2022年の国税庁のデータによれば、被相続人約157万人に対し、相続税が課せられたのは約15万人で、全体の9.6%。つまり10人に1人が相続税を課されていることになる。 また、2022年度に遺産分割をめぐって全国の家庭裁判所に持ち込まれた審判および調停、すなわち「相続争い」の件数は1万2981件。そしてそのうち8割近くが、遺産総額5000万円以下の「普通の家庭」で起きていた。
相続制度はいま「激変」の真っただ中にある。例えば、昨年末までは亡くなる直前から「3年前まで」に生前贈与した財産は相続財産に加算されていたのが、今年1月1日以降に発生した相続は「7年前まで」さかのぼらなければならなくなった。さかのぼった結果相続財産に加算があれば、必然的に多くの相続税を課せられる可能性が高まる。
相続は決して他人事ではない。いざ自分が相続税を払う境遇に置かれ、さらには相続争いの当事者になったときに、絶対に損しないための方法はあるのか。激変する相続のルールのもとでいかにして相続税を抑え、もめ事を防ぐか──専門家たちに聞いた。
【目次】
「現状把握」なくして相続税対策なし
自分が相続する立場になったとき、まず考えるのは「なるべく相続税は払いたくない」ということだろう。相続税対策として最初に行うべき重要な作業は「現状分析」だと話すのは、税理士の大田貴広さんだ。
「預貯金はもちろん、有価証券や生命保険、高価な家財、そして不動産など、すべての財産の評価額を洗い出します。不動産は毎年送られてくる固定資産税の納税通知書を見れば建物の評価額がわかります。
土地については、首都圏の路線価地域であれば、国税庁の路線価図を見れば自分でも概算できます」
次に、法定相続人の数を確定する。相続税の基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人の数」なので、例えば相続人が3人なら合計4800万円までは相続税が非課税になる。
「例えば、夫が亡くなったときの財産総額が1億円だった場合、妻と子供1人で4200万円の基礎控除を除いた5800万円に課税される。妻と子供が2分の1ずつ、それぞれ2900万円相続するとすれば、相続税は385万円になります」(大田さん・以下同)
この385万円を節税する方法がある。使うべきワザは「遺産の分け方」だ。
「父(夫)が亡くなった場合の『一次相続』では、配偶者である母(妻)は1億6000万円までは非課税で相続できます。つまり、財産総額が1億6000万円以内なら、すべて母が相続することで、相続税は0円になるのです。
一方で、このときに母がひとりですべての財産を相続すると、母が亡くなったときの『二次相続』で、相続人となる子供に多額の相続税が課せられることが多いのです。前出の財産1億円を妻が全額、配偶者控除を利用して相続しても、すぐに亡くなって子供がその1億円を相続すると、約1220万円もの相続税が発生してしまいます」
父(夫)が亡くなった一次相続のタイミングで、母(妻)だけが相続するか、母子2人が分け合うかの判断について、不動産専門ファイナンシャルプランナーの友利真由美さんが言う。
「判断基準となるのは妻の健康状態です。もともと病気がちだったり、認知症のような症状が見えているときにすべて相続すると、認知機能の低下を理由に相続税対策のための契約ができなくなったり、最悪の場合、対策を練る間もなくすぐに二次相続になってしまうかもしれません」
不動産を買うなら「小口」「軍用地」を
遺産の分割だけで対処しきれない場合は、被相続人が元気なうちに財産総額を減らす手がある。定番は「不動産の購入」。沖縄在住の友利さんがおすすめするのは「軍用地を買う」という裏ワザだ。
「沖縄では、米軍基地に軍用地として貸し出す土地が売買されており、ここを購入すると、国からの借地料が得られるうえ、相続時の評価額を4〜5割まで抑えられるのです。
さらに、相続と納税が終わった後にその土地を現金化すると、購入時の金額のまま売れる場合もあり、節税にはうってつけ。沖縄県内の不動産会社に相談する必要がありますが、購入は全国どこに住んでいても可能です」(友利さん)
一方、大田さんが目をつけるのは「小口不動産」だ。
「都心の一等ビルなどを1000口などに分割したもので、1口100万円ほどで投資できる。
500万円で5口買っても、相続税上の評価額が110万円以下になる場合も少なくないのです」(大田さん・以下同)
しかも、小口不動産は購入から売却まですべてデベロッパーが請け負っているので手間いらずだ。