介護と切っても切り離せないのがお金の問題です。介護にはお金がかかりますが、金銭的な負担を気にして介護サービスを使わないでいると、今度は身体的・精神的に負担が増え、状況が悪化してしまうことになりかねません。介護にかかるお金や介護におけるマネープランのポイント、そして介護をするにあたって利用できるお金の制度について、『老老介護で知っておきたいことのすべて』(アスコム)を上梓した、看護師で看護・介護ジャーナリストの坪田康佑さんに教えてもらいました。
介護にかかるお金を知る
介護をするにあたって必ず考えなければならないのがお金のこと。介護保険を利用すれば1~3割の自己負担で介護サービスを受けることができますが、要介護度ごとに支給限度額が決まっています。
支給限度額は地域によって多少増減しますが、要支援1は1か月あたり5万320円、要支援2は10万5310円、要介護1は16万7650円、要介護2は19万7050円、要介護3は27万480円、要介護4は30万9380円、要介護5は36万2170円が目安です。
「例えば、要介護2の認定を受けた方は、月々合計19万7050円までの介護サービスを自己負担1~3割で利用できます。それを限度額いっぱいに利用すると、1割負担の場合は1万9705円が月々の自己負担額になるということです」(坪田さん・以下同)
介護費用は月5万円が目安
ただし、その金額にはおむつや介護食、清拭・入浴用品などの介護関連用品の購入費や医療費、通院のための交通費などは含まれません。
「公益財団法人生命保険文化センターの『2021年度生命保険に関する全国実態調査』によると、これらを含む在宅介護に要した月々の費用は、1か月あたり平均4.8万円と算出されています。平均値ではありますが、大よそ5万円と考えておけばよいでしょうか」
施設介護の利用は入居施設を比較検討する
在宅介護から施設介護へ切り替えたいと考えた場合は、入居する際に支払う「入居一時金」と毎月支払う「月額利用料」を合わせた施設介護にかかる費用の目安と、夫婦で受け取る年金額や貯蓄などの「使えるお金」を考慮して、入居する施設を比較検討することが重要です。かかる費用は施設によって大きく異なり、入居一時金に関しても0円の施設もあれば、数十万円かかる施設もあります。
「住み慣れた都市部で施設を検討してみて、費用面の折り合いがつかない場合には、検討するエリアを近隣へ広げてみることも1つの手です。もしくは、親戚や知人のいる地域、生まれ育った地域などに移り住むということも、施設選びの選択肢として考えてみてはいかがでしょうか」
やりたいこととやれることを踏まえてマネープランを立てる
介護はどうしてもお金がかかるものですが、お金を優先して介護サービスの利用をやめてしまうと負担が増え、状況が悪化してしまう可能性もあります。そのため、重要なのは「お金をかけるところにはかける」ということ。何にお金をかけるかを考える際は、「やりたいことや叶えたい暮らしを考え、自由にあげてみてください」と坪田さん。そのうえで、自分たちの年金と貯蓄で現実的にやれること、叶えられることについて考えるのがいいと言います。
「介護保険にはさまざまなサービスや支援のメニューがあり、本人次第で自由に選び、組み合わせることができます。他の社会保障制度と比べても、自由度が高い仕組みになっていますので、ぜひ積極的に活用してください」
年金受給額の把握はマスト
無理のない範囲で介護サービスを利用していくためには、夫婦でどれくらいの年金を受給できるのかを把握しておくことが重要です。日本の公的年金は「2階建て」の仕組みとなっており、日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金」と、会社員や公務員などが加入する「厚生年金」で構成されています。
仮に、夫婦ともに国民年金のみの場合は、年金だけで2人の生活費や介護費用をまかなうことが難しいと考えられているため、その場合は早めの資産運用や国・市区町村の支援の活用などを検討しましょう。
「夫婦どちらか、もしくは夫婦ともに厚生年金の上積みを見込める場合も、勤労中に比べると収入が目減りするケースが多いと思いますので、勤労中よりも生活費を抑えることを習慣化することが大切です」
年金のもらい漏れに注意
そして気を付けておきたいのが、年金の「もらい漏れ」。公的年金には、65歳以降に受け取れる「老齢年金」のほかに、遺族に支給される「遺族年金」や、病気などで障害が残った人に支給される「障害年金」もあります。さらに、こうした公的年金の受給権には5年の時効があるという点にも注意が必要です。
「やむを得ない事情で期間内に申請できなかった場合には、時効を撤回する申し立てをできますが、原則として、例えば遺族年金の場合、受給権(基本権)は被保険者が亡くなった日の翌日から5年間で消滅します。申請すれば5年分をさかのぼって受給することが可能ですので、『もらい漏れ』をしてしまわないようにご注意ください」