今年の夏も、命にかかわる猛暑だった。熱中症の脅威は過ぎ去り、今度は乾燥の季節が到来した。「乾き」が猛威をふるういまこのとき、あなたの体の中はカラカラに乾き、命が蝕まれているかもしれない。
もっとも腸が乾燥する秋、シニアほど注意が必要
厳しい暑さがようやく去り、過ごしやすい気候にホッとしたのもつかの間。朝晩はグッと冷え込み、日中の空気も湿度が低下して乾燥しやすい季節がやってきた。手指や顔がカサカサしてきた人もいるだろう。だが、乾いているのは肌だけではないかもしれない。
「秋は1年でもっとも腸が乾燥しやすい季節」だと話すのは、薬剤師で国際中医師の大久保愛さんだ。
「秋に腸が乾燥する大きな理由の1つは、暑さが落ち着いて水を飲む量が激減するからです。涼しくなって夏ほど汗をかかなくなる一方、空気は乾燥しているので夏以上に水分補給に気をつける必要があります。年を重ねるほどのどの渇きに鈍感になりやすいので、シニアほど要注意。
また、空気が乾燥すると唾液の分泌量が減って味覚が鈍り、シチューやグラタンといったこってりした味つけの料理が食べたくなるのも要因に。濃い味の食べ物は塩分が多いので、水分代謝が低下しやすくなります」(大久保さん)
また、朝晩の気温差も腸に悪影響を与える。松生クリニック院長の松生恒夫さんが解説する。
「1日の気温差が10℃を超えると、気温差によって腸の動きを司る自律神経が乱れやすくなり、腸の機能が低下します」
外気温と湿度がもたらす「腸の乾燥」は、さまざまな不調を招く。
「水分が減って“腸の砂漠化”が起きると、まず便秘になります。正常に機能していれば、小腸で栄養が吸収された食べ物の残がいが大腸に送り出されて次第に固まり便になります。ところが腸が砂漠化している状態では、本来は泥状であるはずの食べ物の残がいが固形化しやすく、排出されにくくなるのです。
特に、夏バテで食欲が落ちていた人は、水分と食物繊維が不足したまま秋を迎えています。砂漠化がすでに進んでいて、腸内環境が悪化している可能性があります」(松生さん)
幸せホルモンは大半が腸でつくられている
腸は“第2の脳”ともいわれ、腸内環境の悪化はメンタルにも大きな影響を与えるとされる。特に感情のコントロールなどに深くかかわり「幸せホルモン」とも呼ばれる「セロトニン」は、まだ研究が進められている部分も多いが、その95%が腸でつくられるといわれている。腸でつくられたセロトニンは直接脳には届かないものの、腸内でぜん動運動の促進などを行うほか、間接的に脳機能にかかわっているとも。
「腸内環境が悪くセロトニンが充分につくられないと、抑うつ的になりやすいほか、不眠や免疫力の低下などを招く可能性があります。
セロトニンは日光を浴びることで生成されやすくなるため、日照時間が短くなる秋はただでさえ分泌量が減りやすい点も、秋のメンタル不調に関係していると考えられます」(大久保さん・以下同)
放置すると冬に悪化
便秘や気分の落ち込みなど、腸が乾燥しはじめているサインをキャッチしても、それを放置して冬を迎えれば事態はさらに悪化し、深刻な病気につながるかもしれない。
「夏の疲れがとれないままに秋や冬を迎えるのは危険です。東洋医学では冬は老化を加速させる季節ともいわれており、年末年始の冷え込みや忙しさ、そして暴飲暴食は腸内環境の悪化に拍車をかけます。
東洋医学では、大腸は肺と表裏一体と考えられていて、大腸の不調は肺の不調も引き起こす。肺は呼吸器だけでなく、免疫や水分代謝、気力を養うなどの働きがあるとされ、腸の乾燥は全身のさまざまな不調やさらなる乾燥を招く悪循環に陥ります」
腸は有害物質が体内に侵入しないようブロックするバリア機能を担っているため、乾燥による腸内環境の悪化はバリア機能の低下を意味する。すると、体内に侵入した毒素の解毒を担う肝臓にかかる負担が大きくなる。そうして肝臓の働きが悪くなると、次は腎臓が解毒の役割を担うようになり、腎臓を酷使するという“ドミノ倒し”のような現象が起こるのだ。
「砂漠化して働きが停滞した腸は老廃物をため込みやすくなるので、結果として肌荒れも起こります。
老廃物によってたまったガスは胃を圧迫し、胃炎や逆流性食道炎を招くほか、大腸がんの発育の促進を加速化させる可能性もあると考えられています」(松生さん・以下同)
腸のカサつきは重篤な病のリスクとなるため、早めの対処が必要なのだ。
秋でも「1.5L」の水分補給
最悪の事態を未然に防ぐためには一刻も早く、砂漠化した腸をうるおさなければならない。基本はやはり、適切な水分補給だ。
