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【人工甘味料に潜む問題点】WHOは「肥満予防のために摂取することを推奨しない」の指針 脳卒中や高血圧のリスクが増加、腸内環境への悪影響も危惧 

カロリーゼロや糖質ゼロ食品は健康を害するリスクがある(写真/PIXTA)
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1980~1990年代に比べ私たちの砂糖消費量は大きく減少した。にもかかわらず、糖尿病患者は増え続け、肥満者の割合も増加傾向にある。市場には、「ゼロカロリー」「糖質ゼロ」「カロリー控え目」をうたう食品や飲み物が増えているが、健康効果どころか、かえって体を蝕んでいるかもしれない。

血小板が反応し血栓リスクがアップ

《カロリーゼロや糖質ゼロの製品に使われる人工甘味料のエリスリトールが入った飲料を摂取すると、健康な人でも血栓リスクが2倍以上になる》──8月、カロリーゼロや糖質ゼロ食品の新たなリスクについての研究結果が学術誌に発表された。

昨年7月には、同じくカロリーや糖質を抑えた食品に使われる人工甘味料・アスパルテームについて、WHO(世界保健機関)傘下の国際がん研究機関(IARCA)が、「人に対して発がん性がある」可能性を指摘したばかり。いまや健康食品の代表格であるゼロカロリーや糖質ゼロだが、本当に“健康にいい”のだろうか。

冒頭の研究結果について米ボストン在住の内科医・大西睦子さんが解説する。

「アメリカの研究所による調査で、健康な被験者10人にエリスリトール含有の飲料を飲ませて反応を測定した結果、全員の血小板反応が上昇し、血栓につながる血小板凝集が増加したことがわかりました。血栓は心臓発作や脳卒中を引き起こす原因のひとつです。

また、この一連の研究でアメリカとヨーロッパの4000人以上の血液を分析したところ、エリスリトールの濃度がもっとも高いグループは、心臓発作または脳卒中の確率が2倍になることがわかったと報告しています」

人工甘味料のエリスリトールが入った飲料を摂取すると心臓発作や脳卒中などを引き起こす血栓リスクが2倍となる(写真/PIXTA)
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そもそもエリスリトールとはどのような物質なのか。

「糖質系甘味料の一種で、正確にはキシリトールなどと同じ糖アルコールに分類されます。砂糖の約70%の甘さがありながら、カロリーはおよそ20分の1と低く、ゼロカロリーとうたうことができる。砂糖に比べ血糖値の急上昇は抑えられるものの、摂取量が多いと腹痛、下痢などの胃腸障害を引き起こすことがわかっています。

エリスリトールについて研究結果を発表した博士は、キシリトールにも心臓発作や脳卒中のリスクを高める可能性があると結論づけました。エリスリトールは、低カロリーで血糖値やインスリン値への影響が少なく、心疾患や糖尿病、メタボなど血栓症のリスクが高い人にも適した甘味料といわれてきましたが、今後の研究を注視する必要があるでしょう」(大西さん)

存在しない甘味を科学的に作り出す

一方で、「エリスリトールと人工甘味料は別物で、一口にゼロカロリー甘味料と言っても区別が必要」と指摘するのは加工食品ジャーナリストの中戸川貢さんだ。

「エリスリトールは、海外では人工甘味料の一種に分類されていますが、日本では天然甘味料と位置づけられています。人間の体内でも生成されるからという理由で、添加物ではなく食品扱いになり、食品表示でも添加物として記されません。これまで、甘味料の中でも“安全”な部類とされてきました。

糖尿病など特定の病気にかかると内因性のエリスリトール濃度が高くなるので、心血管疾患発症との関連が指摘されていますが、食事で摂取することが問題だとは言い切れません」

ただし、大量に摂取することや過剰摂取が続くことへの注意が必要なのは事実。そのうえで、中戸川さんは次のように続ける。

「ゼロカロリー甘味料で気をつけるべきはやはり人工甘味料。エリスリトールやキシリトールなどの糖アルコールとは異なり、人工甘味料は天然には存在しない非糖質系の甘味成分を化学的に作り出したもので、ゼロカロリーや糖質オフを標榜する食品の多くに使用されています。食品添加物表示のガイドライン策定によって今年4月から『人工甘味料』や『合成甘味料』という表示ができなくなり、わかりにくくなりました。

1960年代に世界中で使用されていた人工甘味料「チクロ」。発がん性が指摘され、日本でも1969年に使用禁止となった(写真/AFLO)
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日本で使われているのはアスパルテーム、ネオテーム、アドバンテーム、アセスルファムK、スクラロース、サッカリンの6種類です。

