物価の上昇が止まらない昨今、定年退職などの“老後”が視野に入ってくる50代以降は特に不安が尽きないだろう。そこで頼りたいのが“社会保障”。ほとんどが申告制なので、申告機会を逸して損しないよう仕組みや申告方法を知り、利用できる制度はもれなく活用したい。今回は、病気やけがなどで働けないときのための「社会保険」の4制度を紹介する。
【社会保険】病気やけがなどで働けないときのための4制度
傷病手当金や労災保険などが使えるのは主に会社員だが、障害年金のように、自営業者にも適用される制度もある。
【1】給料の3分の2が支給「傷病手当金」
傷病手当金とは、仕事中や通勤中以外のけがや病気で働けなくなったときに給付金がもらえる制度だ。病気療養中の収入減を補う仕組みなので知っておきたい。
「公的医療保険の中の健康保険の加入者のみが対象で、会社員対象の保障制度のため、自営業や自由業者には適用されません。
どんな疾病かは問われず、がんはもちろん、精神疾患なども含まれます。対象条件としては、働けなくなって3日間連続(土日祝日、有給休暇なども含む)で休まざるを得ないこと。以後、同じ理由で休んだ4日目以降の通算1年6か月分の傷病手当金を受け取れます」(社会保険労務士の井戸美枝さん・以下同)
支給額は給料の3分の2で非課税。たとえば月収30万円の人が60日欠勤した場合、支給額は38万円となる(※)。
※月収30万円なので日額は1万円。計算式は、1万円×⅔×57日(欠勤60日から受給の権利発生前の3日間を引いた日数)。
「傷病手当金は健康保険に入っていればパートやアルバイトも対象になります」
【2】仕事中のけがや病気に手厚い「労災保険」
労災保険は、勤務中や通勤中に起こった病気やけがなどに対して給付され、「療養補償給付」「休業補償給付」「傷病補償年金」「障害補償給付」「遺族補償給付」がある。
「『療養補償給付』は、労災指定医療機関なら治療が無料か200円で受けられる制度。『休業補償給付』は、仕事に行けない日(4日以上)でも平均賃金の8割を支給してくれます」
「休業補償給付」を受給していても、1年6か月経っても治らず、障害が残った場合、障害等級に応じた「障害補償給付」が給付される。
「死亡した場合、『遺族補償給付』として、遺族に年金か一時金が支払われます。これらの制度は、主に会社員(契約社員やパートも)に適用されます。ただし、自営業者でも、タクシー運転手などのように、勤務中にけがや病気になる可能性が高い職業の場合は特別加入制度を利用できます」
【3】自営業・自由業者も対象「障害年金」
障害年金とは、病気やけがによって日常生活や仕事などが制限される場合に受け取れる年金のこと。症状があり続ける限り、一生もらえる給付金だ。
「年金には『老齢年金』『障害年金』『遺族年金』があって、老齢年金以外は、年齢に関係なく受給できます」
受給対象者は会社員だけでなく自営業者も含まれ、がんなどの難病のほか、事故による障害、うつ病などの精神疾患、発達障害など、多くの病気やけがが対象に。
ただし、受給にはいくつかの要件を満たす必要があり、そのひとつは初診日から1年6か月が経過していること(ただし、いま以上の治療効果が期待できないと診断された場合は、それより早く受給対象になる)。また、初診日に公的年金に加入していなかったり、公的年金保険の滞納があったりすると給付されないことがあるので要注意だ。
【4】親の介護で働けないなら「介護休業給付金」
50代といえば自分はまだしも、親や配偶者の介護に直面する人もいるだろう。介護にはお金だけでなく時間も必要になるため、一定期間仕事を休まざるを得ないことも。そうした場合に利用したい制度だ。
介護休業の取り方としては、休業開始予定日の2週間前までに会社に申し出ること。介護の対象となる家族1人につき93日の休み(最大3回に分けることも可能)が認められる。
「お金の面でも優遇措置があり、雇用保険の被保険者が介護休業している間は、介護休業給付金として給料の67%が給付されます」
ほかには「介護休暇」が。
「これはパートやアルバイトも対象となりますが、取得できる日数は介護の必要な家族が1人の場合、年に5日。有給か無給かは会社によって異なるので勤務先に確認してください」
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◆教えてくれたのは:社会保険労務士・井戸美枝さん
ファイナンシャルプランナー、国民年金基金連合会理事。テレビ、ラジオ、講演会などを通じて経済問題や年金・社会保障問題について解説。近著に『社会保障で得するお金は7日間でわかります。』(Gakken)など。
取材・文/上村久留美
※女性セブン2024年8月22・29日号