望が伝われば、しかるべき担当者につなげてくれるでしょう。例えばがん治療を行う病院であれば『退院支援室』『患者支援センター』『地域医療連携室』といった名称の部署が必ずあります。そこで担当者に相談すると、退院までに何を準備すればいいか、地域にどんな在宅医がいるのかなど、必要な情報を教えてくれるはずです。すでに退院している場合は、自治体の『地域包括支援センター』に聞いてみるのもいいでしょう。
どの地域も在宅医療に取り組む医師が増えています。ですから一度は、紹介された医師を受診してみるといいと思います」
病院との連携も視野に
東京などの大都市であれば、生活圏内に多数の在宅療養支援診療所があり、病院で相談すると複数の施設を紹介される可能性が高い。そうした場合、何に留意して病院を決めるべきか。やまと診療所(東京都板橋区)の安井佑医師(医療法人社団焔理事長)はこう話す。
「紹介された複数の診療所に、事前に電話をしてみるといいでしょう。家族の病状を伝えたうえで、『家に帰りたいのだけれど、どうすればいいですか』と話してみて、どれだけ丁寧に相談に乗ってもらえるかが、ひとつの見極めポイントになると思います」
札幌在宅クリニックそよ風(札幌市)院長の飯田智哉医師は「病院との連携も視野に入れていい」とアドバイスする。
「看取りまでの時間が長ければ、ご本人やご家族を取り巻く環境が変わり、状況によっては入院が必要となる場合もある。私たち在宅医も、いかなる状況下においても家で看取ることが絶対的に正しいとは思っていないし、“いざというとき”の選択肢が残っていることはご家族の安心にもつながります。
また、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所を併設していたり、複数科の医師が在籍する医療機関、特に看取りをしっかりやっている在宅療養支援病院や診療所は24時間365日患者さんと対峙する診療の量を分担できるため手厚いケアが受けられる可能性が高いです」
在宅での看取りの実績も、ひとつの目安になる。それまで、看取り実績(単独または連携して)が年間4件以上などの条件を満たした届け出施設を「機能強化型」在宅療養支援診療所(または病院)として診療報酬を加算する仕組みがあった。それに加え、2016年には「在宅緩和ケア充実診療所・病院」加算が設けられた。山岡医師が話す。
「この届け出が認可されるためには、緊急往診が年間15件以上、在宅看取りが同20件以上などの条件に加えて、医療用麻薬の投与実績なども問われますので、ホームページなどに在宅緩和ケア充実診療所の記載があるかどうかも、施設選びの目安となるでしょう。
在宅看取りの数が多いということは、それだけ末期患者が病院から紹介されているということであり、地域で信頼されている証でもあると思います」
ただし、看取りの数が多いといっても、多数の介護施設と連携して、多くの寝たきりの高齢者を看取っている場合もある。家で最期を迎えることを望んでいる場合には、あくまで「在宅」の看取り実績に注目してほしい。
80~90年代にかけての在宅ケアの黎明期に志ある在宅医がたったひとりで24時間365日対応し、命を削りながら最期まで並走することが多かった。しかし近年は、複数の医師が所属し、たくさんの看護師や相談員とチームを組んで、数多くの在宅看取りを行う施設が増えた。今回、本文で紹介した医療機関も、たくさんの医師が所属し、看護師や相談員などと複数のチームを組んで、24時間365日対応できる体制を作っている。
在宅で愛する人を看取った家族は悲しみの中にあっても、最期まで一緒に過ごせたという満足感を覚えることが多いという。あなたも含め、誰もがいつかはこの世を去る。
そのときに備えて、住み慣れた地域で最期まで伴走してくれる信頼できる在宅医を見つけておけば、より安心な毎日を送れるだろう。
※女性セブン2024年7月25日号