家事・ライフ

老後のひとり暮らしを楽しむ心得 「あえて財産を残さない」80代女性は着物と食器のコレクションを大量処分

白い額縁とバラと真珠のネックレス
おひとりさまで老後を迎えるとき、考えておくべきこと(写真/photoAC)
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「老後のひとり暮らしはめずらしくはありません」と語るのは、『老後ひとり暮らしの壁』(アスコム)の著者で、遺品整理・生前整理などの事業を展開している山村秀炯さん。おひとりさまシニアのサポートも行う山村さんが活動の中で感じた、老後の不安を取り除きいきいきと過ごすための「おひとりさまの心得」について教えてもらった。

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自分の死後についての考え方は大きく2つ

2019年に厚生労働省がまとめた「国民生活基礎調査の概況」によると、日本において65歳以上が暮らす世帯の28.8%がひとり暮らしをしている。いずれ1人になることが考えられる、夫婦のみの世帯も32.3%を占めているのが現状だ。

自分の死後を考える人とどうでもいいと思う人

また、2014年に内閣府が発表した「一人暮らしと高齢者に関する意識調査」では、悩みの上位に「頼れる人がいなく一人きりである」ことが上がっている。一方で、「誰かと一緒に暮らしたいか」というと、76.3%が「ひとりでよい」と考えているという。

「ひとり暮らしをされている人の考えかたはさまざまですが、大前提は大きく2つに分かれます」と山村さん。それが、下記の考え方だ。

・元気なうちは好きなように暮らして、自分がいなくなった後のことには関心がない。万が一のことがあっても、あまり手間をかけずに処理してほしい

・できるだけ周りの人に面倒をかけず、最後まで自立して暮らしたい。自分がいなくなった後のことも、ある程度は自分が望むようにしたい

山村さんが仕事を通じて出会ってきた人の多くは、後者のように「自立していたい」と考えていたという。

「私の場合は生前整理や部屋の片付けを依頼されることが多いので当たり前かもしれませんが、皆さん、近しい人にほど世話をかけたくないようです」

仏壇に手を合わせる子供
自分の死後に残された人のことを考える(写真/photoAC)
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適当でいい、は遺族の負担になる可能性も

一方で、「自分がいなくなったあとのことは気にならない、という人は、死後の手続きや葬儀、相続のこともほったらかしにする場合があります」と山村さん。

「『面倒だろうから適当に済ませて構わないよ』という気持ちがあったりする」と山村さんは続けますが、思いがけない遺産が出てきたり、相続人がなかなか見つからなかったり、残された側からすれば、適当に済ますことができないことのほうが多いのだ現実だろう。

手続きがスムーズに進められなかったり、中には親族内の揉め事に発展したりするケースもあるという。

「それも含めて『死んだあとはどうでもいい』なら仕方ありませんが、世話をかけたくないのに、かえって人の負担になっているとしたら残念ですよね」

相続税の」書類を手にする人
残された人には手続きや葬儀の負担がかかる(写真/photoAC)
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いきいきと人生を楽しむ「おひとりさまの心得」を3つ

それでは、残された人に迷惑や負担をかけないようにしながらも、充実した人生の最期を迎えるにはどうするのがいいのだろうか。これまでに多くの「いきいきと人生を楽しむおひとりさま」と出会ってきた山村さんが感じる、「おひとりさまの心得」を3つ紹介する。

新しいライフスタイルへの転向

配偶者と死別し、郊外の分譲マンションでひとりで暮らしていた70代後半の久住さん(仮名)は、ひとり暮らしを心配した娘からの提案で施設へ入居することに。山村さんは、久住さんが離れる家へ不用品処分に訪れた。

処分品の中には久住さんの趣味だったバルコニーでのガーデニング用品もあったため、山村さんは思わず「これも捨てていいのですか?」と尋ねたという。

そのときに久住さんが「私、これからは都心に住むことになるでしょう。だから趣味をガーデニングから街の散策に変えることにしたの。老人ホームに閉じこもりきりになるのもつまらないから、アウトドア派に転向するのよ」と答えたことが印象的だったと山村さんは話す。

