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【気象予報士対談】天達武史さん&井田寛子さん「車に脱出用ハンマーを常備するのは温暖化時代の鉄則」激甚化する気象災害から命を守るためにできること

気象キャスターの井田寛子さんと気象防災キャスターの天達武史さん
写真5枚

ノロノロ台風10号は去ったが、猛暑はもうしばらく続きそうだ。夏の平均気温は平年と比べて+1.76℃と史上1位。熱中症患者が急増し、全国で約8万5000人が救急搬送された。そんな異常気象や気候危機の解消に向け、仲間たちと動き出した気象防災キャスターの天達武史さんと気象キャスターの井田寛子さんに、「いまこそ伝えたい気象の話」を聞いた。【前後編の後編。前編を読む

昨今の豪雨と猛暑が、「激甚化」を進める気象災害から、どう命を守ればいいかについて、語り合ってもらった。

短時間豪雨による冠水や水没はなぜ起きるのか?

──今年の夏も豪雨・猛暑・巨大台風が日本列島を襲い、道路冠水や河川の氾濫、土砂崩れが頻発。なかでも短時間豪雨で冠水や水没があちこちで起きました。なぜ全国で“水浸し”現象は起きるのでしょうか?

気象防災キャスターの天達武史さん(撮影/浅野剛)
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天達「基本的に国土交通省は、1時間に雨が50mm降った場合を基準とするインフラ設計をしています。ところが最近の常識破りの雨量と降り方が、その水準を上回るため、雨水があふれてしまうのです」

井田「現在、一部で下水道の許容量を増やす工事が始まっていますが、何十年とかかるので、どこの都市も追いついていないのが現状です。

1時間に50mmの豪雨はもはや珍しくない。それどころか1時間に100mm、それ以上という極端な大雨が各地で降っています。道路の冠水や河川の氾濫による車や家屋の浸水は、いつどこで起きても不思議ではありません」

天達「そうなると、たとえば冠水道路では、水面がタイヤの半分以上まできたら車から降りて逃げるとか、運転中に急に雨が降り出して冠水すると、水面がグレーの平面に見えて、段差があっても気づけないなど、正しい知識が必要に。

それに、車体底部から水が入ると電気系統がダメになり、後ろのマフラーから水が入ればエンジンが故障するので、前が見えないときは無理に進まず、高い場所に移動するのが賢明です。そもそも1時間に50mm以上の降水予報が出た時点で、車での外出はすべきではありません」

車が水没した場合に備えて“脱出用ハンマー”を

井田「車が水没した場合の水圧も強くて、深さ20〜30cmでドアが開かなくなるほか、流れのある場所では脱出できずに、車が流されるおそれもあります。ドアが開かなくなった際にガラスを割る“脱出用ハンマー”を常備しておくのは、温暖化時代の鉄則ですね」

天達「徒歩で浸水場所を通って避難する場合、水の高さが膝下20cmでも、流れがあったら足を取られて流される危険があります。夜間や泥水の中を歩くのも危険です。道路には側溝があったり、マンホールの穴に流れ込む水が渦を巻いていることもあり、長い棒状のもので、地面を探り探り歩く必要があります」

井田「マンホールといえば、8月の都心豪雨で東京・新宿のマンホールのふた(重さ約100kg)が吹き飛んで、大量の水が噴き出しました。通常マンホールのふたは簡単に外れない構造になっているのに、大量の雨水が地下に流れ込んだことで下水道内の空気が圧縮され、一気に噴き出したわけです。いかにものすごい大雨が短時間で降ったかがわかりますよね!」

土砂災害が起こる前の“前兆現象”

──そんな常識破りの異常気象が増えたのは、いつ頃からですか?

