歯科医ら9人の名医が明かした【絶対やらない歯のNG習慣】「スマホを見ながらの“ながら磨き”はしない」「ダラダラ食べはしない」「硬すぎる歯ブラシは使わない」

「80才時に親知らずを除く永久歯28本のうち20本が残っていれば、死ぬまで自分の歯で食べられる」。厚生労働省(当時は厚生省)が「8020運動」を掲げてから35年が過ぎ、人生100年時代が訪れた。最期まで健康な「歯」を保つための「やってはいけないこと」を総力取材する。
間違った知識を知らずに続けていることも少なくない
健康な歯が病気を退け健康寿命を延ばすことは、医学界の常識となりつつある。その代表格が「糖尿病」。今年6月からは診療報酬の改定により、糖尿病患者に対して歯科医院での歯周病の診断と治療が推奨されることになった。これは歴史的な変化だと話すのは、糖尿病専門医の西田亙さんだ。
「口内環境は、血糖値と密接に結びついています。口内で繁殖した細菌が出す炎症性ホルモンの『サイトカイン』が歯肉から毛細血管に入り込むと、インスリンの働きを弱めて血糖値を上げやすくする。
歯周病の人は糖尿病リスクが高く、一方で歯周病を治療すれば血糖値が下がることがわかっています」
また歯周病菌は、毛細血管に入り込むと心臓や肺、子宮などの血管を詰まらせ、心内膜炎や脳梗塞、低体重児などのリスクを高めるほか、認知症とも密接な関係がある。脳神経内科医で認知症専門医の長谷川嘉哉さんが指摘する。
「アルツハイマー型認知症の一因とされるたんぱく質の『アミロイドβ』は、歯周病菌によって蓄積量が10倍にも増えるといわれています。また、歯の根元にある『歯根膜』は咀嚼に合わせてポンプのように動き、ひと噛みごとに約3.5mlもの血液を脳に送り出す。重度の歯周病で歯が失われると咀嚼が不充分になり、脳の血流も低下します。事実、歯科衛生士による歯のクリーニングを1回行っただけで、認知症症状が改善した患者もいます」

だが、当たり前の習慣だからこそ、ついおろそかになったり、間違った知識を知らずに続けていることも少なくない。そこで、歯科医師のほか認知症や糖尿病の専門医など9人の名医に、「自分ではやらない」「患者にすすめない」歯のNG習慣について聞いた。
起床して朝食を食べ終えるまで歯を磨かないのは“危険”
「口内が不衛生な状態を放置する」のは極めて危険なことで、絶対にやってはいけないと、多くの名医が声をそろえる。武内歯科医院理事長の武内博朗さんが解説する。
「口から飲み込まれた菌のうち3割はそのまま大腸に移行し、腸内環境を悪化させる原因になります。さらに、口内に繁殖する悪玉菌の中には、『フソバクテリウム』など、大腸がんのリスクを高める菌もいます」
一日のうちで口の中がもっとも汚いのは「寝起き」。口内の雑菌は唾液の分泌量が減る睡眠中にもっとも繁殖するため、起床して朝食を食べ終えるまで歯を磨かないのは危険だ。佐久間デンタルクリニック院長の佐久間隆章さんが言う。
「飲食後は口の中が酸性に傾き、歯が少しずつ溶けていくので、口内はできるだけ『中性』に保つのが理想的。何も食べていない時間が長いほど、唾液が口内を中和してくれますが、ダラダラ食べたり、頻繁に間食したり、食べてすぐ寝たりすると、口内は酸性に傾き、雑菌だらけになっていくのです。
そのため、私は歯磨きは寝起きの1回と、毎食後3回、忘れずにしています。朝食を取る習慣がない人も、朝起きたらまず歯磨きをしてほしい」
ただし、雑菌をしっかり落とそうと長時間歯磨きをするのは“NG習慣”。
「歯ブラシを使って磨くのは適切な方法なら2分間ほどで充分。また表面ばかり歯ブラシで一生懸命磨いても意味がありません。歯は、表面・裏面・歯と歯の間の左右の面の“4面”と、歯と歯肉の溝の中を磨くこと。
歯と歯肉の間は、歯ブラシを歯肉に対して“ななめ45度”に当てて優しくかき出す。あとはフロスを使って、隙間の汚れを取りましょう」(武内さん・以下同)

