健康・医療

《最新研究が続々発表》「タウリン」が長寿のカギを握る?「マウスの研究で寿命が12%延びた」「40才以上の人では摂取量が多いほど筋力増加」

ジョギングをしているシニアの男女
最新研究で判明したタウリンの驚くべき健康パワーに注目(写真/PIXTA)
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日本の百寿者は過去最多の9万5119人(9月17日厚生労働省発表)。65才以上は約3625万人で、総人口に占める割合は29.3%と世界最高に。長寿の理由のひとつが和食といわれているが、魚介類に多く含まれる「タウリン」がカギではないかという研究結果が次々と発表されている。明らかになったタウリンの驚くべきパワーを追う。

タウリンは老化を遅らせる

昨年6月、タウリンの老化防止に関する研究結果が科学学術雑誌『サイエンス』で発表され、大きな話題となった。毎日、マウスにタウリンを補給したところ、寿命が延びたというのだ。国際タウリン研究会理事で福井県立大学生物資源学部教授の伊藤崇志さんが説明する。

タウリンを補給したマウスの寿命が延びたことを示すグラフ
タウリンを補給したマウスの寿命が延びた
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「米コロンビア大学の研究チームは、動物実験によりタウリンにアンチエイジング効果があることを発表しました。人間の45才前後に相当するマウスに毎日タウリンを補給したところ、メスのマウスは12%、オスは10%寿命が延びたというのです」(伊藤さん・以下同)

これは人間に置き換えると7~8才もの延命に相当するというから驚きだ。伊藤さんが続ける。

「私が2000年から行ってきた研究でも、タウリンが欠乏したマウスでは細胞の老化が促進されて短命になることがわかっています。タウリンには老化細胞の増加スピードを遅らせる効果があり、それが寿命を延ばしているのではないかと考えられます」

ヒトの体内で合成できる

そもそもタウリンとはどういう物質なのか。大正製薬の研究員で生物工学博士の堂本隆史さんが説明する。

イカや牡蠣などタウリンを多く含む食品のイラスト
タウリンを多く含む食べ物(イラスト/いばさえみ)
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「タウリンはアミノ酸の一種で、人間の体内では主に肝臓で生合成されます。通常のアミノ酸のほとんどはたんぱく質の一部になっていますが、タウリンは単体で全身のあらゆる臓器の細胞に存在しており、体重の0.1%を占めるといわれています。体や細胞を正常な状態に保つ恒常性の作用をもち、生命維持に必要な物質と考えられています」(堂本さん)

実はこのタウリン、すべての生き物が体内で合成できるわけではない。

「ヒトやネズミは体内で合成できても、ネコやアリクイなどはできません。そのためキャットフードにはタウリンが配合されており、アリクイはタウリンが豊富なアリを大量に食べる必要があるのです」(伊藤さん)

もちろん人間も食べ物を食べることでタウリンを補給できる。かきやたこ、いか、かつおなどの魚介類にはタウリンが多く含まれており、それこそが、「和食が長寿の秘訣」といわれるゆえんだ。

老年期を元気に過ごすために肉食をすすめられることが多いが、実は牛や豚、鶏などの食肉に含まれるタウリンは多くない。

筋力維持や生活習慣病予防にも

今年7月には、国立長寿医療研究センターと大正製薬、北翔大学の共同研究で、タウリンに関する新たな解析結果が発表されたばかり(*1)。

65才以上の8年間の膝伸展筋力変化量と1日あたりのタウリン摂取量を示すグラフ
65才以上の8年間の膝伸展筋力変化量と1日あたりのタウリン摂取量(n=273)
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「40才以上の人は、タウリン推定摂取量が多い人ほど足の筋力が増加していることがわかりました。また、65才以上に限定すると、タウリン推定摂取量が多い人は8年間における足の筋力の減少幅が小さく、筋力が維持される傾向が示されていたのです」(堂本さん)

先のコロンビア大の発表では、中年期のアカゲザルに6か月間毎日タウリンを補給したところ、体重の増加が抑えられ、空腹時血糖値や肝機能の数値が改善。足の骨密度等が高まったことも明らかになった。

このほかにも、近年の研究でタウリンによるさまざまな効果が報告されている。

糖尿病の合併症を予防

「マウスやラットによる研究では、タウリンを摂取すると、糖尿病の合併症である腎症、網膜症、白内障、神経炎、動脈硬化に予防効果がありました。人間の場合でもタウリンは1型糖尿病患者の血管機能を改善することから、同様の効果が期待できます」(伊藤さん)

血圧やコレステロール値を下げ、動脈硬化を予防

タウリンにはコレステロール値を下げる作用があるため、過剰なコレステロールが原因で起こる血管の劣化や動脈硬化を防ぎ、心筋梗塞、脳梗塞の予防、高血圧の改善にもつながる。

肝機能を高める

肝臓での解毒に必要な胆汁の分泌を促して肝細胞を活性化し、解毒・代謝を促進して老廃物の排出を促す作用がある。つまり、ただ寿命が延びるだけでなく、生活習慣病等の疾病予防効果が期待できることから、タウリンの摂取は健康寿命の延伸につながるといえる。

経口摂取で健康増進

ヒトは体内でタウリンを合成できるとはいえ、コロンビア大の研究では、その量は加齢により低下し、血中濃度は60才で5才時の約3分の1になるというデータも。

一方、現・武庫川女子大学健康科学総合研究所客員教授の家森幸男さんらの研究によると、日本人は尿中タウリン排出量が圧倒的に多く、タウリン排泄量が世界平均以上の地域は、肥満、高血圧、高脂血症(脂質異常症)のリスクが明らかに低いことが証明されているという(*2)。とはいえ、日本人の魚離れが著しく、昨今はタウリンの摂取量が減っていると堂本さんは言う。

路上にいる魚をくわえた猫
体内でタウリンを合成できないネコはタウリンが豊富な魚介類やネズミを追いかけるのも納得(写真/PIXTA)
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「タウリンの健康効果を期待するなら、1日平均300mg以上摂取するのが望ましいとの報告もあります。また、タウリンは水溶性ですから、生食かスープなどにして汁ごと食べるのがおすすめです」(堂本さん)

食品から摂る場合、生がきなら大粒2~3個、あさりのみそ汁なら身も汁も飲み干して2分の1杯分、生だこの刺し身なら寿司ネタのサイズで5~6枚食べることになり、これを毎日続けるのはなかなか難しい。

「タウリンは医薬品に分類されるため、サプリメントや健康食品として摂ることはできませんが、医薬部外品のドリンク剤や錠剤で摂取する方法もあります。摂りすぎても速やかに尿と一緒に排出されるので体に蓄積することはなく、特に大きなデメリットは報告されていません」(伊藤さん)

タウリン配合のドリンクといえば、「ここぞ」というときのパワー補給や疲労回復のために摂取していたが、どうやら“健康長寿のカギ”でもありそうだ。

*1…40才以上の男女1454名を対象に、タウリン摂取量と体力指標(膝伸展筋力、長座位前屈、閉眼片足立ち、最大歩行速度)の8年間の変化量との関連を縦断的に解析したもの。

*2…出典:Yamori et al. Adv Exp Med Biol. 1993;403:623-629. および、Yamori et al. J Biomed Sci. 2010;17(Suppl 1):S6.

※女性セブン2024年10月17日号

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