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認知症患者と上手にかかわるコミュニケーションのコツ「ありがとう」「ごめんね」が有効、「物盗られ妄想」も否定しない

寄り添う2人の女性
認知症患者とのコミュニケーションのコツを伝授(写真/photoAC)
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理学療法士の川畑智さんは、認知症の人のサポートや認知症予防のための活動を行っている。その経験などから上梓した『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(アスコム)には、認知症の人と暮らすためのアドバイスが豊富にまとめられている。そこで、多くの認知症患者や自宅介護をする家族と接してきた川畑さんに、大変な介護生活の中でもお互いの笑顔が増えるコミュニケーションのコツを教えてもらった。

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記憶障害の人にかける“晴れ言葉”

お互いに気が沈んでしまうこともあれば、心が通じ合う瞬間もある認知症患者の介護について、「晴れたり曇ったり」だと天気になぞらえて話す川畑さん。そんな川畑さんが笑顔の増える介護のカギとしているのが、「ありがとう」+「ごめんね」+「クッション言葉」の“晴れ言葉”だ。

間違っていても気持ちを受け取り「感謝の言葉」

“晴れ言葉”として、まずは川畑さん自身も言われてうれしいと話す言葉が挙げられる。例えば「ありがとう」「いつも感謝しています」「あなたのおかげで助かっています」といった内容だ。

川畑さんが相談の電話を受けた77歳の本多さんは、「乾かしておいてほしい」と妻に頼んだ雨に濡れた靴が食器乾燥機に入っているのを見て、認知症の進行にショックを受けたという。

そこで川畑さんがしたアドバイスは、「どうか落ち着いて、心から『乾かしてくれてありがとう』と感謝の言葉を言ってあげてください」ということ。認知症になったことで、靴を乾かす適切な方法を思い出せなくなってしまった妻がなんとかして考え、実践した行動を、まずは労うべきだと川畑さんは語る。

ハートを渡している
間違っていてもまずは感謝を(写真/photoAC)
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「奥さんの心が晴れるのは、『ありがとう』『助かった』という感謝の言葉です。自分が役に立った、しっかり考えた結果、うまく対応できたと思えるからです」(川畑さん・以下同)

これは、子供が見よう見まねで手伝いをして失敗してしまったときにも似ているが、認知症でも同じような心持ちで接することが大切だという。

自尊心を守る「ごめんね」のひと言

晴れ言葉は感謝だけではないと話す川畑さんが、積極的に使うべきと話すのは「ごめんね」という言葉。

失禁など、恥ずかしい失敗をしたと本人が感じたとき、その気持ちから介護を嫌がったり、抵抗したりすることがあるという。

そんなときは、「ごめんね」という言葉を使うことが有効だと川畑さんは話す。

顔の前で手を合わせる女性
「ごめんね」の言葉が相手の自尊心を守る(写真/photoAC)
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「気づけずにごめんね」「濡れて気持ち悪かったね、ごめんね」「すぐに来られなくてごめんね」といった声かけが、認知症患者の自尊心を守ることにつながるのだ。

「反対にこうした言葉がないと、抵抗したり、隠そうとしたりすることも少なくありません」

「クッション言葉」でまず受け止める

そして、「ああ、そうか」「なるほど!」など、いったん相手の言うことを受け止める「クッション言葉」も晴れ言葉だと川畑さんは言う。

それは、その場で理解できなかったり、真意がわからなかったりしても、相手は理由があって発言しているからだ。それを否定せずに受け止めてもらえることで安心させることができるという。

「これらの言葉は、相手のために発しているようで、ケアする側が事態に対応するために心を落ち着かせ、考える時間を持つためのクッションにもなります」

クッション言葉を使うときには、「ああ、そうか、着替えでしたね!」「なるほど!お茶ですよね」など、相手から発せられた具体的な単語を加えるとさらに効果的。

手をうつ女性
クッション言葉を上手に活用して(写真/photoAC)
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ビジネスシーンや人間関係を円滑にする際にも用いられる、「ありがとう」「ごめんなさい」「あっ、そうですね」「なるほど」といった晴れ言葉は介護される側とする側の関係でも有効だということだ。

認知症で現れやすい症状への対策

認知症の症状として、なにかが別のものに見えてしまう「錯視」や存在しないものを見えると訴える「幻視」、そして「物盗られ妄想」が起こってくる。

それぞれの対策について知っておくと、そのような場面が訪れても冷静に対応できるはずだ。

「錯視」や「幻視」は否定しない

「錯視」や「幻視」の原因は、視覚に関係する機能を担う後頭葉が血流の悪化による衰えること。見えるときがあれば、見えないときもあり、症状には波があるという。一方で、他に認知症の症状がないのに幻視の症状が明確に現れた場合は、脳の神経細胞が原因不明に減少する変異生の認知症である「レビー小体型認知症」の可能性がある。

その家にいないはずの子供がいると話す認知症患者の言動は一見幻視に思えるが、実は日本人形が子供に見えていたという錯視のこともある。また、掃除機のコードを見て、「ヘビがいる!」と訴えたという錯視の例もある。

