健康・医療

《変わりつつある更年期治療》ホルモン補充療法(HRT)の最新事情 何科を受診すべき?治療の種類、注意点は?

ソファで頭に手を当てつらそうにしている女性
ホルモン補充療法がいますすめられている理由とは?(写真/GettyImages)
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ホットフラッシュや不眠、不安、手指の変形など、200以上あるとされる更年期の症状。「女性なら誰もが通る道」とがまんする人も少なくないが、いま画期的な治療法として普及しているのが、ホルモン補充療法(以下・HRT)だ。HRTに関する最新の実態をレポートする。

HRTに関する誤情報がアメリカで発表

ホルモン補充療法とは、更年期の急激な女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の減少に対し、主に少量のエストロゲンを補充するもの。1960年代にアメリカで普及し始めたものの“乳がんのリスクが高まる”という指摘や、「更年期は病気じゃない」といった日本古来の考え方などの影響で、欧米に比べて日本での普及率はかなり低い。これに対し、

「HRTを行うと乳がんのリスクが高まる、というのはまったくの誤解です。長期データの検証で乳がんのリスクは非常に低いとされており、誤った認識が更年期の女性を救いの道から遠ざけ、結果的にキャリアを失うきっかけにもなっています」と語るのは、女性の健康とメノポーズ協会理事長・三羽良枝さんだ。

「HRTは、女性ホルモンの減少によって起こるさまざまな不調を改善する治療法です。日本では更年期症状を“気持ちの問題”とする傾向にありましたが、発症の原因には、気質や体質の問題と環境的な問題に加えて、卵巣機能の低下や停止が挙げられます。

特に卵巣機能の低下や停止による女性ホルモンのエストロゲン不足が心身に与える影響が大きく、気の持ちようでどうにかなるものではありません」(三羽さん・以下同)

HRTが乳がんのリスクを高めるとの情報が流布したのはなぜか。

「発端になったのは、2002年にアメリカで、『HRTを5年以上続けると乳がんの発症率が1年間で1.26倍になる』という研究報告(WHI〈Women’s Health Initiative〉による研究報告)が発表されたため。しかし、この研究に協力した女性のHRT開始平均年齢は63才。高血圧や平均BMI値28.5の肥満、喫煙といった健康問題をすでに抱え、乳がん、心筋梗塞などの発症リスクの高い人たちが参加していました」

その後、専門機関がこの研究を再検証。その結果、HRTによる乳がんのリスクは、肥満やアルコール摂取などによるリスクと同程度か、それ以下と結論づけられたのだ。

HRTを始めるための流れを説明した表
HRTを始めるには
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更年期に対する認識から改めよう

HRTには、更年期症状を軽減、解消するだけでなく、骨粗しょう症を予防・改善し、代謝を高め、粘膜を守るなど、さまざまな効果が期待できるうえ、大腸がん、胃がん、食道がんなどのリスクを低下させることがわかっている。

海外での普及率は高く、たとえばスウェーデンでは、医療従事者の女性の80%近くがHRTを受けており、また、閉経を迎える妻に対し夫から、HRTを検討してみてはとの提案があるほどだという。

「少し前の研究報告ですが、アメリカでも一般女性の40%近くがHRTを受けているのに対し、日本の普及率は2%以下。更年期症状は気の持ちよう、すべての女性が経験するのだからがまんしないと……といった科学的根拠のない考え方は捨て、正しい対処法を知ってほしいです」

50才以降の不調はとにかくまず婦人へ

HRTを希望する場合、何科を受診すべきなのか。

「頭痛は内科、関節痛は整形外科、乾燥は皮膚科など、個々の症状に合わせた診療科に行きがちですが、50才を過ぎたらまずは婦人科に相談を。更年期症状は多岐にわたるので、いずれも更年期が原因の可能性があります」(産婦人科医の八田真理子さん・以下同)

特にHRTを受けるなら、婦人科や更年期外来が適切。

「落ち込みやイライラ、不眠やうつなどの心の不調の場合、まずは心療内科や精神科を受診しがちですが、更年期症状であれば、抗うつ薬や安定剤よりHRTの方が改善度が高く、早ければ1週間ほどで効果が表れます」

抗うつ薬を長期間使用した後にHRTに移行した場合、最初からHRTだけでの治療に比べて効果が表れるまで時間がかかるため、50代の心の不調も、まずは婦人科に相談するのがおすすめだという。

国内で使用されている主なHRT製剤一覧
国内で使用されている主なHRT製剤一覧
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女性にとって福音ともいえるHRTだが、治療には注意点もある。

「HRTの製剤には、のみ薬、貼り薬、塗り薬の3種があり、患者の症状や体質、ライフスタイルなどに合わせて、医師と相談して決めます。たとえば、のみ薬は服用が楽ですが、多少肝臓に負担をかけることもあります。貼り薬やジェルは皮膚から吸収されるのでおすすめ。貼り薬は2~3日おきに貼り替えるだけです。皮膚が弱くかぶれやすい人なら、ジェルタイプの方がトラブルが少ないですね」

子宮のある人は必ず黄体ホルモン製剤を併用するが、摘出手術などで子宮がない人は、エストロゲン製剤だけでOK。治療中に出血することもあるが、定期的に婦人科で診察を受けていれば、投与法や投与量を変えることでコントロールできるという。自分に合った治療法を選んでほしい。治療費は65才までは一般的に保険適用となり、月2000~3000円程度だ。

◆教えてくれたのは:公益社団法人女性の健康とメノポーズ協会理事長・三羽良枝さん

1996年、現協会の前身となるボランティア団体「メノポーズを考える会」を設立。以後、国内外で健康調査などの活動を展開し、女性の生涯を通した健康作りとよりよい働き方の啓発とサポート活動を実施。女性の健康とメノポーズ協会https://www.meno-sg.net

◆教えてくれたのは:聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田理事長・院長・八田真理子さん

順天堂大学、千葉大学医学部附属病院、松戸市立総合医療センターなどを経て1998年、現クリニックを開業。著書に『自分でできる! 女性ホルモン高めかた講座』(PHP研究所)、『産婦人科医が教えるオトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)など多数。聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田 http://juno-vesta-clinic-hatta.net/

取材・文/上村久留美

※女性セブン2024年11月21日号