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ペット保険は不要か、加入すべきか? 入るタイミングや選ぶ際の注意点を獣医師が解説

犬と猫
ペット保険は不要か、加入すべきか?(Ph/イメージマート)
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犬や猫が動物病院にかかった際に、診療費の一部を保険金でまかなえるペット保険。ペットも長寿命化する昨今では加入する飼い主さんも増えている。とはいえ、毎月の保険料は飼い主さんの経済的な負担に……。ペット保険には入ったほうがいいもの? たくさんの会社がペット保険業を手掛けているけれど、どう選んだら? そんな疑問に、獣医師の内山莉音さんに答えてもらった。

犬・猫の医療費は飼育費の中でフード代についで高額

犬1頭当たりの年間飼育費は平均で35万円前後、猫1匹当たりの年間飼育費は16万円前後だという(「アニコム家庭どうぶつ白書2023」より) 。犬、猫ともに内訳で最も多いのがフード・おやつ、次いでケガや病気の治療費となっている。

犬の医療費は1年間に平均6万円以上、猫は3万円以上。医療費には、個体差があるのはもちろんだが、年齢によっても変化がある。1歳頃が最も少なく、7歳頃からぐっと増え、10歳になると1歳のときの3倍ほどにふくらむ 。犬も猫も平均寿命は14歳を超え、そのこと自体は喜ばしいのだが、シニア期が長くなると、飼い主さんの経済的な負担も増していく。

一方で、ペット保険は多くの場合、毎月の保険料が小型犬は2000円台、猫は1000円台。補償割合は70%が主流だ。 限度額が設けられているものや、通院治療は補償しないものもある。“うちの子はまだ若いし、身体も丈夫だから、保険はもったいないかも”と考える人がいるのも自然なことかもしれない。

ペット保険加入率は、ペット先進地域である欧州では30~50%程度、日本では20%程度だとされている。

日本は人間の医療に関して、国民全員を公的医療保険で保障する“国民皆保険制度”を採っているので、病院の会計では最初から3割の自己負担額(70歳未満の場合)が一番目立って書かれた請求書/領収書を目にする。“何か特別重い病気になったならともかく、体調不良で病院にかかったときの支払いはそう高額にならない”という感覚が身についている人も少なくないはず。ペットの健康保険に“わざわざ加入しなくてもいい”と考える、心理的な背景になっているかもしれない。

最適な検査や治療を選べる?

しかし、動物医療の現場に立っている獣医師の内山さんは「考え方はそれぞれですが、できればペット保険には加入しておいたほうがいいと思います」と話す。

「実際に、わんちゃんや猫ちゃんを診療して、『この検査をすると詳しいことが分かるはずです』『この治療方法は統計的に効果が高いです』とおすすめしても、経済的な理由でそれを断念せざるをえない飼い主さんがいらっしゃいます。逆に、お会計のときに『保険に入っていてよかった……』としみじみおっしゃる飼い主さんもいらっしゃいます。備えあって憂いなし。検査や治療の選択肢を広げるためにも、保険加入を検討されるといいと思います」(内山先生・以下同)

犬
検査や治療の選択肢を広げるためにも、保険加入を検討すべき(Ph/イメージマート)
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では、保険に加入するタイミングはいつ頃がいいか。医療費が高額になってくるのが7歳頃からなら、その頃が望ましいのか。

「賢いタイミングというのは、実はないのかもしれません。確かに中高年でかかりやすくなる病気も多いですが、子犬がソファや飼い主さんの腕から落下して骨折する事故もあります。猫風邪やケンネルコフ(犬風邪)、パルボウイルス感染症など、幼犬・幼猫に多い病気もあります。異物誤飲なども、年齢を問わず珍しくない事故ですね」

例えば、犬が骨折して入院や手術が必要になった場合、30万円ほどかかるという。猫の異物誤飲も入院、手術が伴うと10万円近くかかることが多いようだ。

「ペット保険の中には、8歳以上の新規加入を受け付けないといった年齢制限を設けているものがほとんどです。また、犬の心臓病や猫の腎臓病など、慢性的な疾患にかかった場合に、翌年から保険契約自体を続けられなくなったり、保険契約は継続できても持病は補償されなかったりするものもあります。病気になってからでいいや、年を取ってからでいいやと思っていると、加入したくてもできなくなることもあるので、注意が必要です」

保険料の安い保険が“お得”とは限らない

保険を選ぶときに、どのようなことに気を付けるといいのだろうか。一般に、最初に気になるのは保険料かもしれない。

「保険料は当然、気になると思います。ただ、単純に保険料を比較するのではなく、その他の条件と考え合わせることが大切です。入院、手術の補償はするけれど、通院での治療費は補償しないというタイプの保険もあります。しかし、人間の場合もそうですが、犬や猫も入院治療より通院治療の機会がはるかに多いです」

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犬や猫も入院治療より通院治療の機会がはるかに多い(Ph/イメージマート)
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具体例で考えてみよう。ある飼い主さんが犬を連れて遠出したとき、犬が持病のてんかんの発作を起こし、かなり症状が激しかったので、近くの動物病院に駆け込んで、その病院の昼休みの時間帯に治療してもらったとする。初診料や時間外料金がかかって請求は5万円程度。このとき、保険に加入していなかったり、加入していても通院補償のない保険だったりすると、5万円をそのまま支払うことになるが、通院補償があれば急な出費にも備えることができる。

慢性腎不全の猫で、週に2回、皮下点滴の治療を受けている場合。1回が3000円程度として、年間30万円ほどかかる。無保険や、持病の補償をしない保険に加入している場合、これを丸々、飼い主さんが負担することになる。

「終身保険かどうか、加齢によって保険料がどれぐらい上がっていくか、通院もカバーしているか、どういう場合に補償の対象外になるのか、限度額や限度日数はどうなっているか、窓口精算が可能かどうか、付帯サービスはどのようなものか、といったことを総合的に考え合わせて選ぶ必要があります。面倒に思う気持ちもよく分かるのですが、保険約款には一通り目を通していただきたいと思います」

◆教えてくれたのは:獣医師・内山莉音さん

獣医師・内山莉音さん
獣医師・内山莉音さん
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獣医師。日本獣医生命科学大学卒業(獣医内科学研究室)。動物病院を経て、アニコム損害保険(株)に勤務。現在もアニコムグループの動物病院で臨床に携わる。

取材・文/赤坂麻実

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