
ライター歴30年を超えるベテランのオバ記者こと野原広子(66歳)。昨年、介護をしていた母の死、自身の大病などを経験。そして最近は心臓にも不安を抱えるようになった。そんななか、ゆっくりと始めた「終活」。自らの葬儀や墓についてオバ記者はどう考えるのか――。
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母親の介護が終わり「次なる話題はお墓と葬式」
終活をしようと思い立って、まずは自分の葬式費用をつくらねばと思った私は、積立式の生命保険に入ったという話を前々回書いた。「私が死んだらアンタに500万円入っから、それで片づけてな」と11歳下の弟に言ったら「おお」でオシマイ。まあ、実感が湧いてないんだよね。私だってそうだもの。

しかしこの春はなんかヘン。66歳の誕生日をまたいで体調が絶不調で、気持ちのアップダウンも激しいんだわ。これでもし私に何事かあったら、「生命保険に入ったのはムシが知らせたんじゃない?」と言われるのかしら、なんて考えちゃう。
母親の介護が終わったとき、ひと回り年上の女友だちに言われたの。「次なる話題はお墓と葬式よ」と。いやいや、そうなる前にもうひと話題あるんだよね。それは「遺影を撮りたい」。「あなた、仕事で腕のいいカメラマンを知っているでしょ? それなりのお金を払うから私の遺影を撮ってくれる人、紹介してくれないかな」と。で、見せられたのがちゃんとしたスタジオでモデル立ちをして笑っている老美女の写真よ。「私の友人なの。写真のイメージはこんな感じ」って、なるほどね~。

「遺影」と言いながら“美しい自分”を撮ってほしい友人
「遺影」なんて言うから話がややこしいんで、彼女は自分が亡くなることなんか1ミリも考えていないんだよ。ほんとうのところはいちばん美しい今の自分を撮ってほしいのよ。でもそうは言えないから「遺影」と言っているだけ。そう言えばヘア、メイクの人にあれこれかまってもらって、カメラの前に立つ言い訳が立つ。勇気も湧くと、そんなカラクリだったわけ。でもどうしたことか、本格的に撮る話はいつの間にか立ち消えになった。どうやら写真館でお手頃価格で撮ったものの、想像したような出来じゃなかったみたい。

24歳で結婚したときに決めた「冠婚葬祭は人任せにする」
ひと回り年上の女友だちが話題にしているという「お墓とお葬式」はどうか。これに関して私は24歳で結婚したときに決めたことがあるのよ。冠婚葬祭は人任せにする、と。結局、それがいちばん効率よく人に知らせられて、お金もかからないんだもの。長年、人が続けてきた風習にはそれなりの意味があるんだって。
こんな話がある。私の男友達Aさんの父親が83歳で亡くなったのね。彼はひとりっ子で妻とふたり暮らし。子供はいない。Aさんの父親の口癖は「墓はいらない」。父親は新潟出身の長男だけど、家を継がなかったのね。そうしたら「墓を守っているんだから」と実家の資産のほとんどが次男の手に渡った。そうなるまで長いこと裁判で争ったそうな。そのことを父親はAさんにほとんど話していない。ただ「墓はいらない」と繰り返したんだって。
その父親が入院して、いよいよ死期が迫ってきた。どう父親を葬るか。リアルにAさんは迫られた。いろいろな資料を取り寄せて埋葬方法を調べた彼が出した結論は樹木葬。

「広い公園みたいなところで、そこに植えられている木が墓石代わり。パンフレットを見てここならオヤジも納得して眠れそうだなと思ったんだよ。お葬式もしたけりゃ自分でお坊さんを頼んですればいいし、したくなければ業者が木の下に穴を掘ってくれたところに骨を埋めればいい。うちにはお寺との付き合いなんかないから、宗教行事は何もしないことにして、市の火葬場で焼いた骨を木の下に骨を埋めることにしたわけ」
「オヤジの頭蓋骨をかち割れるかよ」
「合理的で悪くないことと思ったんだけどなぁ」と、ここまで一気に話した彼は、なぜか言葉に詰まって手にしていたワイングラスをテーブルに置いたんだわ。子供みたいにグーの手で目頭をグリグリして泣いているのよ。
「父親が亡くなり、父親の骨が入った骨壺を木の下に掘った穴に入れようとしたら、係の人が『壺は埋められません』と言うんだわ。じゃあ、どうするのかと聞くと、『これでできるだけ細かく骨を砕いてください』ってトンカチを渡されたんだけどさ。オヤジの骨だよ。頭蓋骨をかち割れるかよ」

とはいえ、「みなさん、そうして頂いています」と言われたら従うしかない。そして「オレはいったい何をしているのかと思いながらオヤジの骨を砕いたけど、あの時のイヤ~な手の感触は、なんだったんだろうと思うんだよな」と言うんだわ。
後から落ち着いてパンフレットを見たら別料金を払えば骨の粉砕まで業者にお願いできたそうだけど、「そういう問題じゃないんだよな」と彼はしばらくカウンターにたれた頭をあげなかったの。
何年も前の話で、それから彼とは会っていない。樹木葬の様式も今は変わっていると思う。その業者がたまたまそのやり方だっただけかもしれない。それでも私は「冠婚葬祭に個性は無用。口出しも無用で人がやるようにやる」と決めているんだ。

なまじ「葬式はいらない」とか「墓はいらない」とか言ったら、残された人が苦労するもの。その時がきたら、その時にできることを出来る範囲でしてもらえばいいんじゃないの? 去年の春、93歳で亡くなった母ちゃんは、「死んだら知らない」と言っていたけどそれでいいと思うんだよね。
◆ライター・オバ記者(野原広子)

1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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