健康・医療

【夏こそ危険】息切れ、倦怠感、めまい、手のしびれ、むくみは「夏バテ」ではない可能性 脳卒中の予兆を見逃すな

頭をおさえている女性
熱中症のような症状を隠れみのにして深刻な病気が進行している可能性も(写真/PIXTA)
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《農作業に出かけた72才の男性が死亡》《高齢夫婦が死亡》《搬送相次ぐ》──異常な暑さで、熱中症が原因とみられるニュースが続出している。しかし、熱中症のような症状を隠れみのにして、さらに深刻な病気が進行している可能性がある。夏の血管病でその予兆に気づけるかどうかが運命を左右する。【前後編の前編】

脳卒中などの血管病は夏の暑い時期に頻発

《全国各地で40℃以上を観測》《災害級の高温にアラート》など猛暑が続くなか、テレビや新聞では連日のように熱中症対策が呼びかけられている。

杖を落として倒れている女性とその女性を抱えようとしている女性
脳卒中をはじめとした血管病は夏の暑い時期に頻発(写真/PIXTA)
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しかし照りつける太陽と同じか、それ以上に警戒すべきは、音もなく忍び寄る“サイレントキラー”の存在である。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが解説する。

「脳卒中をはじめとした血管病は夏の暑い時期に頻発します。多くの人はこれらの病気が“寒い冬に血管が収縮して起きる”と思っているかもしれませんが、それは大間違いです。実際、脳卒中のなかでも最多の脳梗塞は、むしろ夏の発生数の方が多くなっていると国立循環器病研究センターは発表しています。

血管病の予兆は夏バテと似ているものが多く、気がつかないまま放置しやすいのですが、その死のサインを見逃すと取り返しのつかないことになります」

熱中症にだけ注意して、血管病にはノーガードでは元も子もない。いまだからこそ知っておくべき血管病の「予兆」と「対策」を専門医に取材した。

むくみや夏風邪に注意

脳卒中には、脳の血管が詰まって脳細胞が壊死する脳梗塞、脳の細い動脈が破れる脳出血、脳の血管にできたコブが破れるくも膜下出血の3つのタイプがあり、なかでも最も頻発しやすいのが脳梗塞だ。

循環器内科専門医で、みなみ野循環器病院理事長の幡芳樹さんが言う。

両手を手のひらを上にして第二関節まで曲げている人の手元
前兆として顔や手がしびれるなどのまひ症状が出ることが多い(写真/PIXTA)
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「前兆として顔や手がしびれるなどのまひ症状が出ることが多く、頭痛や肩こりに加え、頭がボーッとする、体がふらつくなどの症状も現れます。

それらは熱中症や夏風邪の症状と似ているため、見過ごされてしまう可能性もあります。充分に気をつけてください」

室井さんは体調に異変がなかったとしても、言動に違和感を覚えたり様子が普段と異なる場合は警戒を強めるべしと続ける。

「やる気が起きない、体に力が入らない、ろれつが回らない、言葉が出にくい、会話がうまくいかない、めまいがするなどの変化も脳卒中のサインです。

なかでも、脳出血の症状には目がかすむといった視力障害などが体の片側だけに起こる特徴がある」

予兆が「外見」に現れる場合もある。

「夏は冷房のあたりすぎや冷たい飲食物の摂りすぎといった生活から水分の排出が滞り、むくみやすい季節です。一方、脳卒中にも循環障害によって手足や顔にむくみが起こる場合があるので要注意。

特に高齢者の場合、感覚が鈍くなって気がつかないケースがあるので、ただのむくみと放置せず、医師に相談することをおすすめします」(室井さん)

夏の息切れは心筋梗塞の予兆

血管系の病気では、夏の心筋梗塞も要注意だ。都内在住のパート主婦・Aさん(34才)は、その恐ろしさを身をもって体感したひとりだ。

「友達とランチをしに出かけていた60代の母が、ぐったりした顔で帰宅し、すぐにソファに横になりました。炎天下で外出してきたので、そのときは“暑さで疲れがたまっただけだろう”と思ってあまり深刻に受け止めていませんでした。

ところがあまりにも息切れが続くので心配になって救急車を呼んだら、搬送先の病院で心筋梗塞と診断されました。大事には至りませんでしたが、もし私が留守で対処が遅れていたら、どうなっていたことか」

心筋梗塞は心臓の血管が詰まることで心臓の筋肉細胞が機能しなくなる病気で、突然死にもつながる。循環器内科専門医・総合内科専門医でニューハート・ワタナベ国際病院循環器内科部長の黒岩信行さんはこう注意を促す。

