健康・医療

老化が「治る」時代はやってくるのか?「若返り」「不老長寿」「老化の度合いの測定」の最新研究を専門家に聞く

赤ちゃんから老人までの9人の女性のイラスト
近い将来、老化が「治る」時代がやってくるのだろうか(イラスト/朝倉千夏)
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人生100年時代。少しでも若返りたいとあらゆる健康法や美容法に手を出しつつも、「老化は止められない」とどこかであきらめている人も多いはず。しかし、医療も科学も進化している。近い将来、老化が「治る」時代がやってくるのだろうか──。

一度老けても「若返り」は可能になる

一度老化してしまった細胞や臓器の機能を改善するのは難しいはずだった。いま老化細胞に希望の光がさしている。東京大学医科学研究所教授の中西真さんが解説する。

老化細胞を除去することで老化にどう影響するかを示したイラスト
老化細胞を除去した時の体に及ぼす影響は(イラスト/朝倉千夏)
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「そもそもの問題は老化細胞が出現するよりも、それが排除されず体内に蓄積することで老化細胞から炎症性物質が出て慢性炎症が広範に生じることで体の機能が低下することです」(中西さん・以下同)

中西さんは「老化細胞を個体から排除する」ための研究を行っている。

「老化細胞は若い個体にも存在しますが、多くは自己の免疫系で排除されると考えられます。一方、老齢個体に溜まった老化細胞を除去するための、老化細胞除去薬(GLS1阻害薬)の研究・開発を進めています。老化細胞を生かすGLS1という酵素の働きを阻害することで老化細胞を排除できると考えています。

マウスでの実験はすでに成功しています。人間にどこまで応用できるかはまだ研究途上にあります。実用化されれば、老化に伴う臓器機能低下改善やがん予防にもつながると期待されています」

老化は治療でき、「不老長寿」も夢じゃない

若返り、体の機能改善が期待されるGLS1と同様、期待が集まっているのが「長寿遺伝子」の働きだ。老化研究の第一人者で東京大学定量生命科学研究所教授の小林武彦さんが言う。

お姫様をした女の人の周りに7つの小人がいる老化についての説明のイラスト
不老長寿も夢ではなくなる(イラスト/朝倉千夏)
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「サーチュイン遺伝子というもので、もともとはSIR2という酵母の寿命を延ばす遺伝子として発見されました。サーチュイン遺伝子が活性化すると傷ついたDNAが修正されて元気な細胞が維持できるため、老化を制御しアンチエイジングを実現するのに重要な役割を果たします。

現在、哺乳類では糖の吸収を抑えたり、活性酸素を除去したりする遺伝子なども長寿遺伝子と考えられていて、これを効果的に活性化させるメカニズムを解明することで不老長寿も夢ではなくなる。よく『どうすれば老化をコントロールできますか?』と聞かれますが、規則正しい生活、バランスのとれた食事がなにより長寿遺伝子をよく働かせるといわれています」(小林さん)

老化の度合いは測れる。「DNAメチル化」が老化度を表す

中西さんはGLS1阻害薬の実用化とともに、DNAメチル化の研究も行う。

「DNAのメチル化とは、いわゆるゲノム情報の中にある遺伝子をどう使うかということを規定するものです。最近の研究から、人間を含む生物固有の老化度を推定するのにも有用できるのではないかと推察されています。

人それぞれ老化の進みは違いますから、それが類推できるようになることで、個々人に合った抗老化対策ができるようになるかもしれません」(中西さん)

取材/小山内麗香

※女性セブン2024年8月22・29日号

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