気象キャスターの井田寛子さん(撮影/浅野剛)
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井田「頻発し始めたのが2010年代から。特別警報が始まったのが2013年。東北に初めて台風が上陸して甚大な被害を出したのが2016年でした」

天達「台風が東北や北海道を襲うという現象は、北日本まで熱帯の空気が入り、日本列島全体が熱帯化した証です。何十年も前は50年や100年に1度くらいの頻度だった大雨が、最近は2年に1回のペースになり、想定を超えた豪雨が頻発すると川や山間、傾斜地の危険が増し、住む場所も考える必要が出てきます」

──土砂災害が起こる前に何か前兆現象はありますか?

井田「よく土石流やがけ崩れの前には、土くささ、焦げくささ、酸っぱいにおい、木のにおいなど異様なにおいがすると聞きますね」

天達「熱海で起こった土石流では、直前に水が急に赤土色になったと住民のかたが言っていたそうです。斜面に亀裂が入るとか、小石がパラパラ落ちてくるとか、ふだんの様子と違うちょっとした変化に気づけるかがポイントですね」

井田「これだけ天気の常識が大きく変わっているのに、それでも『ここは昔から大丈夫だった』と考える人もいるんです。その経験があだになって逃げ遅れてしまう。

気象庁から特別警報が出なくても、局所豪雨などで緊急安全確保が自治体から出る場合もあります。『これまでは大丈夫だった』という思い込みを捨て、逃げないと命が守れないんです。それをわかってもらうべく伝えるのが、私たち気象予報士の仕事でもあります。これからは備え方と逃げ方、情報収集が自分と家族を守る重要なカギになります」

すぐにできる行動をSNSで世界へ発信!

──温暖化対策に役立つ身近な工夫はありますか?

天達「ぼくは家では料理担当なんですが、料理の際に心がけているのは、東京なら練馬大根など、地元食材を使う地産地消です。これは環境負荷や流通経費の軽減につながります。

省エネ面では、ゆで卵は鍋に卵を入れてお湯が沸騰したら火を消し、ふたをして10分放置する余熱調理で作り、パスタは麺をゆでる鍋にブロッコリーなどの茎も一緒に入れて同時調理を心がけています。これで洗う鍋や皿の数も減らせます」

天達さんの前職はファミレスの料理人。海べりのリゾート型店舗で調理と食材発注を任され、天気予報が外れると大量の食品ロスが発生することから、自ら天気予報を勉強。2002年に気象予報士試験に合格している。

天達「そのほか……今日の上着もそうですが、日頃から古着を愛用してファッションを楽しんでます。これは1920年製のヨーロッパの労働着で、生地も厚く気に入ってます」

井田「私は生ゴミを乾かしてから捨てています。食品ロスのCO2は世界の年間二酸化炭素排出量の約8〜10%を占めています。生ゴミの約80%は水分で、焼却時にものすごいエネルギーを使います。しかし乾かして捨てると重量も3分の1に。燃料消費も激減します。

やり方も簡単で、ざるに生ゴミをのせ、カラスに気をつけながら、ベランダで干してから捨てるだけ。

ほかに、賞味期限が切れても結構食べますし、野菜もオーガニックにして皮も極力食べます」

天達「こうした一人ひとりの小さな積み重ねをSNSで発信すれば、世界にエコ情報が飛び交い、またそれを見た人が取り組むといういい循環が生まれそうですね」

こんな身近な工夫も、未来と子供のための小さな一歩。あなたも今日から始めませんか?

(了。前編を読む

【プロフィール】

天達武史/気象防災キャスター。1975年、神奈川県出身。ファミリーレストラン勤務時に気象予報士の資格を取得。その後、日本気象協会に所属し、フジテレビ系『とくダネ!』を経て、現在は同『めざまし8』に気象防災キャスターとして出演中。

井田寛子/気象キャスター。1978年、埼玉県出身。NPO法人気象キャスターネットワーク理事長。NHK静岡局を経て、気象予報士の資格を取得し、NHK『ニュースウオッチ9』やTBS系『あさチャン!』などで気象キャスターを務める。

取材・文/北武司

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※女性セブン2024年9月26日・10月23日号

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