紫乃ママ「貶める人がいるところに、心がずたずたになるまでいなくていい」
紫乃ママ:そうね。言い方もあると思いますけどね。うちは昼間から営業しているから、心も体も折れて休職している人も訪れます。「休職するまで働かなきゃ良かったのに」と思うけど、言ってもしょうがないから言いません。でも、ここで立て直したとしても、同じことの繰り返しでは意味がないから「元気になったらオーバーフローしている仕組みを考え直そう。変えないと、同じことの繰り返しだよ。仕組みを変えることは会社の成果になるし、心ある上司もいるだろうから、やってみたら?」と伝えます。
シンシアさん:それは、ちょっと違う。弱い人や壊れている人に言っても何も変わらない。権力者に話をしても、たぶん変わらない。そういう職場は、こっちから捨てて社会から淘汰されればいい。
紫乃ママ:でも日本の企業ってあまり淘汰されないじゃないですか?
シンシアさん:時間の問題よ。
紫乃ママ:少しずつ淘汰され始めているのかもしれませんね。私が大学院へ行ってた時、ものすごく優秀だった若者たちは日本の大企業を選びませんでした。企業側は「ネームバリューで入ってくる人たちがいるから大丈夫」と思い込んでいるけれど、グローバルな視点で見ると、かなり質が低下しているはずです。
シンシアさん:入社しても2、3年で辞めますよ。そこで辞められない人たちはお金が理由だと思います。
娘は新卒で外資系金融会社に入って月曜から日曜まで働いて高い給料をもらっていました。平日は午前1時か2時に帰宅して、その後もニューヨークから電話がかかってきたりしていました。午前7時にタクシーで帰宅して、タクシーを待たせたままシャワーを浴びて会社に戻ることもありました。高い給料もネームバリューもあるけれど、子育てができる環境では無い。でも、それだけ給料が高ければ入社したい人はいます。次の道を選べない人は自分の価値を下げたくないだけなんですよ。下げればいくらでも仕事はある。
紫乃ママ:おっしゃる通り。みんな「仕事がない」と言うけれど、いくらでもある。自分を貶める人がいるところに、心をズタズタにされてまでいる必要はない。ずっと会社以外の人たちと交流せずにきて、ほかに選択肢があることを知らない人もいます。
シンシアさん「金の鳥かごか、竹の鳥かごか」
シンシアさん:お金の使い方の問題もあると思います。娘は外資系金融会社にいた3年間で2000万円ほど貯めて退職しました。でも、いまだにそこで働いている彼女の同僚は、ひいひい言いながらマセラティに乗って、タワーマンションに住んでいます。タワマンに住んで自分の鳥かごを作ってしまうけど、金の鳥かごを作るか、竹の鳥かごを作るかが重要。高級なかごを作ったら、ずっとそこで生きなくちゃいけないから、身軽に生きたい人は作りません。
紫乃ママ:付き合う人も変わるしね。
シンシアさん:リスクの問題なのに、みんな「終身雇用だ」「安定だ」とまったく計算しない。「自分はここにたどりついたから、この階段を上がって、ずっとここにいるんだ」と人生を甘く見ている。
◆薄井シンシアさん
1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社。65歳からはGIVEのフェーズに。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia
◆木下紫乃さん
和歌山県出身。慶應義塾大学卒業後、リクルート入社。数社の転職を経て、45歳で大学院に入学。2016年に中高年のキャリアデザイン支援の人材育成会社「ヒキダシ」を設立。2017年、東京・麻布十番に週1回営業する「スナックひきだし」を開店し、2020年に赤坂へ移転。スナックのママとして、のべ3000人以上の人生相談を聞く傍ら、55歳で社会福祉士の資格を取得。現在は毎週木曜日14時〜18時に在店。離婚2回、家出2回、再婚3回。キャッチフレーズは「どこに出しても恥ずかしい人生」。近著に『昼スナックママが教える 45歳からの「やりたくないこと」をやめる勇気』(日経BP)。@Shinochan6809
撮影/小山志麻 構成/藤森かもめ
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