医療の進歩により確実に生存率は上がっているがんだが、いまだに日本人の2人に1 人が患う病。実際に自分ががんと告知されたら、家族や大切な人にどう伝えるべきか。これまで2度のがんを経験した、東京医療保健大学副学長・消化器外科医・小西敏郎さん(77才)は、ドクター目線での医師の告知のあり方についても教えてくれた。
子供たちには平等に情報を伝えることが大切
消化器のがん手術を中心に行う小西さんは、2007年の定期検診でステージ1の胃がんがわかった。
「自分の医学的知識からも早期で必ず治るがんと判断して、妻には正直に伝えました。どの程度のがんでどんな治療が必要か、さらに入院期間や予後、生存率まで、私のがんに関する情報をすべて話して共有しました」(小西さん・以下同)
ただし、大学入試を控えていた長男にそのまま伝えるのは躊躇した。
「妻とも相談して、センター試験(当時)が終わるまで2週間だけ待って息子に伝えました。でも親の心配をよそに“そうなんだ。早期でよかったね”とあっさり返されたから拍子抜けして、気を使わずすべて話してよかったと思いました」
ドクター目線で「医師の告知はこうあるべき」
しかし2009年、今度は自身の専門外である前立腺がんのステージ1であることが判明する。このときは勝手が違い、妻と長男は主治医に説明を聞いた。その経験から、ドクター目線で「医師の告知はこうあるべき」を指南する。
「私の場合、専門医が前立腺がんの治療法や入院期間を客観的に説明してくれたので家族が安心できました。医師が患者サイドにがんを伝えるときはただ大丈夫と言うのではなく、病状や治療法を具体的に伝えることが大事だと改めて感じましたね。専門医が知っている限りの正確な情報を伝えることで、患者や家族は冷静に判断することができます」
2度目のがんでは「家族全員に等しく伝える」ことの重要性も身に染みた。
「前立腺がんの際、結婚を控えていた次女に心配をかけるのはかわいそうだから、長男と長女ほどは詳しく説明しませんでした。
すると後々に“私はあまり話してもらえず寂しかった”と次女が悲しんでいたことを聞き、親は心配をかけないつもりでも子供は疎外感を持つことを知った。子供には平等に同じ情報を伝えることが大切だとわかりました」
がんの種類によっては伝え方が難しい
2度のがんを克服したサバイバーであり日本トップクラスのがん手術症例数を誇り、多くの患者や家族と対峙してきた小西さんだが、伝え方がわからないがんがあるという。
「私は近年の検診ですい臓がんの疑いがありました。医師ですから、すい臓がんは治るがんではないことを理解していたので、家族に無用な心配をかけたくなく、がんの疑いがあることは一切話しませんでした。
結果的にすい臓がんではなかったですが、本当に診断されたら家族にどう伝えるべきか悩みます。まずは外科医になった長男に話すでしょうが、カミさんにどう言えばいいか、いまもわかりません」
◆東京医療保健大学副学長・消化器外科医・小西敏郎さん
1947年石川県出身。胃や食道・大腸がんなど消化器がん専門の外科医として辣腕を振るう。2007年に胃がんが、その2年後には前立腺がんが判明するも完治している。https://www.thcu.ac.jp/database/detail.html?id=64
※女性セブン2024年9月12日号