「胸が急に痛くなったり、締めつけられるような症状が出たら心筋梗塞の予兆だと思って、すぐに病院を受診してください」

胸の痛み以外に、倦怠感や食欲不振などを伴うことがある。「夏バテだろう」と思ってやり過ごしていたら、実は心筋梗塞のサインであるケースも少なくないのだ。

夏でも怖いヒートショック

少しでも異変を感じたら、「夏バテ」だと放置せず、すぐに病院へ。そもそもなぜこの時期に血管病が起こりやすいかを知っておくこともリスクヘッジになる。黒岩さんが説明する。

棟を手でおさえ苦しそうにしている女性
夏の発汗によって血液量が減少すると血管病のリスクが上がる(写真/PIXTA)
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「夏は汗を大量にかくため、体内の水分が失われやすい。脱水状態になると血液が濃縮され、血管が詰まりやすくなります。

冬は寒さが原因で血管が締まり症状が出ますが、夏は発汗によって血液の量が減少することで血管病のリスクが上がるのです」

夏の血管病において特に注意が必要なのは、糖尿病患者だと黒岩さんは続ける。

「糖尿病薬のひとつに『SGLT2阻害薬』があり、これは尿から糖を排出させるもので近年、糖尿病薬としてスタンダードに使用されている薬です。

しかし、利尿作用があるため、脱水症状になりやすい。加えて糖尿病の人はもともと心臓の血管が詰まりやすい傾向にあるので、そこに脱水が加わることで、ますます心筋梗塞になるリスクは上がります」

夏は脱水症状で「脳梗塞」が増えるということを示したグラフ
脱水状態になると血液が濃縮され、血管が詰まりやすくなる
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糖尿病や高血圧などは、自覚症状がないまま脳卒中や心筋梗塞などのリスクを高めるが、その魔の手を加速させるのが連日の猛暑だ。

埼玉県在住の会社員・Bさんが昨夏の出来事を振り返る。

「友達とエアコンの効いた喫茶店から外に出て“暑いね~”なんて言いながら歩いていたら、頭がくらくらし始めたんです。最初は“熱中症かも”と思っていたら、だんだんろれつが回らなくなってきて……。

異常を感じた友達がタクシーで近くの病院に連れて行ってくれました。診察の結果、脳卒中を起こしていたようで緊急手術に。幸い命に別条はありませんでしたが、後遺症が残り、半年近いリハビリを余儀なくされました」

もともと血圧が高めだったというBさん。脳卒中の引き金になったのは暑さによるストレスと、外気とエアコンが生み出した「寒暖差」だった。

「過度の暑さに伴うストレスは、血圧を上げる要因にもなります。また、空調が強く効いている場所から暑いところに移動すると、極端な温度変化によって血圧が乱高下します。汗をたっぷりかいて脱水状態のところにそうした血管への強いストレスが加わると、ダブルショックで脳卒中や心筋梗塞などのリスクが急上昇します」(幡さん・以下同)

冬は、暖かい浴室を出て寒い脱衣所に移動した際などに、血管が一気に収縮して脳卒中などを引き起こしやすい。「ヒートショック」と呼ばれる現象だが、同様のことが夏のエアコンでも生じるのだ。

温度変化に対応できるような服装

暑い日中は外出を控えるのがベストだが、外出しなければいけないときは服装に気を配りたい。

「温度変化に対応できるような、脱ぎ着しやすい服装を心がけてください。素材としては風通しのよいものを選ぶこと。

エアコンが効いた場所に入ったとき、冷えすぎないように肩や膝はあまり露出しないことが重要なので、一枚羽織りものを持ち歩くといいでしょう」

室井さんによれば、アメリカでは脳卒中の兆候について「BE-FAST」(図版参照)という標語を掲げ、注意を促しているという。

「『F』はFaceで、顔がまひして片側だけが垂れたり、口角が下がったりすること。『A』はArmで、片腕だけが脱力して力が入らない状態です。

このような症状が1つでも該当すれば7割が脳卒中だとされているため、早めに救急車を呼んでください」(室井さん)

脳卒中や心筋梗塞などの血管病の治療は一刻を争う。素早く対処すれば救命率が高まり、後遺症も軽くて済む可能性がある。少しでも疑いを持ったら予兆をしっかりチェックしてほしい。

(後編に続く)

※女性セブン2024年8月22・29日号

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