「成人が1日に必要とする水分は約2.5L。水分は食事からも摂ることができるので、飲み水で摂取するべき量は約1.5Lほど。それだけの水を飲んでも、そのうち90%は小腸で吸収されるため、大腸には届きません。だからこそ、意識的に水を飲むことが大切なのです。
利尿作用が高く脱水を招きやすいカフェインを含むコーヒーや肝臓に負担をかけるアルコールは適さないので、水分補給にはノンカフェインのお茶や水を飲んでください」
次に大切なのは、朝食を欠かさないこと。腸が大きく動く「大ぜん動」がもっとも強く起きるのは起床後。朝、起きてから体に食べ物や水分が入ることで胃・結腸反射が起こり、ぜん動運動が活発化する。
また、食物繊維も欠かせない。なかでも朝食で摂取すべき栄養素は「水溶性食物繊維」。腸内でゲル状になり、老廃物をからめとる働きがある。
「朝食で水溶性食物繊維を摂ることで腸をうるおすことができるほか、体内時計がリセットされて体が『朝だ』と認識し、自律神経を整えることにつながります。加えて、朝食ではたんぱく質も摂取しましょう。セロトニンの材料となるトリプトファンを補い、腸内環境を整えることができます」(大久保さん)
一見、手軽に水分と食物繊維を摂取できそうだが、朝食をグリーンスムージーだけで済ませるのは避けるべきだ。
「コップ1杯のスムージーで摂取できる食物繊維量はそれほど多くなく、たんぱく質不足に陥りやすいうえ、腸を冷やしてしまう。朝食で野菜を摂るには、野菜スープやみそ汁の方がいいでしょう」(松生さん・以下同)
大久保さんは、「理想的な朝食は、豚汁に焼き鮭、サラダ、納豆といった和食」だとアドバイスする。
主食は白米でもいいが、おすすめは小腸の機能をアップさせるグルタミンと、水溶性食物繊維が豊富な「スーパー大麦」を混ぜること。
「小麦は腸内環境を悪化させやすいので、主食にはパンや麺よりも米を選んでほしい。玄米は食物繊維豊富な“腸活食”として知られていますが、実は不溶性食物繊維が多く、水溶性食物繊維が白米より少ないので、腸内環境が乱れている人が食べ続けるとかえって便を硬くし、腸内環境をさらに悪化させる可能性があります。特に朝は消化に時間のかかる不溶性食物繊維はおすすめできません。
不溶性食物繊維と水溶性食物繊維は『2:1』の割合で摂るのがベスト。アボカドやごぼう、納豆、海藻類、きのこ類などのほか、両者がもっとも理想的な割合で含まれている代表格はキウイ。1個で1.4~2.6gもの水溶性食物繊維を摂ることができます」
「無調整豆乳」が腸をうるおす
昼食と夕食では、朝食で不足した栄養素を補うことを心がけてほしい。便をやわらかくする作用のあるマグネシウムや、腸内の善玉菌のえさになるオリゴ糖を積極的に摂ろう。
「マグネシウムは、干しえびや干し柿、ひじきや昆布などの海藻類、さつまいもなどのいも類に豊富。オリゴ糖を摂るには玉ねぎやにんにく、ごぼうなどがおすすめ。また豆乳はマグネシウムとオリゴ糖の両方を豊富に含んでいます。特に栄養素が豊富な無調整豆乳を選ぶといいでしょう。
食物繊維をえさに活性化する植物性乳酸菌も、積極的に摂ってほしい。みそ汁や漬けもの、キムチなどに豊富に含まれています」
大久保さん考案の「手作り薬膳ふりかけ」なら、マグネシウムなどのミネラルと食物繊維を効率よく摂ることができるので、ご飯はもちろんサラダにかけて食べるのもおすすめだ。
「1日あたり両手のひら2つ分の淡色野菜と、両手のひら1つ分の緑黄色野菜、海藻類、ごまなどの種実類を意識して食べてください。
また、丸ごと食べられる小魚のほか、骨ごと煮込んだ鶏だしの鍋やスープは、腸の乾燥を防いで免疫力を強化するビタミンA、D、亜鉛、グルタミンといった栄養素を水分と一緒に摂ることができますよ」(大久保さん)
夕食は寝る3時間前までに済ませる
夕食を寝る3時間前までに済ませておくのも大切なポイント。
「空腹時に十二指腸から分泌される『モチリン』というホルモンは消化管に強い収縮を引き起こすことで、消化管内をきれいにし、次の食事を受け入れる準備をします。おなかがいっぱいのまま寝るとモチリンが分泌されず、朝食をしっかり食べることができないので、夜9時以降の食事は控えましょう。
また夜はぜん動運動が弱いので、夕食には腸をうるおし、腸内環境を改善する食品の中でも特に消化のいいものを。『オリーブオイル+納豆キムチ』や、甘いものが欲しいときは『甘酒ヨーグルト』などがおすすめです」(松生さん)
手にはハンドクリーム、腸にはたっぷりの水分で、季節の変わり目も元気に美しく乗り越えよう。
※女性セブン2024年11月7日号