栄養ドリンクやゼリー飲料は口内の細菌を爆発的に増やす
一方、口をすすぐための洗口液に日常的に頼っている名医は少なかった。
「口腔ケアの目的は、口の中にたまった歯垢が粘着質の膜状になった『バイオフィルム』を取り除き、善玉菌にリセットすること。バイオフィルムは菌が棲むシェルターで、虫歯や歯周病ばかりでなく、生活習慣病の要因です。洗剤をかけるだけではシンクのぬるつきが落ちないのと同じで、バイオフィルムは洗口液だけでいくらすすいでも落とせない。歯ブラシやフロスでこすり落としてから、洗口液を用いると効果的です」
特にバイオフィルムができやすいのは、糖類の一種である「スクロース(砂糖)」を食べた後。特殊な構造をした二糖類で、ベタベタして落ちにくいバイオフィルムができやすくなる。栄養ドリンクやゼリー飲料などは特に、口内の細菌を爆発的に増やしてしまう。
「口内を中和し殺菌する唾液は、食べ物を噛まなければ分泌されません。唾液が減ると口内環境が悪化し、歯周病が進行します。奥歯を失うと噛みづらくなり、炭水化物などのやわらかい食品が増加する一方で、野菜や肉類の摂取量が減少します。すると糖質の過剰摂取による高血糖から糖尿病、たんぱく質の摂取量低下から骨格筋量が減るサルコペニアを経由し、さらにはフレイルや認知症のリスクも上がります」
歯を磨くだけではなく専用ブラシで舌磨きも必要
バイオフィルムは舌にも付着するため、歯を磨くだけではなく専用のブラシなどでの舌磨きも忘れてはいけない。歯ブラシやフロス、舌ブラシ、歯磨き剤などの選び方も大切。ナムラ御殿山ガーデン歯科院長の名村大輔さんは、フッ素入りの歯磨き剤をすすめる。
「歯を強くして菌を抑制する『フッ素』入りのものは効果的。フッ素のおかげで日本人、特に子供の虫歯は30年前の5分の1にまで減少しているとされています」
だが、やはり自分でケアするだけでは限界があるのも事実。
「いくら自分で丁寧に歯磨きをしても、遺伝的に歯がもろい人や、唾液が口内を中和する力が弱い人などは、どうしても虫歯になりやすい。自宅での丁寧なケアと合わせて、最低でも3か月に1回は歯科医院で検診とクリーニングを受けてください。虫歯を1本治しただけで来なくなる患者さんも多いですが、歯科の定期検診をサボると、虫歯は風呂場のカビのようにあっという間に増える。
歯科医院は“歯が痛くなったら行く場所”ではなく“痛くなる前に、痛くならないように通う場所”です」(名村さん)
適切な口腔ケアを行えば、健康寿命が延びるだけでなく、生涯の医療費が1000万円以上も安くなる可能性もある。
「香川県歯科医師会の調査によれば、歯が20本以上残っている人は、0~4本しか残っていない人と比べて年間医療費が平均17万5900円も少ない。歯周病が増加する40~100才までの60年分に換算すれば、約1055万円もの差になります」(長谷川さん)
多少のお金をかけても予防に力を入れることが、健康のための投資になるのだ。毎日の習慣を見直してみると意外なNGが見つかるかもしれない。
「一生食べられる歯」のために!名医9人が絶対やらない【『歯』のNG習慣】
名医9人に聞いた、歯のプロだけが知っている『歯』のNG習慣は以下の通り。
大谷直さん(東陽町歯科医院院長)

「歯磨き剤に含まれるフッ素を洗い流してしまわないよう、歯磨き後はあまりうがいをしすぎないように気をつけています。歯にフッ素がしっかりコーティングされ、ツルツルした状態を維持できます。自身はもちろん、患者への定期検診の働きかけを怠らない。治療にとどまらず、こまめなチェックで変化を見つけて虫歯や歯周病を未然に防ぎます」
角田達治さん(アルカディア歯科・矯正歯科院長)