また、80代前半のときに突然倒れ、入院がきっかけで老人ホームで暮らすことを決めたのは、広い戸建てでひとり暮らしをしていた松島さん(仮名)。

「松島さんには子供がいなかったので、入院中に家の面倒を見てくれる人がいませんでした。数か月後に退院した松島さんは、荒れてしまった庭を見て、もうひとり暮らしは無理だと決心して家を処分することにしました」

生花
趣味を楽しみにしながらライフスタイルを変えることも(写真/photoAC)
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自宅で花道教室を開いていた松島さんは、趣味として花を活けることとたまの旅行を生きがいに、病院が運営する老人ホームで楽しく暮らしているという。

ひとり暮らしの高齢者が住み替えや施設入居を考えることになるタイミングは、認知症などの健康問題かお金の問題であることが多い。

「久住さんたちのように早めに自分で決断し、今までの生活に固執するのではなく、すっぱりと新しいライフスタイルを選べるというのは素敵ですね」

無理のない人付き合いをする

「もしかしたら、また結婚するかもしれないじゃない?」と、山村さんにおどけて言ったという70代の片岡さん(仮名)は、若い頃に離婚をして以来ひとり暮らしを謳歌しているという。部屋はいつ誰が遊びにきてもいいように片付き、ときどき友達を呼んでホームパーティーをするなど、「仲のよい友達に囲まれて毎日を楽しく過ごされている姿が印象的」だと山村さん。

「本気で再婚の願望があるかといえば、特に執着していないのが本当のところでしょう。むしろ、ひとりの時間をとても大切にしていて、ひとり暮らしの快適さを手放すつもりはなさそうです。ひとりの時間と、人に会う時間をバランスよく楽しんでいる片岡さんは、私たちから見ても魅力的なおひとりさまでした」

生前整理の依頼がきっかけで出会ったという、元スナックのママで80代後半の北野さん(仮名)は山村さんがびっくりするほど向上心にあふれ、習い事教室でできたコミュニティーも充実しているそうだ。

お茶をする3人の女性
新たなコミュニティーで無理のない人間関係を築くことも◎(写真/photoAC)
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そんな北野さんは、遺産を親戚に譲るのではなく、さまざまな活動を通して知り合ったボランティア団体に全額寄付するつもりだと山村さんに話したという。

「片岡さんや北野さんは、適度な人付き合いのよいお手本です。正直、人間関係にはわずらわしい部分もありますから、好きな人とは交流するけど、無理はしないというのは理想です」

あえて財産を残さない

長年集めてきた、大量の着物と食器を「そこまで減らす必要はないのではないか」と山村さんが思うほどに処分していたというのは、80代後半の林さん(仮名)だ。林さんは、不動産などの遺産は税理士を通して娘に相続させるつもりだという一方、自分がもう使わない、娘も欲しがらないコレクションは不要なもの、と割り切っている様子。

「でもね、いいものもあるから、それは価値のわかる人にあげたいの。それでよくないものは捨てて身軽になりたい。だってこの先、使うことはないんですもの」と、林さんは話したという。林さんがモノの処分を急ぐのは「自分自身の体が動かなくなってきているのを自覚しているから」だと山村さんは感じている。

高級な着物
財産は価値のわかる人へ譲る選択も(写真/photoAC)
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「たしかに、着物や食器など、その手のものの価値がわかる人は多くありません。価値のわからない遺族の手に渡ると二束三文で処分されてしまう危険性があります。それなら、自分がしっかりしているうちに、同じ趣味の仲間や弟子などに譲るほうが、その相手にとっても着物や食器にとっても、どれだけ幸せなことかわかりません」

判断と行動ができるうちに納得できる決断を自分でするということは、残された人の手間を減らすことでもあり、残りの人生を前向きに生きるカギになるといえそうだ。

◆教えてくれたのは:山村秀炯さん

ネイビーのスーツ姿の男性
山村秀炯さん
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やまむら・しゅうけい。株式会社GoodService代表。愛知県を中心に遺品整理、生前整理などの事業を行う中で、ひとり暮らしシニアのさまざまな問題に直面。親族や友人に頼れない、頼りたくない「おひとりさま」という生き方を尊重し、なおかつ不安やトラブルなく生きていくためのサポート事業を新たに立ち上げる。メディアへの出演・取材協力も多数。著書に『老後ひとり暮らしの壁』(アスコム)。https://shukei-yamamura.com/

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