介護をしている人からすれば、すぐ見間違いだと気づくことも、認知症患者にとっては事実であり、「このとき大切なのは、『事実』を、正面から否定しないこと」だと川畑さん。

コード
錯視の場合も、相手の気持ちを受け止めることが大切(写真/photoAC)
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「ヘビじゃなくてコードだ、人じゃなくて服だ、といくら説明したところで、本人の目にはヘビや人が見えているわけですから、不信感だけが募ってしまいます」

例えば、タンスの上の日本人形を子供だと思った認知症患者が「危ないから、降りていらっしゃい」と話しかけたなら、その日本人形をおろしてあげる。ヘビだと思って掃除機のコードを怖がっているなら、「ヘビではない」と伝えるよりもヘビを退治する行動を見せることが有効だ。そして、幻視や錯視を起こしやすいものは目につきにくい場所にしまっておくとよいという。

「私がよく使うのは、でたらめな呪文やお経を唱えながら『退治』する方法です。ご本人の前で『なんまいだーなんまいだー』と唱えながら、幽霊に見えるハンガーにかかった洋服を別の部屋に持っていく。『もう大丈夫ですよ』『あら、本当ね』でおしまい。認知症の人が見ている世界に、演技も混ぜて合わせていきます」

「物盗られ妄想」は一緒に探して本人に見つけさせる

物盗られ妄想は認知症の周辺症状としてあらわれる妄想の中でも、もっと出現頻度が高い症状の一つ。介護をしているのに泥棒扱いされてしまっては、ショックを受けても仕方ないことだが、川畑さんは「『信用している人だからこそ遠慮なく疑っている』という『信頼の証』でもある」と語る。

物盗られ妄想は記憶障害によって、どこにしまったか忘れていることが大半。例えば、化粧品やお金などを自分で使ったことを忘れ、「誰かが盗った」と妄想が始まってしまうという。

「一方では、頭の中があいまいになっていることで『また自分が忘れてしまったのかもしれない』という不安もせめぎあっています。そのため、疑いをかける人物には、自然と『信頼しているから、困っている私を助けてほしい』『もし間違っていても許してほしい』という思いを抱えています」

老女と話す介護士
疑う相手は信頼している相手(写真/photoAC)
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つまり、自分は悪くないはずだと考えることで焦りをごまかそうとする心境が、物盗られ妄想としてあらわれ、親しい人にこそ感情をぶつけてしまうといえる。

「『物盗られ妄想』に直面した場合、まずは1回、深呼吸。「自分が信頼されているからこそだ」ということを再認識してください。そして、本人にかける言葉は『それは大変だね』『困ったね』です。否定も肯定もせず、パニックになっている気持ちそのものに寄り添います」

そのうえで、相づちなどを打ちながら全面的に協力するという態度で、最後にどこで使ったか、いつもどこに片付けるか、ないと気づいたのはいつか、なにをしようと思っていたかを聞いて、「なくし物を一緒に探してあげてください」と川畑さん。

気をつけたいのは、介護している側が見つけてしまうと「やっぱりあなたが盗って隠した」と逆効果になりかねないことだ。

「『お母さん、ちょっとこのあたりを探してみて』などと上手に誘導して、本人が見つける流れを演出してあげるのがベストです」

ちなみに、探し物をしながら、思い出話をしたり、お茶に誘ったりして別のものに注意を向けさせることで、なくし物のことを忘れて落ち着くこともあるという。

そして、川畑さんは「いざ見つかったときには『よかったね!』と一緒に喜びましょう」と続ける。認知症患者に寄り添って2人で見つけるストーリーを見せることで、険悪な空気にならずに済み、介護する側の心も穏やかでいられるはずだ。

◆教えてくれたのは:理学療法士・川畑智さん

スーツ姿のめがねをかけた男性
理学療法士の川畑智さん
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かわばた・さとし。理学療法士。熊本県認知症予防プログラム開発者。株式会社Re学代表。1979年、宮崎県生まれ。理学療法士として、病院や施設で急性期・回復期・維持期のリハビリに従事し、水俣病被害地域における介護予防事業(環境省事業)や、熊本県認知症予防モデル事業プログラムの開発を行う。2015年に株式会社Re学を設立し、熊本県を拠点に「脳いきいき事業」を展開。さらに、脳活性化ツールの開発に携わったり、講演活動を行ったりしているほか、メディア出演や著作も多数。

◆監修:脳心外科医・内野勝行さん

うちの・かつゆき。脳神経内科医。医療法人社団天照会理事長。金町駅前脳神経内科院長。帝京大学医学部医学科卒業後、都内の神経内科外来や千葉県の療養型病院を経て、現在は金町駅前脳神経内科の院長を務める。脳神経を専門として、これまで約1万人の患者を診てきた経験をもとに、薬物治療だけでなく、栄養指導や介護環境整備、家族のサポートなどを踏まえた積極的な認知症治療を行っている。著書に『1日1杯 脳のおそうじスープ』(アスコム)など。

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