WHOは昨年、“体重管理や肥満予防のために摂取することを推奨しない”“長年にわたって摂取した場合、脳卒中などの心血管疾患や2型糖尿病のリスクが上昇するなど望ましくない影響が出る”と指針を出しました。日本でも日本肥満学会が発行する『肥満症診療ガイドライン』で“積極的な人工甘味料の摂取は推奨されない”としています」

中戸川さんがそう話すように、WHOは世界中のあらゆる研究を精査したうえで、人工甘味料を含む非糖質系甘味料の摂取量が多いほど、脳卒中や高血圧を含む心血管疾患のリスクは32%、あらゆる原因による死亡リスクは10%増加し、早産のリスクは25%増加することなどを示した。大西さんも言う。

「体重減少効果についても、3か月以内であれば効果が見られるものの、半年以上の長期間になると有効とはいえないとしています。つまり、砂糖を人工甘味料に置き換えても長期的にはほとんど意味がないということ。にもかかわらず“健康やダイエットにいい”と思い込んで長期にわたって摂取することで、依存症のようになってしまう危険もあるのです」

砂糖と勘違いして血糖コントロールを乱す

ゼロカロリー甘味料の恐ろしさはそれだけではない。サッカリンのように海外で発がん性が問題視され、一度は日本で認可を取り消されたものもある。

海外でも人工甘味料に向けられる目は厳しくなっており、2016年には米ペンシルベニア州のフィラデルフィア市でソーダ税(砂糖や人工甘味料が多く含まれた飲料への課税)導入が可決された(写真/AFLO)
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「たとえばスクラロースは有機塩素化合物で化学式上ではダイオキシンと同じ。アスパルテームはIARCが4段階ある発がん性リスクの評価で、ガソリンエンジンの排気ガスや鉛と同じ『2B』に分類しました。

前述の通り、さまざまな病気のリスクもありますが、もっとも危惧されているのは腸内環境への悪影響です。人工甘味料は消化管で消化・吸収されにくく大腸まで届くので、腸内細菌の働きを阻害し、悪玉菌のえさとなって増殖させたり、腸に炎症をもたらす。腸のバリア機能も破壊して免疫力を低下させるとも指摘されています」(中戸川さん・以下同)

また、砂糖に比べて血糖値の上昇をゆるやかにするはずが、それがかえって体を蝕むことにつながる。

「人工甘味料を口にすると、脳は糖が体内に入ってきたと錯覚し血糖値を下げるインスリンを分泌しようとします。しかし実際に血糖値は上がらないので、脳は“血糖値を下げすぎてしまった”と判断し、血糖コントロールを乱してしまうのです。本来であれば必要のないインスリンを分泌することで、すい臓にも負担がかかる。

それを繰り返すと、オオカミ少年のように、本当に砂糖を摂取したときに血糖値を下げられなくなってしまう可能性もあります」

血糖値が上がらないのに「糖尿病」「肥満」

インスリンの分泌が増えることで、思わぬ病気を招くこともある。

「習慣的に人工甘味料を摂取することで、『耐糖能』という血糖値を正常に保つ能力に異常が生じ、糖尿病を発症させるケースが見られます。また、血糖値が上がっていないのにインスリンが分泌されて必要以上に血糖値が低下すると、脳は空腹感を覚える。結果的に肥満につながることすらあります」(大西さん)

ゼロカロリー甘味料が使われたお菓子や飲料を飲むくらいなら砂糖を使用した食品を摂る方がいいのかもしれない。大西さんが言う。

「エリスリトールについて研究結果を発表した博士も、血栓症のリスクが高い人は、むしろ砂糖が入ったお菓子を少量食べる方がいいとアドバイスしています。その方が、食べる量にも気を使うし、体にとって自然なことです」

砂糖を摂る場合は、種類に気をつけたい。

「白い砂糖は血糖値を一気に上げるうえに栄養価が低いのでおすすめしません。黒糖やはちみつ、メープルシロップなどで甘味を摂るのがいいでしょう。ゼロカロリー甘味料の歴史は浅く、体質によって合うもの合わないものもある。これからさらなる研究が重ねられていくので、情報を精査して自分に合う甘味料を選んでください」(中戸川さん)

ゼロカロリー甘味料なら健康だし太らない、だから甘いものを食べても大丈夫──そんな甘い考えはいますぐ捨てることが健康長寿には必要だ。

ゼロカロリー甘味料は選び方に要注意
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※女性セブン2024年10月10日号

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