スポーツと相性がいい「ストイックな歌声」
島谷さんはその後、7thシングル『亜麻色の髪の乙女』(2002年)がメガヒットし売れっ子に。しかしなぜか芸能人っぽさを感じず「この人とっても真面目なんだろうなあ」と勝手に思っていた。その印象は今も1ミリとて変わらない。
どれだけ激しくダンスしようとも、ブレず、スコーンとまっすぐ突き抜ける彼女の歌声に、浮かれ要素はなく、ものすごいストイックさを感じるのだ。スポーツと滅法相性がいいのはそのせいかもしれない。ザッと見るだけでも、前述した『Z!Z!Z!−Zip!Zap!Zipangu!−』のほか、2003年の『Perseus -ペルセウス-』(野球)、2008年の『Marvelous』(レスリング)、同年の『SMILES』(北京パラリンピックの車椅子バスケットボール)など、様々なスポーツの祭典、中継のテーマソングに起用されている。
興味深かったのが『GRAND HERO』。2006 FIFAワールドカップ中継テーマソングのタイアップを狙い作られた楽曲だそうだ。残念ながらタイアップ獲得は逃したものの、あまりに名曲なのでここぞという勝負どきしかシングルリリースをしない方向になり、そのまま時が過ぎ、2013年、15周年のベストアルバム(『15th Anniversary SUPER BEST』初回限定豪華盤のみ)にやっと収録されたという。な、7年間温存。もはや熟成……! 凄まじいその逸話に納得してしまうほど、壮大な名曲である。
そして現在、『太陽神』(2005年発売のアルバム『Heart&Symphony』収録曲)が人気女子プロレスラー、Sareeeさんの入場曲に使われているという。すごいな、スポーツマンへの魂の鼓舞率ハンパない!
クセがない歌声は巡り巡ってクセになる
煽るのではなく、寄り添う。どんなクレイジーパスが来たとて、島谷ひとみさんは、とても誠実に受け止め、歌うのだろう。
過去、渋谷哲平さんのベストアルバムを聴いた時も同じ清々しさを感じたのだが、メロディーに、歌声がとても姿勢正しく座っているイメージなのである。
声がいい人が、王道を守る間違いない信頼感、心地よさ、とでもいおうか。島谷ひとみさんの、クセがない歌声が巡り巡ってクセになり、感動がじわっと広がる。
新曲『KEEP A SMILE』、そしてSTU48と歌っている『花は誰のもの?(合唱Ver.)』(STU48のアルバム『『懐かしい明日Type A』収録)も、とてもいい。可憐で、素直だ。
だからこそ思う。なんで今まで聴かなかったんだろうッ(地団太)。悔しいが、そう思わせてくれる歌声に再会できたことが嬉しくもある。
いっそ喜びに浸ろう。島谷ひとみ祭りは続く!
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。新刊『なぜ、沢田研二は許されるのか』(実業之日本社刊)が好評発売中。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka
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