生存率は上がっているが、いまだに日本人の2人に1人が患うがん。実際に自分ががんと告知されたら、家族や大切な人にどう伝えるべきか。乳がん専門医の唐澤久美子さん(65才)は、医者一家ならではの伝達の速さだったという。
夫も娘も現役医師ゆえの冷静沈着さ
乳がん専門医の唐澤さんが入浴中に異変に気づいたのは2017年。触った乳房に2cmほどのしこりがあり、「あ、ステージ2の乳がんだな」と直感した。
夫も娘も現役医師だという唐澤さんの家族への伝達のスピーディーさは医者一家ならではだった。
「お風呂から上がって、居間でテレビを見ていた主人に“私、乳がんだから”と伝えました。主人もがんの専門医なので、患部を触って“あ、これ乳がんだ”と私と同じ“所見”でした。
医師である娘に主人が電話で伝えると、“うちはがん家系で私もなるかもしれないから、遺伝子検査しといてね”という反応でしたが、同居する高校生の息子だけは“えっ”と驚いていました」(唐澤さん・以下同)
家族に伝えたのち、当時勤務していた東京女子医科大学病院の乳腺外科医に「すみません、明日、私の乳がんを診てもらっていいですか」とメールすると、すぐに「明日拝見します」との返信があり、スムーズな治療につながった。冷静沈着な判断は、病気を熟知するからこそ。
「乳がんはステージ1で97%、ステージ2でも94%治ります。報道されるのはステージ3以上のケースが多く、例えば最近公になった梅宮アンナさん(52才)の乳がんもステージ3でした。多くの場合はステージ1~2で見つかります」
家族や周りが焦ると、患者にその焦りが伝わって悪い影響が出やすい
薬に弱い体質なので抗がん剤には苦しんだが、乳房温存手術を受け、専門分野である放射線治療の計画を自ら立て、いまはホルモン療法のみ行っている。
がんは治ることが多い病気――そう訴える唐澤さんは「だからこそ家族は正しい知識を持って冷静に患者を支えてほしい」と話す。
「早期がんはほとんど治るし、いまはがんになっても死ぬ人の方が少ないのです。それなのに家族や周りが焦ると、患者本人にその焦りが伝わって悪い影響が出やすくなる。私が診た患者さんでも、“本当は夫にもっと相談したいけど、彼が泣いちゃうのでそれどころじゃない。何も相談できず、元気そうに振る舞うしかない”と嘆くかたがいました。
また、“妻が気を使いすぎてあれもダメ、これもダメと何も食べさせてくれない”という声もよく聞きます。極端な食事制限やがんに効くといわれるものを無理やり食べさせてストレスをかけるより、バランスよく食事する方が健康にはよほどよい。“ネットや知り合いの情報に惑わされず、普通の暮らしをしてください”と伝えるとホッとする患者が多いんですよ」
がんの伝え方は人それぞれで、何が正解かを判断するのは難しい。だからこそ大切なのは“自分がどう伝えたいか”を考え、実行すること。大切な人もきっとそれを望んでいるはずだ。
◆河北総合病院放射線腫瘍科部長・唐澤久美子さん
1959年東京都出身。世界で初めて乳がんの重粒子線治療を行った「粒子線治療」のエキスパート。2017年、自己検診によって乳がんと確信。医学部長として働きながら治療を行った。
※女性セブン2024年9月12日号