「糖質を摂取するたびに唾液が酸性化して歯からカルシウムやリン酸が溶出し、虫歯のリスクが高まる。ゆえに、できるだけ唾液が酸性化しないよう間食は控えています。一見歯によさそうなデンタルガムも、効能のある薬剤は口の中で薄まり、殺菌作用はほとんど見込めません。水圧で口腔内の歯垢を除去するウォーターピックも不確実なので、歯ブラシや歯間ブラシ、フロスで確実な歯垢除去を毎日欠かさないことが大切です」
佐久間隆章さん(佐久間デンタルクリニック院長)

「食事はもちろん、好きなお酒も必ず時間を決めて飲み、『ダラダラ食べ、ダラダラ飲み』は絶対にしません。食べ終わった直後から菌が増殖し始めるため、歯磨きもできるだけ食後3分以内に行うように意識しています。歯磨き剤は研磨剤を多く含むものを使うと歯の表面が削られ、かえって着色汚れがつきやすくなるため、避けています」
武内博朗さん(武内歯科医院理事長)

「昔は食事中の飲み物は禁止されていました。お茶やジュースで食べ物を流し込むと咀嚼回数が減り、唾液の分泌能力が激減します。さらに“丸のみ”は消化不良を起こし、腸管が汚れてしまいます。一方、洗口液をいきなり使うと粘膜の善玉菌ばかりを減らしてしまうので、口内の菌の皮膜であるバイオフィルムをこすり取ってから使いましょう」
照山裕子さん(歯学博士・東京医科歯科大学非常勤講師)

「歯磨き・舌磨きともに力を入れすぎるのはNG。シャカシャカ音が出ないくらいの力で歯を磨き、舌は歯ブラシではなく舌専用ブラシか不織布ガーゼで優しくこすります。忙しくて毎食後に歯磨きができなくても、ぶくぶくうがいは絶対に忘れません。腸内環境の改善が期待できるとされる乳酸菌サプリメントは根元虫歯のリスクを上げる可能性を鑑み、摂り方に注意しています」
名村大輔さん(ナムラ御殿山ガーデン歯科院長)

「睡眠中は唾液がほとんど出ず、一日のうちでもっとも虫歯菌や歯周病菌が増えやすいため、寝る前は必ず忘れずに歯を磨きます。治療時は、歯の神経を取ったり、審美目的で歯を削ることは避けた方がいい。神経を取ると痛みを感じなくなり虫歯の進行に気づけなくなるだけでなく、水分が失われて歯がもろくなり、そうして縦に割れると抜歯しなければならなくなります。自分の歯が20本以下になると急激に歯が失われるので注意しましょう」
西田亙さん(にしだわたる糖尿病内科院長)

「硬すぎる歯ブラシは歯肉を傷つけるので使いません。“磨けた感”ばかりが重視されている発泡剤使用のものなど、市販の歯磨き剤は避け、歯科医師や歯科衛生士に選んでもらった自分に合ったものを医療機関で購入しています。歯並びがよければ歯への負担なく噛めるようになり、虫歯や歯周病のリスクも減らせるため、成人に対しても歯列矯正はためらわない。虫歯予防、糖尿病予防のため、間食や夜食を取ったり、甘いもので食事を済ませることは絶対にしません」
長谷川嘉哉さん(脳神経内科医、認知症専門医)

「口内細菌を増やさないよう、口呼吸をしないことと、口の中で舌が上あごにぴったりくっつき、舌先が上の前歯の裏側に触れることを常に意識しています。磨き残し予防と脳トレもかねて、片手だけでの歯磨きはせず、片手で磨き終えたら歯ブラシを持ち替えてもう一度磨くようにしています」
福井只美さん(アイ矯正歯科クリニック副院長)
「磨き残しがないよう、テレビやスマホを見ながらの『ながら磨き』はしません。必ず鏡の前で、自分の歯を見ながら磨く。歯肉が傷つくので、太すぎるフロスは使いません」
※女性セブン2024年10月17日号