長生きが当たり前となった今、健康ブームは勢いを増している。見た目の変化など老いを実感する頻度が増えるにつれ、まず生活習慣の見直しから入る人が多いだろう。しかし、その生活習慣が逆に老化を進行させてしまっているケースも。正しい知識を手に入れたい。
運動のしすぎも老化を進めることに
健康になるための生活習慣として不動の地位にあるのが運動。しかし、ウオーキングや筋トレなどどんな運動でもやりすぎには要注意。東京大学医科学研究所教授の中西真さんが解説する。
「有酸素運動をしすぎると体内に活性酸素が発生して遺伝子やたんぱく質を傷つけて老化を進行させる恐れがあります。マウス実験では同じ親から生まれた2匹のうち、有酸素運動をさせた片方の個体に明らかに活性酸素が多く発生しました」(中西さん)
血圧は健診の「基準値」に惑わされない
ダイエットや運動のしすぎがよくないように、健康診断結果の数値を気にしすぎるのもやめた方がよさそうだ。老年医学の専門家で精神科医の和田秀樹さんが言う。
「血圧の基準値はどんどん厳しくなっていますが、そもそも年代を問わず基準値が同じということが間違っている。年をとれば血管が硬くなり血圧が高くなるのは当然のこと。にもかかわらず血圧が高いからと降圧剤をのむと、頭がボーッとするなど副作用も大きく本末転倒です。
健診で重要視されるコレステロール値についても日本の基準値は世界的に見ても低く設定されている。
コレステロールは免疫細胞の原料となり、アメリカの研究では脳出血や脳梗塞の発症率が減り、がんの死亡率を低下させることがわかっています。女性の場合は更年期以降、女性ホルモン分泌量低下に伴ってコレステロール値が上がるのは自然なことです」(和田さん)
「がん」早期発見や治療のリスクも
体の老いによって生じる病気はいくつもある。がんはその代表例だろう。老化研究の第一人者で東京大学定量生命科学研究所教授の小林武彦さんが言う。
「昭和初期頃までは感染症や肺炎、心臓病で亡くなるかたが多かった。いまはがんが圧倒的ですね。がんはやはり高齢者の病気ですから、それだけ長寿のかたが増えたということ。ただ、がんになってもすぐに亡くなるわけではないので、健康寿命と平均寿命の乖離がクローズアップされています」(小林さん)
がんになってもよりよい状態で寿命を全うするために、「早期発見」と「早期治療」の重要性が喧伝されてきた。一方で、早期発見や治療にもリスクがある。
「がんといっても部位や進行度合い、年齢や性差など状況によって症状はさまざまです。検診で体を痛めつけ心理的な負担を負ったり、過度な治療で寝たきりになってしまうなど、早期発見、早期治療のデメリットについても考えるべきです」(和田さん)
年をとったらダイエットをしてはいけない
加齢とともに代謝が落ちて、体重は増えやすく減りにくくなる。がんや血管病などの生活習慣病を予防するために「太りすぎは禁物」とされるが、過度なダイエットもまた“毒”になりかねないという。
「必要以上に内臓脂肪がついていることは問題ですが、60才を過ぎてからのダイエットが健康になるとは限りません。2009年に日本で発表された研究結果では、40才時点の平均余命が最も長かったのは、男女ともにBMIが25~30の人で、最も短かったのはBMI18.5未満の人でした。
BMI35以上の肥満はやや問題ですが、少しぽっちゃりくらいの方が肌ツヤも保てて見た目にも若々しく見える。やせるということはすなわち、栄養素が不足しているということ。若い頃ならまだしも年をとってくると確実に老化の原因になります」(和田さん)
取材/小山内麗香
※女性セブン2024年8月22・29日号