ボーナスの支給が終わるこの時期だが、景気のいい話は聞こえてこない。物価の上昇は止まらず、この10月にもさらなる値上げが予定されている。政府は6月から「定額減税」(※)を開始させたが、これも一時的な措置に過ぎない。定年退職などの“老後“が視野に入ってくる50代以降は特に不安が尽きないだろう。そこで頼りたいのが”社会保障“。ほとんどが申告制なので、申告機会を逸して損しないよう仕組みや申告方法を知り、利用できる制度はもれなく活用したい。
※2024年4月1日に施行された「令和6年度税制改正法」に含まれる制度で、納税者本人とその扶養家族1人につき、所得税3万円、住民税1万円の合計4万円が2024年の税金から控除される施策。税負担が軽減されることで可処分所得が増え、消費活動の促進や経済循環の活性化が期待されている。
50代以降は社会保険と公的扶助を押さえよう
「社会保障とは生活に困窮したり、働けなくなったりしたときに支えてくれるセーフティーネットのこと。国民を守るための制度ですから、いつ、どんなときに支援を受けられるか知っておく必要があります」と、社会保険労務士の井戸美枝さん(「」内以下同)。
「社会保障は、『社会保険』『社会福祉』『公的扶助』『保健医療・公衆衛生』から成り立っており、最も大切なのが『社会保険』。病気やけがに関する『医療保険』、老後、障害、死亡に関する『年金保険』、失業などの『雇用保険』、仕事中の病気やけがの補償をする『労災保険』、介護が必要な人を支える『介護保険』があります」
そのほか、「社会福祉」は障害者などへの支援をし、「公的扶助」は生活保護などで生活困窮者に最低限の生活を保障。「保険医療・公衆衛生」は国民の健康を維持するための制度だ。50代以降なら「社会保険」と「公的扶助」を押さえておきたい。
【社会保険】医療費が不安なときに覚えておきたい3制度
医療費で困った際は、社会保険に関する制度の活用を考えたい。使う頻度が高いので、必ず知っておき、いざというときに役立てよう。
【1】マイナンバーカードにひもづけ「高額療養費制度」
この制度は、1か月(該当月の1日~月末日まで)の医療費がかさんだ際、治療費の一定額以上を払い戻してくれる制度だ。
「たとえば、月に100万円の医療費がかかっても、年収約770万円以下の人なら、約9万円の支払いで済みます。支払金額は年収によって異なるので、年収が約370万円以下の人の場合は5万7600円となり、住民税非課税世帯であれば、3万5400円まで抑えられます(69才以下の場合)」
手続きも簡単。保険証とひもづけられたマイナンバーカードを病院の窓口に提示するだけ。
「今年12月から『マイナ保険証』が主流になるので、早めに切り替えを。そうしないと、一度窓口で医療費全額を支払ってから高額療養費制度を申請して返金してもらうといった手間がかかります」
【2】年間の医療費が10万円を超えたら「医療費控除」
医療費控除とは、1年間にかかった医療費が、世帯合計で10万円を超えた場合、確定申告をすることで超えた分が所得から控除される制度だ。
「支払った医療費が戻ってくるわけではありませんが、医療費控除によって所得税や住民税の税負担が軽減されます。別所帯に暮らす親を含め、家族全員の医療費を合算できるだけでなく、左表に示すように、入院に関する費用、薬代、通院にかかった交通費なども認められているのでぜひ申告を」
【医療費控除の対象となる費用・ならない費用の一例】
●病気やけがで医療機関に支払ったお金
(対象)
・入院費、治療費、診療費、リハビリ費用などの自己負担分
・入院時の部屋代
・治療のために必要な診断書代
・治療に必要な車いす、杖、義手、義足、めがね、補聴器などのレンタル代や購入費用
・人工肛門、人工膀胱、修正靴底、治療用サポーターなどの装具代
・乳がん患者の乳房再建費用(術式によって異なる) ・先進医療や一部自由診療の治療費 ・家政婦などの付添人を頼んだ際の費用
(対象外)
・美容整形手術代
・入院時のパジャマ、タオル、洗面用具などのレンタル代、購入代
・入院時のクリーニング代
・入院時の出前や外食代
・入院時のテレビや冷蔵庫のレンタル代
・入院時に個室などを希望した場合の差額ベッド代
・医師や看護師、付添人(親族の付添人含む)などへの謝礼
●交通費
(対象外)
・入退院や通院にかかった公共交通機関の交通費
・付き添いが必要な家族の入退院や通院にかかった公共交通機関の交通費
・電車やバスによる移動が困難なときに利用したタクシー代
(対象外)
・自己都合で利用したタクシー代
・自家用車を利用した場合の駐車場代やガソリン代
●歯科治療に関するお金
(対象)
・異常が見つかった場合の歯科検診費用
・虫歯、歯槽膿漏、歯周病などの治療費
・入れ歯、差し歯、銀歯などの費用
・治療としての歯列矯正費用(発育段階の子供の不正咬合の歯列矯正など)
・親知らずの抜歯費用
・美容目的外のインプラント治療
(対象外)
・予防目的の歯科検診やクリーニング
・美容目的の歯列矯正やホワイトニング費用
●眼科治療に関するお金
(対象)
・ものもらい、白内障、緑内障など、保険診療の治療費
・弱視、斜視、白内障、緑内障などの患者が医師の指示によって購入しためがねの代金
・レーシック手術など、近視治療にかかった費用
(対象外)
・一般的な近視、遠視、老眼で購入しためがねやコンタクトレンズ代、またそれらを作るときの検眼費
・医療機関以外で受けた視力回復を目的とした施術費
●健康診断、予防接種など
(対象)
・何か異常が認められた場合の健康診断や人間ドックの費用
(対象外)
・特定健康診査や健康診断、人間ドックの費用
・インフルエンザなどの予防接種代
●薬に関するお金
(対象)
・医師の処方による薬代(漢方薬を含む)
・風邪をひいた場合の風邪薬代など、治療や療養のためにドラッグストアなどで処方箋なしに購入した指定の医薬品代
(対象外)
・常備薬として購入した薬代
・病気予防や健康維持を目的としたサプリメント(ビタミン剤や栄養ドリンクなど)の代金
・自己診断で購入した目薬の代金など
●その他
(対象)
・病気やけがの治療を目的とするあんまマッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師による施術費用
・海外旅行先で現地の医師に支払った医療費
(対象外)
・病気治療に直接関係なく受けた、マッサージ、鍼灸、整体などの費用
【3】対象の医薬品を購入したら…「セルフメディケーション税制」
2016年に、医療費控除の特例として導入された制度で確定申告が必要となる。
「入院などによってそれほど多額の医療費がかかったわけではないが、ある程度の医療費がかかった場合は、こちらを活用しましょう。『セルフメディケーション税 控除対象』と表記のある市販薬を1年間に同一所帯で1万2000円を超えて購入し、かつ健康診断や予防接種などを受けていれば申告できます」
医療費控除との併用はできないので要注意。
◆教えてくれたのは:社会保険労務士・井戸美枝さん
ファイナンシャルプランナー、国民年金基金連合会理事。テレビ、ラジオ、講演会などを通じて経済問題や年金・社会保障問題について解説。近著に『社会保障で得するお金は7日間でわかります。』(Gakken)など。
取材・文/上村久留美
※女性セブン2024年8月22・29日号