手軽さや簡便さも重視され、健康食品やサプリメントなど、健康増進・病気予防に関連するビジネスが活況だ。病気を未然に防ぐ予防医療の役割のほかに早期発見を叶える健康診断も健康ビジネスの代表格。しかし、本当に意味があるのか、専門家は「健診と寿命の関連性ははっきりしていない」と指摘。他にも専門家から注意喚起が続々と出た。
欧米にはそもそも健診という発想や制度もなし
日本では、企業に勤めていると年に一度の健診が義務づけられており、自治体でも積極的な受診を推進している。しかし、すべてに意味があるわけではない。長浜バイオ大学教授の永田宏さんが言う。
「欧米にはそもそも健診という発想や制度がありません。本当に有効であれば導入しているはずです。日本は健診が制度化されているから長寿なのだという人もいますが、一方で、平均寿命が世界で2位のスイスでも健診は行われていません。つまり、健診と寿命の関連性ははっきりしていないのです」(永田さん)
「健診には健康を損なう検査もある」との指摘
新潟大学名誉教授の岡田正彦さんは「寿命を延ばす根拠がないどころか、健診には健康を損なう検査もある」と警鐘を鳴らす。
「たとえば、かつて結核患者を見つけるために始まった胸部X線検査は、現代ではほとんど意味がなくなりました。
代わりにCTによる肺がん検診が増えていますが、低線量でも胸部X線に比べると被ばく量は数十倍です。治療の必要のない小さながんを見つけ、過剰医療につながる恐れがある。被ばくリスクをおかしてまで受ける必要はありません」(岡田さん・以下同)
効果よりもリスクが懸念される検査項目について、バリウム検査も挙げる。
「角度を変えて撮影する必要があるので、長時間にわたって放射線を浴びることによる発がんリスクがあります。精度も低く、少しでもなにか違和感があれば、結局胃カメラを受けなければいけないので二重の苦痛になる。検査後にバリウムの排出が滞るかたもいて、腸閉塞を引き起こす恐れもあります」
製薬、食品など各業界に“高血圧市場”
検査結果が標準値から外れると再検査や医師の診察を受ける必要があり、そもそもこの標準値こそが“ビジネスの温床”になっていると岡田さんは続ける。
「数値を厳しくすれば異常値と診断される人が増え、そうした人たちは医師の診察を受け、数値改善のために薬をのむようになります。たとえば血圧の数値は、私が医師になって以降、どんどん厳しくなっていて、そのたびに“製薬業界が喜ぶね”と医師の間で話題になるほどです」
実際、基準値を厳しくしたことで「患者が増えた」と話すのは永田さんだ。
「血圧は基準値を厳しくしたことで、患者は大幅に増えました。そして、製薬業界の売り上げは急増した。
血圧の数値については製薬業界だけでなく、食品や医療機器といったいくつもの分野が興味関心を持っていて、健康食品業界では、“血圧を下げる”とうたったトクホや機能性表示食品などで1兆5000億円とも2兆円ともいわれる“高血圧マーケット”を形成しています。家庭用血圧計などの需要も高まるでしょう。数値がちょっとでも緩くなれば売り上げは激減しますから、各業界はこぞって現在の設定基準値を“バックアップ”しているのです」(永田さん)
同様のことは、コレステロール値においてもいえる。精神科医の和田秀樹さんは、
「コレステロール値が高いと心筋梗塞になりやすいことは確かです。だからといって薬をのんで数値を下げればいいのかというと一概にそうとは言えません。コレステロール値は低ければ低いほど、がんになりやすいという研究もあります。女性の場合は骨粗しょう症にもなりやすくなる。
しかし、これも血圧と同じで“コレステロール値の基準が厳しい方がいい”ビジネスがあるわけです」(和田さん)
健診は病人を作る仕組みになっている側面も
そもそも、血圧もコレステロール値も加齢とともに上昇するのはごく自然なこと。にもかかわらず基準は全年代で統一されている。
「誰でも年を取れば血管が硬くなるため、血液を全身、特に脳に送るための反応として血圧は上がります。健康診断は、まるで“病人”をつくる仕組みになっている側面もある」(岡田さん)
健康診断のほかにも、がん検診や人間ドックなど、予防医療といわれる健診・検診は多岐にわたる。予防医療は、医療費削減にも効果があると標榜されるが、「先送りされるだけで総額を見れば削減にはならない」と結論づけた論文もある。
一方で、健診事業こそが「儲けの道具」になっているのが現実だ。「健診事業で収益を上げる」「高単価の人間ドックで効率のいい収入源にしよう」というセールスが実在している。健康診断で利するのは、医療業界やそこに連なるメーカーで、受診者にとっては過剰医療のリスクにさらされるだけなのだ。
※女性セブン2024年8月8・15日号