2005年、認定NPO法人「エンディングセンター」は、東京都町田市にある霊園「町田いずみ浄苑」に「桜葬墓地」を開設した。桜葬は樹木葬の一種で、桜の木を墓標にして、周囲の個別区画に遺骨を直接土に埋める葬法である。エンディングセンター理事長で、“墓友(はかとも)”という言葉の生みの親である社会学博士の井上治代さんが語る。
「桜葬墓地を契約した人たちは『墓友』になり、死を迎える前から交友関係を結んで仲間意識を育みます。一人ひとりまったく別の人生を歩んできた人たちが墓を介して出会い、関係性を持つのです」
まったく別の人生を歩んできた者同士が「墓」を通じて出会い、「友」になる。家族という「血縁」に縛られず、出会いという「結縁」でつながっていく。死後の世界を共に生きる友人として「墓友」を持った人たちはどんな思いを抱えているのか。【全4回の第2回。第1回から読む】
「墓友」との樹木葬を選んだそれぞれの理由
実際に桜葬を選んだ人たちは何を思うのか。
「土にそのまま埋められて、自然に還りたいなって漠然と思っていました」
そう語るのは榎本三枝子さん(72才)だ。親戚一同が榎本家の墓に入るのは当然の流れだったが、自らの意思で桜葬を選んだ。
「冷たい石の下の骨壺の中で骨が残り続けることが好きではなく、土に埋められた遺骨が何十年か後に溶けて養分になり、自然に還るのが理想でした。
父が亡くなった際に桜葬を知り、見学に行きました。夏の暑い日でしたが、高台の墓地を吹き抜ける一陣の爽やかな風に背中を押された気がして、心が動きました。母に私の気持ちを伝えると“あなたの好きにしたらいい”と賛成してくれたので契約を決めました」(榎本さん・以下同)
すぐに亡き父、そして母と自分の将来のために2区画を契約した。
契約者が桜葬を選んだ理由を「『桜葬』に関する会員意識調査」(井上治代・科研費による研究)の結果で見ると、1位は「自然(土)に還ることができるから」(74.1%)。以下、「継承者がいなくてもいいから」(57.5%)、「跡継ぎのことなど子供に負担がかかるので、自分の代で終わりにしたいから」(39.7%)が続く。
同じく桜葬を選んだ山根千代さん(79才)も自然志向だ。61才で仕事を退職してから体調を崩し、「そういえば私、お墓がないんだ」と不安になり、新聞の特集記事で知った桜葬の説明会に参加。希望の区画にエントリーすると、購入希望者のうち1人だけ当選した。
「家に縛られて、その家を背負って石碑の下に眠るのと、土に還るのと何の違いがあるんだろうって。人間は亡くなったらみんな同じだから後悔はなく、桜葬はすばらしいお墓だという思いがどんどん広がっています」(山根さん)
墓の購入を介して墓友とめぐり合う
ほかにも自分で墓を見つけようとする女性にはさまざまな思いがある。10年前に夫が他界した埼玉県在住のAさん(67才)が話す。
「義両親の介護を放棄したくて『死後離婚』しました。実家の墓に入るつもりでしたが、子供のいない実兄が継承者がいないことを理由に墓じまいし、結婚して遠方に住む息子も新たに墓を持つというので、自力でお墓を見つけることにしました。いまは霊園の販売ツアーに参加していますが、同じような境遇で参加する女性が多くて驚いています」
実際に墓の購入を介して墓友とめぐり合うケースもある。
未婚者の「おひとりさま」である栃木県在住のBさん(58才)は一昨年に行われた両親の十三回忌の席で、兄から「お前はうちの墓に入るつもりなのか」と言われたのを機に、自分の墓を持つことを決意。地元葬儀社が開催する「共同墓地説明会」に足を運んだ。その場で知り合ったのが、夫を亡くして3年になる女性(65才)だった。
「ずっと義両親にいじめられたので婚家の墓には絶対入りたくないというかたで、墓を探す訳アリの女同士、すぐに意気投合して一緒に共同墓地に入ることを決めました。
いまはエンディングノートの内容についても話し合い、レジャーや食べ歩きも楽しんでいます。お互いの弁護士に死後の扱いに触れた遺言書も預けました」(Bさん)
墓参りをきっかけに墓友と出会うこともあるという。
「ひとりでお参りに来たかたが、自分と同じように参拝されているかたと一緒になり、帰り道で連絡先を交換して自然発生的に墓友になるケースも聞きます」(井上さん)
昔からの友人とともに墓探しをしているのは、内縁の夫がいる茨城県在住のCさん(71才)。
「40才を過ぎてから、3人の連れ子がいる家に後妻に入った親友と“お互いに入る墓がないね”と言い合って、一緒に入るお墓を探しています。
最近、適当な霊園が見つかり、土地や墓石、永代供養料など総額400万円の費用を2人で折半する予定です」(Cさん)
(第3回に続く。第1回から読む)
※女性セブン2024年11月21日号